産業用の可変速モータドライブにはどのような種類があるか
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2024-07-26
国際電気標準会議(IEC)規格61800では、産業用アプリケーション向けに2種類の可変速電力ドライブシステム(PDS)が認定されています。61800-1は直流(DC)PDSに適用され、61800-2は交流(AC)PDSに適用されます。PDSという用語は、ドライブにモータを加えたシステム全体に適用されます。
61800のその他の節では、試験方法、熱およびエネルギーの条件に関する安全要件、機能安全、エンコーダの電気的および環境的要件、電気インターフェース、性能の測定について説明されています。最新のパートであるIEC 61800-9では、エネルギー効率の判断および分類など、モータシステムのエコデザインが取り扱われています。
IEC 61800では可変速のAC PDSとDC PDSが定義されていますが、産業用アプリケーションにおける可変速ドライブ(VSD)と可変周波数ドライブ(VFD)の一般的な定義についても説明されています。IEC 61800は、最大1.5kVAC(50Hzまたは60Hz)に接続された主電源を使用するPDSに適用されます。また、可変速ドライブを使用する産業用自律移動ロボット(AMR)のような、バッテリ駆動システムのDC入力電圧にも適用されます。トラクションドライブと電気自動車ドライブは、IEC 61800の対象外です。
この記事では、VSDとVFDの一般的な定義について簡単に説明し、VFDが広く使用されている理由について考察します。その後、IEC 61800-9で定義されたACドライブの効率クラスについて確認します。さらにDelta Electronics、Siemens、Schneider Electric、Omron Automationの主電源駆動型VFDの例を紹介し、最後にMEAN WELLのシステム例を参照して、AMRやその他のバッテリ駆動システムでのVFDの使用について考察します。
VFDの標準的な定義は、周波数の変化を利用してモータの速度を制御するドライブです。そのため、VFDはACモータで利用されます。一方、VSDは電圧を変化させてモータを制御するため、ACモータとDCモータの両方で利用できます。
しかし、実際はもっと複雑です。どちらのタイプのドライブも、モータの速度を制御するために使用できます。そのため、VSDという用語がVFDに使われる場合もあります。VFDはブラシレスDCモータ(BLDC)にも使用できるため、厳密に言うと、VFDはACモータに限定されません。VFDは、以下のような各種モータに使用するのに適しています。
- 誘導モータ(IM)、つまり非同期ACモータは、自動始動型で信頼性が高く、経済的であるため、産業用アプリケーションで広く使用されています。
- 永久磁石同期モータ(PMSM)は高効率のACモータであり、高いエネルギー効率が求められる高性能アプリケーションでトルクと速度の精密な制御が可能です。
- BLDCは高効率で精密な制御が必要なアプリケーションにも使用され、一般的に動作寿命は長めです。
- サーボモータにはACとDCがあり、高速で高精度の応答が可能です。特殊な制御アルゴリズムを搭載したVFDは、ロボット、コンピュータ数値制御(CNC)機械および、類似したアプリケーションのサーボモータに使用できます。
- AC同期モータ(SM)は、一定の速度と正確な同期が求められるアプリケーションに適しています。VFDはSMの速度を制御でき、その他の(低コストな)ドライブは、速度が一定の動作に対応します。
VFDには、汎用性を強化するさまざまな制御アルゴリズムが使用されています。たとえば、誘導モータ用のVFD制御アルゴリズムには、電圧/周波数(V/f)、エンコーダ使用のV/f、オープンループベクトル、閉ループベクトルの4種類があります。どの種類もパルス幅変調を使用し、速度とトルクをさまざまなレベルで制御します。
VFDや関連するモータドライブシステムの効率とエコデザインに焦点を当てたIEC 61800-9の策定は、広範な産業用アプリケーションにおけるVFDの重要性を示しています。
BDM、CDM、PDS
IEC61800-9には、VFDに関する2つの節があります。パート1では、アプリケーションのエネルギー効率の指標や基準を決定する方法について説明されています。パート2では、一連の分類を基にした効率性の評価方法が詳述されています。
IEC 61800-9では基本駆動モジュール(BDM)と呼ばれるVFDの効率が重要ですが、この規格で最も重視されているのはこの点ではありません。この規格はさらに広範であり、周波数インバータ(VFD)、給電セクション、入出力補助装置(フィルタやチョークなど)で構成される完全駆動モジュール(CDM)および、CDMとモータで構成される電力ドライブシステム(PDS)が考慮されています(図1)。
図1:IEC 61800-9の効率クラスは、VFDシステムのCDM(黒色部分)とPDS(赤色部分)に適用されます。(画像提供:Schneider Electric)
CDMの効率クラス
CDMの国際効率(IE)クラスは、IE0からIE2までが定義されています。このクラスは、CDMの全損失を、基準となるCDM(RCDM)の性能と比較することで決定されます。CDMのIEクラスは、過変調を回避し、異なるメーカーのドライブ性能を比較できるようにするために、90%のモータステータ周波数と100%のトルク電流を使用し、(90, 100)の動作点を基準に定義されています。
RCDMの性能は、IE1と定義されます。RCDMより損失が25%以上少ないCDMはIE2に分類され、RCDMより損失が25%以上多いCDMはIE0に分類されます。RCDMでは、あらかじめ定義された8つの動作点(0, 25)、(0, 50)、(0, 100)、(50, 25)、(50, 50)、(50, 100)、(90, 50)、(90, 100)でのエネルギー消費量を、平均的な技術のCDMと比較することもできます(図2)。
図2:IEC 61800-9のCDMの動作点と効率クラスの画像。(画像提供:Siemens)
PDSの効率クラス
PDSの国際効率システム(IES)クラスは、CDMのIEクラスと似ており、IES0~IES2が定義されています。このクラスは基準となるPDS(RPDS)に基づき、ドライブモジュール全体とモータの効率が反映されます。
モータとCDMの組み合わせを特定のアプリケーション要件に適合させることで、全体的な効率が最適化される可能性が高くなります。そのように効率が最適化されると、IESクラスが高くなります。RPDSではRCDMと同様に、あらかじめ定義された8つの動作点でのエネルギー消費量を、平均的な技術のPDSと比較することができます。
動作点は、トルクのパーセンテージと速度のパーセンテージに基づき、IES値は、100%のトルクと100%の速度(つまり(100, 100)の動作点)に基づいて計算されます。
IESクラスでは、IEクラスの25%の変化を使用する代わりに、20%の変化を基にしています。効率クラスがIES2のPDSは、IES1と定義されたRPDSの性能よりも損失が20%以上少なく、クラスがIES0のPDSは、IES1と定義されたRPDSの性能よりも損失が20%以上多くなります(図3)。
図3:IEC 61800-9のPDSの動作点と効率クラスの画像。(画像提供:Schneider Electric)
VFDの例
VFDメーカーが61800-9に基づいて効率を報告するとは限りません。IEC 61800-9を使用した最もシンプルな効率測定は、VFD(周波数インバータ)および、給電部や入出力補助装置などの多数の追加コンポーネントで構成されるCDMを対象としているためです。特定の追加コンポーネントの使用はVFDメーカーが管理できる範囲を超えており、61800-9はVFDに直接適用されません。
一部のVFDメーカーは61800-9の手法を採用しています。IE2への準拠が表明されている場合、そのデータはチャート、表、Excelファイルなど、各種の形式で報告されます。
たとえば、SiemensはSINAMICS V20ドライブにIEC 61800-9の手法を使用し、効率クラスをIE2として報告しています(図4)。SINAMICS V20は、0.16~40馬力(hp)の9種類のフレームサイズで提供されています。このドライブは、ポンプ、ファン、コンプレッサ、コンベヤなどの製造およびプロセスアプリケーションの基本的なドライブシステム用に最適化されています。また、入力フィルタ、入出力リアクタ、制動抵抗器など、オプションのコンポーネントが数多くあります。
図4:基準となるコンバータ(90% / 100%)と比較して損失が36.1%低い、効率クラスIE2の7.5kW CDM。パーセンテージは、オプションのコンポーネントを除外した、基本ドライブの定格電力に対する損失を示しています。(画像提供:Siemens)
Delta Electronicsも61800-9の手法を採用しており、1.7、3.0、4.2、6.6、9.9、12.2kVAのMS300シリーズコンパクトドライブの効率をIE2と報告しています。データの詳細はチャートではなく、表形式で示されています。MS300シリーズには、0.2~22kWのドライブがあります(図5)。これらのドライブには、プログラミング用のプログラマブルロジックコントローラ(PLC)機能、MODBUS通信、追加プロトコルをサポートできる通信スロット、データのアップロードとダウンロード用のUSBポートなど、いくつかの機能が組み込まれています。
図5:Delta ElectronicsのMS300シリーズには、0.2~22kWのドライブがあります。(画像提供:Delta Electronics)
Omronによると、MX2シリーズVFDのような「三相入力の可変速ドライブ」は、IE2の効率要件に対応しているとのことです。Omronは、そのテストデータをExcelファイルで提供しています。MX2ドライブの定格は、200Vの単相入力で0.1~2.2kW、200Vの三相入力で0.1~15.0kW、400Vの三相入力で0.4~15.0kWです。MX2ドライブはIMモータとPMモータ用に設計されており、0.5Hzで200%の始動トルクで、ゼロ速度までのスムーズな制御をサポートします。
他のVFDメーカーがIEC 61800-9の第1節と第2節に焦点を当てているのに対し、Schneider Electricはより包括的なアプローチを取っており、ドライブを適切なモータと統合して、エコデザイン指令とIEC 61800-9の第3節(製品カテゴリ規制と関連の環境宣言などのエコバランスによる定量的なエコデザインアプローチを規定)に対応する方法を説明しています。
Schneider ElectricのAltivar Machine ATV320ドライブファミリには、三相同期、非同期、開ループ制御のPMモータおよびBLDCモータ用の0.18~15kW(0.25~20hp)でIP20およびIP6x定格のVFDがあり、以下のような機能を備えています。
- センサレス磁束ベクトル制御を利用した低速トルクと速度精度およびハイダイナミックパフォーマンス
- 高周波モータへの対応
- 機能安全規格に準拠した統合機能
AMRはどうなのか?
AMRにはVFDを使用しますが、VFDの種類が異なります。その良い例が、MEAN WELLの産業用BLDCモータドライブのVFDシリーズです。このシリーズは、61800-5-1の安全要件や61800-3の電磁両立性(EMC)要件など、IEC 61800の関連する節に準拠しています。ただし、これらのVFDはパッケージドライブではないため、61800-9の効率カテゴリは適用されません。
VFDシリーズには、150~750WのDC入力およびAC入力バージョンの8モデルがあります。モデルVFD-350P-48は、AMRのようなバッテリ駆動アプリケーションを対象に48VDC入力で動作し、最大350Wおよび20Aの出力電流を供給できます。
この350WのBLCDドライバは4インチ×2インチの回路カードにパッケージされ、ファンレス設計によって200%のピーク負荷を5秒間サポートすることができます(図6)。VFDシリーズのモデルはすべてパワードライブ部のみで、外部コントロールカードが必要です。MEAN WELLは、オプションでコントロールカードも提供しています。
図6:VFDドライブの電源部のブロック図(左)と、AMRに取り付け可能な電源部(右)。(画像提供:MEAN WELL)
まとめ
可変速ドライブの各種設計は、機械制御やAMRなどの産業用アプリケーションに使用することができます。このような設計はACモータとDCモータの両方に対応し、IEC 61800の各節にさまざまなレベルで準拠しています。また、個々のVFDの性能はIEC 61800-9の対象ではないため、このような効率基準に対する性能の報告ではさまざまなアプローチが取られています。VFDメーカーの中には、第1節と第2節に重点を置き、IE2のようにVFDの効率レベルを報告する企業もあります。一方、製品のカテゴリ規制や関連する環境宣言など、エコデザインの全体的な考慮事項に関連する第3節に焦点を当てている企業もあります。
免責条項:このウェブサイト上で、さまざまな著者および/またはフォーラム参加者によって表明された意見、信念や視点は、DigiKeyの意見、信念および視点またはDigiKeyの公式な方針を必ずしも反映するものではありません。