MEMSマイクロフォンにおけるデジタルPDMおよびI²Sインターフェース間の比較

著者 Jeff Smootは、Same Skyでアプリケーションエンジニアリングおよびモーションコントロール担当副社長を務めています。

マイクロフォンは長年にわたり、組み込みシステムに活用されてきました。しかし、MEMSマイクロフォンは、その誕生以来、家庭用、車載用、ウェアラブル用など、音声の応用範囲の増加により、急速にその市場規模が拡大し続けています。MEMSマイクロフォンは、フットプリントの大幅な縮小、必要な消費電力の低減、電気ノイズイミュニティの向上というメリットをもたらすだけでなく、多くの出力オプションを備えているため設計の柔軟性を高めることができます。アナログ出力のMEMSマイクロフォンは、設計者にとって、パルス密度変調(PDM)やIC間サウンド(I²S)などのデジタル出力と同様の選択肢として残っています。

本稿では、この2つのデジタルインターフェースについて、それぞれの特徴やシステム設計上のメリット & デメリットを詳しく解説します。設計者がどちらを選ぶかは、2つの技術を比較検討し、それぞれのプロトコル(処理方式、手順)が特定のアプリケーションの条件にどのように適しているかを理解する必要があるでしょう。考慮すべき主な重要ポイントは以下の通りです。

  • 音質
  • 消費電力
  • 部品表(BOM)のコスト
  • 設計のスペース制約
  • マイクロフォンの動作環境

パルス密度変調(PDM)の概要

PDM信号は、アナログ信号の電圧を1ビットのパルス密度変調デジタルストリームに変換するのに使用され、オーディオに見られる典型的な横波よりも縦波に近い外観を備えています。ただし、PDM信号とは、アナログ信号のデジタル表現にすぎません。

画像:PDMプロトコル図1:PDMプロトコル(画像提供:Same Sky)

上の図1は、アナログ信号の振幅が大きくなるにつれて、上位ビットの密度が高くなる様子を示したものです。そのため、デジタル信号は、アナログ信号の振幅の下限を表す際、低い値のままである時間が長くなります。これにより、デジタル信号の多くのメリットを持ちながら、アナログ信号と直接相関のある信号が生成されます。そのような信号が生成されるためには、PDM信号を、3MHzを超える周波数でサンプリングする必要があります。理由は、デジタルパルスがアナログ信号の発振よりはるかに頻繁に発生する必要があるためです。

PDMはデジタル信号のため、アナログ信号と比較して電気的ノイズの影響を非常に受けにくいのが特徴です。また、信号劣化が発生した際のビットエラー耐性も向上しています。しかし、アナログ信号は周波数が高いため、伝送路が長くなると静電容量が大きくなり、不要な減衰が発生して音質が低下するので、距離拘束が付けられています。また、PDM信号を他の機器で利用できるようにしたい場合は、外部のDSPやマイクロコントローラと適切なコーデックを用いて、PDM信号をローパスフィルタで間引く、つまりダウンサンプリングする処理も必要になります。PDM信号のコンセプトのシンプルさから、PDMデバイスは2つの信号しか必要とせず、消費電力が低くフットプリントがコンパクトで、全般的に安価なものとなっています。これらのメリットはあるものの、代わりに、PDMデバイスから送られてくる信号を処理するための回路を追加する必要があるというコストも発生します。

IC間サウンド(I²S)の概要

I²Sは、PDMとは別の人気あるデジタルインターフェースオプションであり、1980年代半ばに登場し、最近になってマイクロフォンなどの小型デバイスに搭載されるようになたったものです。I²SとPDMはどちらもデュアルチャネルのインターフェースですが、それが唯一の共通点です。また、I²SとI2Cのプロトコルを比較する際に、しばしば関係があると思われたり混同されたりしますが、これらの名前の類似性は単に偶然によるものです。

画像:IC間サウンドプロトコル図2:IC間サウンドプロトコル(画像出典:Same Sky)

I²Sは、PDMとは違って完全にデジタル信号であるため、エンコーディングやデコーディングが不要です。I²Sは、クロック線、データ線、ワード選択線という3線式のシリアルプロトコルです。ワード選択は、送信対象となるデータが関連付けられる右チャンネル、左チャンネルを示します。一般的に必要とされるデータ転送速度というようなものはありませんが、送信されるデータとその精度に応じた最低速度というものはあります。たとえば、オーディオサンプルレートが業界標準の44.1kHz(精度:8ビット)の場合、モノラルチャンネルでは352.8kHz以上のクロックスピードが必要です。このスピードは、ステレオアプリケーションの場合は、その2倍である705.6kHzになります。精度が変われば、最小送信帯域幅も変わります。

サンプル周波数 * データ精度 * チャンネル数 = 帯域幅

44,100 Hz * 8ビット * 2チャンネル = 705,600Hz

I²Sの主なメリットは、内蔵フィルタによって内部コーデックが利用されることです。PDMではサンプルレートを下げるために外部コーデックが必要なのに対し、I²Sではオーディオ信号のデータレートはDSPに到達した時点で既に許容できるレベルになっています。このため、捕捉したオーディオデータの処理に必要とされる余分な部品が設計からなくなるので、I²Sは、完全な自己完結型アプリケーションや、エネルギー効率の高いバッテリ駆動型アプリケーションに適しています。ウェアラブル製品などのコンパクトな設計では、外付け部品を追加する必要がないため、コスト削減や省スペース化も重要な要素になります。

システム全体の設計を見るときは、DSP機能が既に備わっているかどうかに注目することが重要です。DSP機能が既に備わっている場合は、設計に内蔵されたDSP機能を利用できるPDMデバイスの方が、3本の信号線で最終的により多くの電力とリソースを消費するI²Sよりも、良い選択肢となります。

PDMとI²Sとの比較

PDMは、ビットエラー耐性やノイズイミュニティ に優れているため、音質を重視するアプリケーションにとって魅力的な選択肢となります。一方、I²Sは、設置が容易でフットプリントが小さく、処理用の外付け部品が不要なため、スペースの制約やBOMコストが懸念される場合に有力な選択肢となります。また、I²Sはより長い距離でより高い信号品質を提供できるため、PCB上でマイクロフォンと処理回路がそれほど近接していない場合にも、PDMよりも優れた選択肢となります。とはいえ、I²Sはケーブルなどの送信デバイスでの送信に特化して設計されたものではないため、多くのデバイスで適切なインピーダンス整合が取れないので、極端なことはできません。最終的な判断を下すには、アプリケーションの要件、利用可能な部品、必要なデータレートなどをさらに調査する必要があります。

まとめ

MEMSマイクロフォンは、さまざまな電子機器への搭載が進んでいます。エンドアプリケーションで最良の結果を得るためには、適切なインターフェース(アナログかデジタルかは場合による)の選択が重要です。Same Skyは、多様なオーディオシステム要件に対応する、MEMSマイクロフォンの広範なポートフォリオを有しています。アナログインターフェースユニットに加え、各種PDM、I²Sデジタルインターフェースマイクロホンを在庫してありますので、すぐにお求めいただけます。

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Jeff Smootは、Same Skyでアプリケーションエンジニアリングおよびモーションコントロール担当副社長を務めています。

Same SkyのJeff Smootによって提供された記事です。