先進的なリソグラフィチップ製造でADIのデータ収集ソリューションが活躍

著者 Pete Bartolik(ピート・バートリック)

DigiKeyの北米担当編集者の提供

半導体製造装置(SME)市場は、2022年の6,000億ドルから2030年には1兆ドルに増加すると予想される半導体チップの売上増加の原動力として、今後5年間で大幅な成長が見込まれています。センサは、チップ製造に使用される高度なリソグラフィシステムの心臓部です。

複雑で高性能、かつ小型化が進む半導体チップの製造は、チップ製造に使われるシリコンウェーハやその他の基板に複雑なパターンを印刷する際に使用される、高精度で高感度なリソグラフィプロセスに大きく依存しています。

先進的なリソグラフィシステムは、極めて正確で高感度な技術を採用しており、プロセスの歩留まりを向上させるだけでなく、廃棄物を最小限に抑え、工場の効率を最適化します。集積回路(IC)の大量生産に不可欠なサブミクロンおよびナノメートルの精度を実現するために、これらのシステムは、位置、温度、エネルギー、動作を監視および制御するために何千ものセンサを使用しています。

システム全体の性能は、個々のセンサの正確かつ再現可能な性能に左右されます。高度なアルゴリズムが大量のセンサデータを解釈し、何千ものアクチュエータを使用して、非常に微細かつ高精度な手法で必要な微調整を行います。

Analog Devices, Inc.(ADI)は、その信号チェーンマイクロモジュール(μModule)技術を活用して、リソグラフィ半導体製造サブシステムを監視および制御を行うための高性能で小型化されたアナログ-デジタルデータ収集(DAQ)ソリューションを提供しています。これにより、ウェハーファブリケータや垂直統合型デバイスメーカーなどが直面する生産上の課題に対応しています。

アプリケーションの背景

半導体の継続的な微細化は、スマートフォンからスーパーコンピュータまで、そして生成型人工知能(GenAI)、量子コンピューティング、IoT、エッジコンピューティングの処理要件に至るまで、あらゆるものの性能向上を推進しています。髪の毛の1万分の1の微細な回路など、半導体のさらなる小型化の要求に応えるには、高度なプロセスと革新的な制御システムが必要です。

リソグラフィは、シリコンやその他の基板ウェハー上にICを作成するための正確なパターン形成を可能にする半導体製造の基礎技術です。フォトマスクと強力で極めて正確な光ビームまたは放射線を使用して、フォトレジスト材料でコーティングされたウェハー上にチップの設計パターンの細部に至るまでを正確に転写します。フォトレジストは光に反応し、ウェハーは化学薬品で処理され、ウェハー基板の回路パターンがエッチングされます。多層プロセスでは複数のフォトマスクが使用されます。

この分野における継続的な技術革新に必要な技術的課題への取り組みと高額な研究開発費を負担できる企業は限られており、高度に専門化され、極めて複雑なリソグラフィ半導体製造システムは、その少数の企業によって製造されています。

ASMLは業界をリードする企業であり、最先端のチップ製造に不可欠な独自の最先端の極端紫外線(EUV)システムにより、先進のリソグラフィ市場を独占しています。同社の最先端システムは、最大で数億ドルのコストがかかりますが、現在では、2nm未満のフィーチャーサイズのチップの製造が可能になっています。これにより、トランジスタ間の間隔をさらに狭め、チップあたりのトランジスタ数を増やすことができます。また、14nm、28nm、およびそれ以上のノードで製造されるチップ上の中間層やレガシー層をよりコスト効率よく製造するのに適した、より長い波長を利用する深紫外(DUV)システムも供給しています。

その他のリソグラフィ半導体製造システムは、CanonとNikonが製造しており、DUVリソグラフィと、MEMS、パワー半導体、産業用アプリケーションに使用される、それほど高度でないノードの製造のためのレガシー技術に重点を置いています。

極限の精度を実現

リソグラフィプロセスでは、サブミクロンスケールのパターンを実現するために極限の精度が求められます。半導体の小型化、高性能化、省電力化を実現する技術開発を継続的に進めるためには、精度と歩留まりを維持することが重要であり、そのためにはセンサとアクチュエータが不可欠です。

センサはアクチュエータの制御において極めて重要な役割を果たし、リアルタイムのフィードバック、エラー補正、環境補償を提供します。

  • ウェハー、フォトマスク、レンズの正確な位置を測定する位置センサ
  • アライメントを妨げる可能性のある振動を検知し、補正する振動センサ
  • 温度、湿度、空気質を監視し、精度への環境の影響を最小限に抑える環境センサ
  • アライメントおよび位置決め時にアクチュエータが正確な力を加えることを保証する力およびひずみセンサ

センサは、アクチュエータを動的に調整し、アライメントおよびパターンの精度を確保するための閉ループフィードバックに不可欠なリアルタイムデータを提供します。これらのセンサは、パターン化されたウェハーの欠陥を防止し、多層チップ設計に不可欠なフォトマスクとウェハーの完璧なアライメントを実現するために、リアルタイムで偏差を検出します。また、アラインメントのずれや手直しによる遅れを最小限に抑えるためにも重要です。

センサとアクチュエータの相互作用

DUV露光装置とEUV露光装置はどちらも、効率的で歩留まりの高い半導体製造に不可欠な精度と信頼性を実現するために、何万ものセンサを使用しています。装置メーカーが次世代リソグラフィでピコメータスケールの実現を目指す中、精度と信頼性を確保するためのセンサとアクチュエータの役割はますます重要になっています。これらのコンポーネントのシームレスな相互作用と管理は、リソグラフィシステムの成功に不可欠です。

これらのセンサを管理するには、リアルタイムのデータ処理と高度な制御システムが必要です。半導体メーカーとその顧客が求める精度と信頼性を実現するためには、リソグラフィシステムにおけるセンサとアクチュエータの相互作用を綿密に調整する必要があります。複雑なプロセスは、リアルタイムのフィードバック機構、高度な制御アルゴリズム、複雑なサブシステム間のシームレスな統合に依存しています。

センサは、位置、温度、圧力、振動などのパラメータを継続的に監視します。目的のパラメータからのずれは、リアルタイムで補正する必要があります。アクチュエータは、マイクロスケールまたはナノスケールの調整に対応し、ウェハーやマスクの位置決め、光学焦点や光源のアライメントの微調整するように指示されます。

ウェハーステージの位置決めでは、センサがサブナノメートルの精度で動きを追跡します。リニアモータやピエゾ素子などのアクチュエータがステージの位置を動的に調整し、フォトマスクとの正確なアライメントを維持します。光学アライメントセンサが光路を監視し、アクチュエータはミラーやレンズを調整して焦点とパターンの精度を確保します。

集中制御

集中制御ユニットは、何千ものセンサからのデータを監視および処理し、アクチュエータにコマンドを送ります。これらのシステムは、高速プロセッサと洗練されたアルゴリズムを利用して相互作用をシームレスに管理し、複数のサブシステム間の同期を取ります。ナノメートルレベルの精度を実現するには、データ処理とアクチュエータの応答における遅延を最小限に抑える必要があります。

センサとアクチュエータは、EtherCAT、Ethernet、独自のインターフェースなどの高速で低レイテンシの通信プロトコルで接続されます。これらのネットワークは、コンポーネント間の迅速なデータ交換と調整を容易にします。

センサの読み取り値やアクチュエータ性能のドリフトは、監視によって検出され、適応制御アルゴリズムを使って補正されます。機械学習アルゴリズムは、過去のデータを分析して、潜在的な偏差や機器の摩耗を予測し、予知保全と最適化されたアクチュエータ性能を可能にします。

半導体ノードの微細化が進むにつれ、センサとアクチュエータの統合が果たす役割はますます重要になっています。干渉計はナノメートルの精度でウェハーステージ位置を測定し、アクチュエータはアライメントと振動センサからのフィードバックに基づいてステージ位置を動的に調整します。光学センサは、光の焦点と強度を監視し、圧電アクチュエータがレンズやミラーを調整して焦点を維持し、ウェハー上に回路を正確に投影します。カメラや光学センサもまた、パーティクルや不規則性を検出するために利用され、アクチュエータは欠陥を避けるためにウェハーやマスクの位置を変えたり、自動洗浄を開始したりします。

信号チェーンの性能

各リソグラフィ半導体製造システムにおいて、各センサの性能は非常に重要です。ADIのADAQ7768-1(図1)は、同社のμModule技術をベースにしたDAQシステムで、精密測定および制御システムの簡素化と性能向上を目的として設計されています。この単一のシステムインパッケージ(SiP)ソリューションには、高入力インピーダンス増幅、アンチエイリアス、シグナルコンディショニング、アナログ-デジタル(A/D)変換、設定可能なデジタルフィルタブロックが組み込まれています。

Analog DevicesのADAQ7768-1 µModuleデータ収集システムの画像図1:ADIのADAQ7768-1 µModuleデータ収集システム。(画像提供:Analog Devices, Inc.)

抵抗やコンデンサなどの受動部品と、オペアンプ、リファレンス、低ドロップアウトレギュレータ(LDO)、A/D変換などの能動部品を統合することで、μModuleは、温度や電源の変動に対する完全な信号チェーンの性能を保証します。これにより、圧力、温度、振動センサからの信号を取得するための正確で再現性の高い高性能シグナルチェーンが実現できます。

ADAQ7768-1は、図2のブロック図に示すように、複数のコンポーネントを1つのμModuleに統合しています。これらには、24ビットの高精度A/Dコンバータ(ADC)、アンプやフィルタなどのシグナルコンディショニングコンポーネント、電源管理やリファレンス回路などが含まれています。

Analog Devices ADAQ7768-1 μModuleのブロック図(クリックして拡大)図2:ADAQ7768-1 µModuleのブロック図。(画像提供:Analog Devices, Inc)

24ビットADCは、ウェハーステージの振動レベル、光学アセンブリの熱変動、サブナノメートルの位置決め誤差などの繊細なパラメータの精密測定を可能にします。

複数のアクティブおよびパッシブコンポーネントを搭載するADAQ7768-1のアナログフロントエンド(AFE)には、圧力、温度、振動などのセンサを接続できます。複数のモジュールを並行して使用することで、ウェハーステージのアライメントや環境条件の監視など、多数のセンサからのデータを管理することができます。

電源ノイズはリソグラフィシステムにおける測定の精度と信頼性に直接影響しますが、ADAQ7768-1は単一電源で動作するように設計されているため、システム設計が簡素化され、外部電源管理回路を追加する必要性が減少します。

電源管理設計は、電源リップルとノイズを最小限に抑えます。これは、内蔵の低ノイズ24ビットADCとシグナルコンディショニングチェーンの高精度を維持するために極めて重要です。

ADAQ7768-1は、5.1V~5.5Vの間で入力電圧範囲がわずかに変化するものの、単一の安定化入力5.3Vで動作するように設計されています。このモジュールには、さまざまな内部サブシステムにクリーンで安定した電源を供給するためのLDOが内蔵されています。

ADAQ7768-1は、設計者が個々のシグナルチェーンコンポーネントを調達し、校正する必要がないため、設計の複雑さを軽減し、試作とテスト段階を合理化することで市場投入までの時間を短縮します。

製品設計者は、ADIのEVAL-ADAQ7768-1評価ボード(図3)を利用することで、試作を簡素化し、開発を短縮し、ADAQ7768-1をシステムに統合する高精度データ収集設計の検証に役立てることができます。これは、サブナノメートルの位置決めやアライメントプロセスにおいて、システムが期待通りの性能を発揮することを保証する上で非常に重要です。

Analog Devicesの試作およびテストアプリケーション用評価ボードの画像図3:ADAQ7768-1データ収集ソリューションを中心に構築されたアプリケーションの試作とテスト用のADIの評価ボード。(画像提供:Analog Devices, Inc.)

この評価ボードは、ADAQ7768-1をテストするための完全に機能するプラットフォームで、組み立て済みのシグナルチェーンコンポーネントを搭載し、標準的なテスト機器やマイクロコントローラでプラグアンドプレイ動作が可能です。設計者は、設計の性能評価と最適化、さまざまな環境条件下でのテスト、さまざまなセンサタイプ や号源のテストが可能で、最適な入力信号コンディショニングを決定することができます。

まとめ

監視と制御のために何千ものセンサを使用する先進のリソグラフィシステムは、より小型で強力な半導体の製造に不可欠です。センサはアクチュエータの制御において極めて重要な役割を果たし、リアルタイムフィードバックを提供し、半導体製造における精度と歩留まりを保証します。ADIのADAQ7768-1データ収集システムは、シグナルコンディショニング、変換、処理ブロックを統合し、精密測定および制御システムを簡素化し、強化します。その小型のサイズ、高精度、使いやすさは、極めて高い精度と信頼性が要求される次世代リソグラフィ装置を開発するための貴重なツールとなります。

DigiKey logo

免責条項:このウェブサイト上で、さまざまな著者および/またはフォーラム参加者によって表明された意見、信念や視点は、DigiKeyの意見、信念および視点またはDigiKeyの公式な方針を必ずしも反映するものではありません。

著者について

Image of Pete Bartolik

Pete Bartolik(ピート・バートリック)

Pete Bartolikはフリーライターで、20年以上にわたってITとOTの問題や製品について研究し、執筆してきました。それ以前は、IT管理専門誌『Computerworld』のニュース編集者、エンドユーザー向け月刊コンピュータ誌の編集長、日刊紙の記者を務めていました。

出版者について

DigiKeyの北米担当編集者