高度なDC/DCコンバータによる産業・医療・輸送用電源システム設計の簡素化

著者 Majeed Ahmad

DigiKeyの北米担当編集者の提供

産業、輸送、および医療用アプリケーションで電子機器の使用が増加するにつれ、これらのアプリケーションをサポートする電力システムの設計者は、物理的および電気的な要件が厳しい環境において、高い性能を保証しながら、規制や安全上の厳しい要件を満たすことが要求されています。それだけではなく、設計者は、かつてないほど厳しい予算やスケジュール上の制約に対応する必要もあります。

DC/DCコンバータは時とともに著しく進歩し、このようなさまざまな要件に対応するようになっています。これらのコンバータは、小型化されることによってさらに高い電力密度に対応し、スペースを節約し、幅広い入力範囲を実現するようになっています。そのため、在庫を簡素化して、部品表(BOM)を小規模にすることができます。設計者のタスクを簡単にするための機能強化には、この他に低ノイズ出力、厳密な負荷安定化、強力な保護および安全機能、そして熱管理に対する卓越した配慮などがあります。ただし、予測されることではありますが、DC/DCコンバータはどれも同じというわけではないため、設計やアプリケーションの成功を保証するには、選択時に各コンバータの違いを見分ける必要があります。

この記事では、BellnixHVM TechnologyMurata Power SolutionsVicor、およびXP Powerの、小型で、低リップルノイズを保証し、シングルおよびデュアル出力電圧を提供するDC/DCコンバータについて取り上げます。また、特徴や強化点、そして、これらのコンバータが、電力調整機能の向上、ノイズの低下、自己保護の確実な実施、熱管理の強化の面で設計者を支援する方法についても紹介します。

DC/DCコンバータの仕組み

その名前が示すように、DC/DCコンバータはDC電源からの入力を電圧として使用し、その電圧を別のDC電圧である出力に変換します。この出力は、入力電圧より低くすることも(降圧コンバータ)、高くすることも(ブーストコンバータ)できます。DC/DCコンバータには絶縁型と非絶縁型があります。絶縁型DC/DCコンバータでは、トランスを使用して入力と出力の間のDC経路を排除します(図1)。

XP Powerの絶縁型DC/DCコンバータの図図1:このDC/DCコンバータが絶縁されていることは、入力段と出力段の間のトランスが示します。(画像提供:XP Power)

一方、電圧の変化が少ない場合に使用されることが多い非絶縁型DC/DCコンバータでは、入力と出力の間にDC経路が存在します。

性能と設計に関する主な考慮事項

DC/DCコンバータの性能上の重要な特性は、効率性、電流定格、リップル電圧、安定化、過渡応答、電圧定格、サイズ、重量などです。詳細については、「DC/DCコンバータの紹介」を参照してください。設計者は、幅広い公称入力電圧に対応できるというコンバータの性能についても考慮する必要があります。この性能により、1つのコンバータがあれば、予測される負荷に対して必要な出力電圧および電流定格を提供できると想定されるため、1つのコンバータで多数のアプリケーションに対応が可能なため、在庫とロジスティクスを低減することができます。

アプリケーションと電源の性質によっては、過電圧、不足電圧、逆極性、短絡、および過温度状態に対する保護も必須です。同様に、電磁両立性(EMC)および電磁妨害(EMI)への適切な対処も必要です。DC/DCコンバータで使用されるスイッチング電源によってノイズが直接負荷に伝達され、近隣にある回路の安定性および精度に影響を与える可能性があるRFノイズが放出される場合、この対処は特に重要です。

また、設計者は対象となるコンバータの温度特性をアプリケーションの設計および稼働条件の面から注意深く確認して、十分な換気などの熱管理技術を必要に応じて適用することができます。

小型であることに利点があるDC/DCコンバータ

アプリケーションの中には、スペースを節約し、取り付けを単純にするために、小型のフォームファクタであるDC/DCコンバータを必要とするものがあります。このようなアプリケーションに対して、BellnixはOHVシリーズを設計しています。このシリーズは1.5ワットの中~高電圧のDC/DCコンバータで、開発時に利用できるモジュールと比べると、取り付けに必要な領域が60%近く削減されていることが特長です。サンプルデバイスは、大きさが44 x 16 x 30ミリメートル(mm)のシステムインパッケージ(SiP)であるOHV12-1.0K1500Pで、1.5ミリアンペア(mA)の出力は1000ボルトです(図2)。Bellnixは、このシリーズをリップルノイズが最小5ミリボルト(mV)ピーク-ピーク(P-P)に維持されるように設計しています。

Bellnixの超小型コンバータOHV12-1.0K500Pの画像図2:Bellnixの超小型コンバータOHV12-1.0K500Pのサイズは44 x 16 x 30mm、出力は1.5mAで1000ボルト。(画像提供:Bellnix)

このシリーズは、0.28アンペア(A)で11ボルト~13ボルトの入力で動作します。そのため、この製品は、モデルに応じてゼロから+/- 1000ボルト(0~1.5mA)、1500ボルト(0~1.0mA)、および2000ボルト(0~0.7mA)の間で出力することができます。

高電圧電源の不安定性がノイズを発生させ、装置の精度に影響を与える可能性がある計測器などのアプリケーションにとっては、このデバイスの5mVP-Pという低リップルノイズが重要です。Bellnixは、ノイズを最小限に抑えることができる独自の回路技術を開発しています。そして、これらのデバイスは自己完結型(追加の外部コンポーネントが不要)である一方で、設計者はコンポーネントを追加して、さらにノイズおよび入力インピーダンスを低減することもできます(図3)。

端子側にあるBellnixコンデンサC1の図図3:電源とコンバータ間のリード長による入力インピーダンスを低減するために、設計者は端子側にコンデンサC1を追加可能。さらにノイズを低減するために、負荷全体にC2が追加可能。(画像提供:Bellnix)

たとえば、コンバータと電源の間の距離が長いことが原因である入力インピーダンスを減らすために、入力にコンデンサC1を追加することができます。リードインダクタンスを減らすために、このコンデンサはコンバータの端子側に配置する必要があります。ノイズを減らすために、コンデンサ(C2)を負荷の近くに注意深く配置して、入出力の配線を最小限にすることができます。特に、沿面距離と空間距離には注意してください。

このラインのすべての製品には短絡回路と過電流保護が組み込まれており、デバイスを加熱や極端な温度から保護するための追加のシールドが使用された5面の金属ケースによって、電源の信頼性がさらに向上されています。OHVシリーズの出力電圧は、外部電圧または外部可変抵抗器によって0V~2000Vで制御できます。

バッテリ駆動デバイスの設計者向けに、HVM TechnologyのnHVシリーズは、サイズが11.4mm x 8.9mm、高さ9.4mmのパッケージで、最大1キロボルト(kV)において、100ミリワット(mW)の精度で安定化された電力を供給します。具体的には、負荷の安定化は、無負荷から全負荷まで、0.2%未満(標準)です。

nHVシリーズで使用される入力は5ボルトです(4.5ボルト± 0.5ボルト)。モデルによって、上限の出力電圧範囲はNHV0512Nでは0~-1200ボルト、NHV0512では0~1200ボルトとなります。両モデルの最大出力電流は83マイクロアンペア(μA)です。下限の出力電圧範囲はNHV0501Nでは0~-100ボルト、NHV0501では0~100ボルトです。この2つのモデルの最大出力電流は1mAです。前述の範囲の間にある他の出力範囲のモデルもあります。

このシリーズでは高インピーダンスのプログラミング入力(100キロオーム(kΩ))が使用されています。これにより、デバイスの取り付けが簡単になり、低インピーダンスの調整可能な電源電圧の必要がなくなります。出力電圧は入力電圧から独立していますが、堅牢な直線性を確保するために、プログラミング電圧には比例しています。

幅広い入力範囲

nHVシリーズと同様に、XP Powerの15ワットおよび20ワットDC/DCコンバータであるDTJ15およびDTJ20シリーズは、簡単な取り付けと電源効率のよい稼働のために最小化されています。ただし、この製品はシャーシまたはDINレールに取り付けることができ、ネジ端子で接続できるという工夫が施されています(図4)。

XP PowerのDTJ15およびDTJ20シリーズ DC/DCコンバータの画像図4:DTJ15およびDTJ20シリーズのDC/DCコンバータは小型サイズ向けに最適化されており、DINレールを使用した簡単な取り付けが可能。また、幅広い入力電圧範囲が特長。(画像提供:XP Power)

取り付けが簡単なことに加えて、これらの電源コンバータで重要なのは、9ボルト~36ボルト、および18ボルト~75ボルトの幅広いDC電圧入力範囲に対応している点です。複数の公称バッテリ電圧や車両の電源など、各種の入力電源により、これらのコンバータを産業、商用、および通信など、幅広いアプリケーションで使用することができます。

加えて、DTJ15およびDTJ20シリーズ DC/DCコントローラは合計で14種類あります。電圧が3.3ボルト、5.0ボルト、12.0ボルト、および15.0ボルトのシングル出力デバイス、そしてそれぞれが±5.0ボルト、±12.0ボルト、±15.0ボルトを供給するデュアル出力デバイスです(図5)。

XP Power DTJ15およびDTJ20シリーズ DC/DCコンバータの各モデルおよび定格の表(クリックして拡大)図5:DTJ15およびDTJ20シリーズ DC/DCコンバータは、幅広い入力電圧範囲と出力範囲が特長。出力は合計14種類。DTJ15の15ワットコンバータの出力を示す画像(画像提供:XP Power)

リモートオン/オフ機能により、DC/DCコンバータをソフトウェアによって制御することができます。これにより、全体的な電力消費を制御し、効率的な稼働のために遠隔地にも設置できます。

DTJ15およびDTJ20シリーズ DC/DCコンバータのもう1つの重要な機能は、内部誤差アンプ基準を変調することによって出力電圧を大幅に上昇させるソフトスタートです。これにより、出力電圧を区分リニアランプに近似させることができるようになります。これは、電圧が定格出力電圧に到達すると終了します。DTJ15およびDTJ20シリーズ コントローラのその他の保護機能には、短絡保護および入力の逆極性保護などがあります。

保護機能のポートフォリオ

鉄道、産業、輸送用のアプリケーションの電源システムでは、過渡ステップ負荷への高速なセトリング時間が要求されます。入出力電圧における発振などのその他の過渡現象のため、DC/DCコンバータの安全で信頼性の高い稼働のためには、自己保護機能が必要不可欠です。

電流制限(電力制限)では、出力電流が定格値の約130%まで上昇すると、DC/DCコンバータが電流制限モードに入ります。その結果、ほぼ一定の消費電力を維持できるようにするために、出力電圧が比例して減少を始めます。

環境条件が原因でDC/DCコンバータの温度が設計された稼働温度を超えて上昇した場合は、高精度の温度センサがユニットの電源を落とします。内部の温度が温度センサのしきい値未満まで低下すると、DC/DCコンバータは自己起動します。

Murataの絶縁型DC/DCコンバータであるIRE-Q12シリーズは、高い容量性負荷の悪影響を確実に回避するための自己保護機能を備えています(図6)。たとえば、IRE-12/10-Q12PF-Cは関連するあらゆる自己保護機能を搭載しており、ブラウンアウトや過渡状態における公称バッテリ電圧を容易にするためのEN50155の要件を満たしています。

Murata IRE-Q12シリーズ コンバータの画像図6:IRE-Q12シリーズ コンバータに対しては、鉄道や産業アプリケーションの使用時に多い、過酷な環境条件への耐性を保証する大規模な試験を実施。(画像提供:Murata)

標準的な1/8ブリックのパッケージおよびフットプリントのIRE-Q12シリーズ コンバータは120ワットの絶縁されたシングル出力を提供し、入力電圧の範囲は9ボルト~36ボルトです。このコンバータでは2つのベースプレートを選択できます。使用される基板スペースが最小のものと、ヒートシンクへの機械式に固定するためのスロット付きフランジです。

これらのDC/DCコンバータの出力は、過渡ステップ負荷への高速なセトリング時間を確保するために、+/-10%でトリミングすることができます。さらに、すべてのコンバータは、入力反射リップル電流、入力端子リップル電流、および出力ノイズについて試験され、仕様が規定されています。

スタンドアロンおよびアレイの電力モード

VicorのDCM2322は絶縁型のDC/DCコンバータシリーズで、9ボルト~50ボルトの非安定化DC入力で動作し、絶縁された28ボルトの出力を生成します(図7)。このシリーズは、同社のダブルクランプされたゼロ電圧スイッチング(DC-ZVS)トポロジを基盤としています。このトポロジにより、コンバータは入力電圧の範囲全体において93%の高い効率を実現することができます。

DC-ZVSトポロジが使用されたVicor DCM2322コンバータの画像図7:DC-ZVSトポロジにより、DCM2322コンバータは最大で93%の効率を達成。(画像提供:Vicor)

DCM2322T50T3160T60などのDC/DCコンバータモジュール(DCM)ユニットでは、内部で発生した熱をパッケージの表面全体に均等に分配するという、VicorのChiPパッケージング技術の温度および密度の利点が活用されています。ChiP技術により、DCMコンバータでは、トップおよびボトムサイドの熱インピーダンスが非常に低い、柔軟な熱管理オプションを利用することもできます。

この効率的な熱分配により、DCMユニットでは各種の非安定化電源からポイントオブロードへの接続という特性を実現することができます。これらのユニットは、入力および出力両方の過電圧フォールトを防止します。また、フォールトが検出された場合にコンバータをシャットダウンする、その他のフォールト処理メカニズムも用意されています(図8)。

フォールト監視処理機能を備えたDCMコンバータの図図8:DCMコンバータはフォールト監視処理機能に加えて、電流制限やソフトスタート制御などの安全機能も装備。(画像提供:Vicor)

これらの機能により、DCMコンバータでは規定された公称負荷ラインと温度係数の周辺で調整された安定化出力電圧が使用できます。コンバータの内部温度が制限を超えた場合は温度フォールトが登録され、パワートレインがスイッチングを即時に停止します。コンバータは内部温度が指定されたしきい値に戻るのを待機してから再始動します。

さらに、これらのDC/DCコンバータは統合されたEMIフィルタリング、厳密な出力電圧の安定化、セカンダリリファレンス制御インターフェースといった機能を備えているだけでなく、従来のブリックアーキテクチャが持つ基本的な設計の利点も保持しています。

データセンターやテレコミュニケーション装置、1つのDC/DCコンバータでは提供できない規模の電力が必要とされる用途では、複数のデバイスを平行して使用することができます。負荷分散によってさらに高い電力容量を実現するために、複数のDCMコンバータをアレイモードで平行して使用することができます。これらのコンバータが異なる入力電圧電源で稼働していても構いません。Vicorは、480ワット容量の最大8台のDC/DCコンバータから成る定格アレイを提供しています。

結論

産業、医療、輸送、および計測用アプリケーション向けの電子システムをサポートする電源システムの設計者は、幅広い入力電圧範囲の必要性から熱管理および負荷分散まで、複雑な処理や関連するコストなど、多数の事項に対処しなければなりません。しかし、この記事で説明してきたように、DC/DCコンバータはかつてないほど小型化され、取り付けが簡単な自己完結型の電源へと進化しているため、こうした複雑な処理の多くを回避できるようになっています。

それでも、設計者がさらに優れた性能を必要とする場合は、さらにコンポーネントを追加することができます。また、より柔軟性が求められる場合は、リモート機能やプログラム可能な機能を利用して、インピーダンス補正を実施したり、バーンアウトを回避し、変化する状況に対応し、システム全体の電力消費を低下させたりできるようになってきています。

参考情報

  1. DC/DCコンバータの紹介
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著者について

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Majeed Ahmad

Majeed Ahmad氏は、B2Bテクノロジメディアで20年以上の経験を持つ電子エンジニアです。彼は、EE Timesの姉妹誌であるEE Times Asiaの前編集長です。

Majeedは、電子に関する本を6冊書いています。彼はまた、All About Circuits、Electronic Products、およびEmbedded Computing Designを含むエレクトロニクス設計の出版物に頻繁に寄稿しています。

出版者について

DigiKeyの北米担当編集者