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SiGe整流器を採用して高温アプリケーションでの高効率AC/DC動作を実現

著者 Steven Keeping(スティーブン・キーピング)

Digi-Keyの北米担当編集者 の提供

これまで技術者には、高速スイッチングAC/DC電源の中核であるダイオードベースの整流器として、ショットキー整流器または高速リカバリ整流器という従来型の2つの選択肢しかありませんでした。ショットキー整流器は、低スイッチング損失と優れた効率性を備えていますが、自動車のLEDヘッドランプや電子制御ユニット(ECU)のような高温にさらされる設計では、熱暴走が起きやすいという問題があります。高速リカバリダイオードは、高温での安定性に優れているものの、効率性が低下します。

シリコンゲルマニウム(SiGe)整流器は、ショットキー整流器と高速リカバリデバイスの最も優れた特性を組み合わせることで、新たな第3の選択肢を提供し、他の型の整流器でトレードオフとなっていた問題の多くを解消します。特に、SiGe整流器は熱安定性が高く、高温アプリケーションに最適な選択肢です。

この記事では、従来のショットキー整流器と高速リカバリ整流器の比較を含め、整流器の基礎と関連する課題について簡単に説明します。次に、SiGe整流器アーキテクチャが、両者の利点をどのように組み合わせているかを紹介します。この記事では、Nexperiaのデバイスを例にとり、SiGe整流器の主な特性と、高温、高速スイッチング、AC/DCアプリケーションに関連する問題を解決するためにSiGeデバイスをどのように応用できるかを簡単に説明します。

整流器の基礎

整流器とは、AC入力電圧をDC電圧電源に変換してパワーエレクトロニクス部品を駆動するために使用される、電源に不可欠な回路です。トポロジにはさまざまなものがありますが(半波整流器、全波整流器など)、整流器の主要部品は1つ、または複数のダイオードです。

最もシンプルな形態のダイオードは、ドープされたシリコン(Si)p-n接合です。ダイオードが順方向にバイアスされ(電源のプラス端子が部品のp型側に、マイナス端子がn型側に接続された状態)、ダイオード固有の「障壁ポテンシャル」または順方向電圧降下(Siダイオードでは約0.7V)を克服するのに十分な電圧がかかると、大きな順電流(IF)が流れます。次に、電源からの電圧(VF)の上昇に比例して、IFが上昇していきます。障壁ポテンシャル以上では、VF-IF曲線の勾配はダイオードのバルク抵抗によって大きく左右されますが、NexperiaのBAS21Hで見られるように、通常は非常に急勾配です(図1)。この理由により、多くの場合、ダイオードはデバイスの過電流保護のために抵抗器と直列に接続されます。

NexperiaのBAS21HスイッチングダイオードのVF対IF特性のグラフ図1:NexperiaのBAS21HスイッチングダイオードのVF対IF特性のグラフこのp/n型Siダイオードでは、約0.7Vでどのように伝導が始まるかに注意してください。(画像提供:Nexperia)

電圧が逆(VR)になると、それに対応する低い逆方向のリーク電流(IR)が発生します。低い動作温度ではIRは重要ではありませんが、温度依存性という特徴があるため、高い動作温度では問題になる場合があります。VRが大きいと、ダイオードはアバランシェモードに入り、大電流が流れます。多くの場合、それは部品を永久に破損させるほどの電流です。この逆電圧の閾値は、降伏電圧(Vbr)として知られています。データシートでは、メーカーは一般的に、安全マージンを考慮して、Vbrよりも小さい動作ピーク逆電圧(Vrmax)を推奨しています(図2)。

p/n型ダイオードのV-I曲線の主要パラメータを示す図図2:p/n型ダイオードのV-I曲線には、順方向電圧(VF)、逆電流(IR)、降伏電圧(Vbr)などの主要パラメータが示されています。(画像提供:Wikipedia)

スイッチングアプリケーションでは、逆バイアスが反転しても、ダイオードには十分な電荷が残っており、逆方向に大きな電流を流すことができます。このいわゆる逆回復時間(trr)は、特に高周波数アプリケーションにおいて重要な設計パラメータです。ダイオードの接合部を形成するp型およびn型半導体に金や白金などのドーパントを追加で使用すると、trrが大幅に短縮されます。これらの材料を使用したいわゆる高速リカバリダイオードのtrrは、数十ナノ秒(ns)です。この高速スイッチング性能のトレードオフとしてVFが上昇します。一般的に0.7〜0.9Vに上昇し、それに伴い効率は低下します。ただし、高速リカバリダイオードのIRは、従来のp/n型Siダイオードと同様のままです。

実用的なアプリケーションでは、ダイオードの特性により一方向にのみ大電流が流れ、正弦波AC波の負の半分を遮断して、電圧源を効果的に整流してDC電源にします。

熱設計の課題

AC/DC変換アプリケーションでは、技術者は一般的に、消費電力を削減して熱問題を制限する点で最も効率的な部品を探します。

VFは、ダイオードの効率を決定する最も大きな要因です。ショットキーダイオードは、p型およびn型のSi接合を金属/n型のSiに置き換えることで、標準的なダイオードを改良したものです。その結果、順方向電圧降下は0.15~0.45Vにまで減少します(バリアメタルの選択によります)。ショットキーダイオードのもう一つの利点は、trrが非常に速いことです(約100ピコ秒(ps))。これらの特性から、ショットキーは高周波スイッチモード電源などのアプリケーションでよく使われる整流器となっています。

しかし、ショットキー整流器には大きなデメリットがあります。たとえば、p/n型のSiダイオードに比べてVrmaxが比較的低いのが特徴です。第二に、おそらくこちらのほうがより重要ですが、ショットキー整流器は比較的高いIRを特徴としていることです。これは、類似アプリケーションのp/n型Siダイオードが数百ナノアンペア(nA)であるのに対し、数百マイクロアンペア(μA)にもなります。さらに悪いことに、IRは接合部温度(Tj)に応じて急激に上昇します(図3)。

Nexperia 1PS7xSB70汎用ショットキーダイオードのVR対IR特性のグラフ図3:Nexperia 1PS7xSB70汎用ショットキーダイオードのVR対IR特性のグラフ通常、IRは同等のp/n型Siダイオードよりもはるかに高く、温度に応じて急激に増加します。(画像提供:Nexperia)

ダイオードベースの整流器の熱安定性は、IRによる自己発熱と、システムの熱抵抗による整流器の放熱能力との微妙なバランスで決まります(図4)。整流器が熱平衡状態にある場合、Tj(周囲温度(Tamb)を熱「グランド」として固定)は次のように記述できます。

式1

ここで、式の要素は次のとおりです。

Rth(j-a) = ダイオード接合部と周囲との熱抵抗

Pdissipated = デバイスで消費された電力

動作ダイオードに伝わる熱抵抗の図図4:動作ダイオードに伝わる熱抵抗を示しています。(画像提供:Nexperia)

動作時には、自己発熱により発生する電力が消費電力よりも小さければ、デバイスのTjは安定した状態に収束します(図5)。ただし、自己発熱量が消費量を上回ると、Tjは増加し、最終的にデバイスが熱的に不安定になります。IRは温度に応じて急激に増加するため、この状況はすぐに熱暴走となり、実質的に正のフィードバックループを発生させます。

サンプルダイオードの安定動作状態のグラフ図5:サンプルダイオードの安定した動作状態は、熱抵抗による熱システムの放熱能力(青線(1))と、それ自体の逆リーク電流(IR)(およびスイッチング損失)による整流器の自己発熱(赤線(2))のバランスで決まります。システムの温度が上昇すると、どのように自己発熱が急激に増加し、熱暴走が発生するかに着目してください。(画像提供:Nexperia)

アプリケーションに使用されるショットキーダイオードが高い周囲温度にさらされる場合、145°C以上の温度で動作が大幅にディレーティングされる場合を除き、熱暴走のリスクが高まります。そのため、高速スイッチングLEDドライバやボンネット下の車載用電子制御ユニットなどのアプリケーションでは、技術者がショットキーダイオードを敬遠する傾向があります。これまで、技術者は低IRで熱暴走しにくい高速リカバリダイオードを使うしかなく、効率の低下というトレードオフを受けて入れてきました。

SiGe整流器という代替選択肢

高温/高Vrmax設計における高速リカバリダイオードの選択肢はこれまで限られていましたが、単一デバイスにショットキーダイオードと高速リカバリダイオードの利点を組み合わせたSiGeダイオード技術の登場により、その選択肢が広がりました。これらの整流器は、ショットキーのバリアメタル/n型Si接合部を、SiGe/n型Si接合部に置き換えます(図6)。

ショットキーメタルバリアをSiGeに置き換えたSiGe整流器の図図6: SiGe整流器はショットキーメタルバリアをSiGeに置き換えます。その結果、バンドギャップが小さくなり、電子移動度が向上して、固有の電荷キャリア密度が高くなります。(画像提供:Nexperia)

SiGeは、その名のとおりシリコンとゲルマニウムの合金です。この半導体の主な利点は、シリコンよりもバンドギャップが小さいこと(バンドギャップとは半導体の価電子帯と伝導帯のエネルギー差を電子ボルト(eV)で表したもの)、高周波でのスイッチングが可能なこと、電子移動度が高いこと、固有の電荷キャリア密度が高いことなどです。SiGeの低いバンドギャップにより、Si/n型SiGe接合部のVFは約0.75ボルトとなり、高速リカバリダイオードよりも約150ミリボルト(mV)低くなります。

実際には、VFが低くなることで、高速リカバリダイオードと比較して、ダイオードの伝導損失が約20%削減されます。部品の効率は、アプリケーションのデューティサイクルなどの複数の要因に左右されますが、技術者は同種のアプリケーションで5~10%の改善を期待するのが妥当でしょう。また、SiGeダイオードはショットキーダイオードよりもIRが低いのが特長です(図7)。

ショットキーデバイスよりもIRが低いSiGe整流器の図図7:SiGe整流器の特長は、ショットキーデバイスよりもIRが低く(高温動作に優れる)、高速リカバリ整流器よりもVFが低い(高効率)ことです。(画像提供:Nexperia)

SiGeダイオードは、固有の電荷密度と電子/正孔の移動度が高いため、trrが低く、高速スイッチングが可能です。また、寄生静電容量やインダクタンスが比較的低いことも、この高速スイッチングを可能にしています。さらに、このSiGeダイオードは、同等のショットキー整流器に比べて、逆回復電荷(QRR)と逆回復電流(IRR)が低いため、スイッチング損失を低減することができます。高周波数のアプリケーションでは、これらのスイッチング損失が全体の損失の大きな要因となるため、これは非常に重要です。低IRと低スイッチング損失の組み合わせにより、熱暴走の課題はほぼ解消されます。

SiGeダイオードの選択と適用

SiGeトランジスタは数年前から市場に出回っていますが、SiGeダイオードは最近になって登場しました。たとえば、NexperiaのPMEG120G10ELRXPMEG120G20ELRX、およびPMEG120G30ELPJというSiGe整流器は、サイズと熱効率に優れたClip-bonded FlatPower(CFP3)とCFP5パッケージで提供されるファミリの一部です(図8)。このパッケージは、パワーダイオードの業界標準となっています。

Nexperia PMEG120G10ELRX SiGe整流器の図図8:PMEG120G10ELRX SiGe整流器は、CFP5パッケージで提供され、熱伝導率を高めながら省スペース化を実現しています。(画像提供:Nexperia)

このパッケージのソリッド銅クリップは熱抵抗を最小化して、熱伝導率を高めることで、よりコンパクトなプリント基板設計を可能にしています。SMAやSMBパッケージと比較して、CFP3は整流器のスペース要件を38%、CFP5は最大56%節約しています。

多くの場合、新しい技術が導入されると、設計者は実装変数を考慮する必要があります。Nexperia SiGeダイオードの場合、同社のショットキーダイオードや高速リカバリダイオードにも同じパッケージが採用されており、LED照明、車載用ECU、サーバ電源、通信インフラなどの高温アプリケーションでのドロップイン置き換えを可能にしています。

このSiGe整流器は、一般的なショットキーダイオードの上限である100Vをはるかに超えて、最大120VのVrmaxを提供します(サンプルとして150Vと200Vのバージョンも用意)。さらに、このデバイスのテストでは最大200℃まで熱暴走やディレーティングが発生しませんでした(図9)。なお、部品の動作温度限界(安全動作領域(SOA))である175℃は、ダイオードではなく、部品パッケージでほぼ決まります。図10は、SiGeダイオードの熱暴走耐性によってどのように安全動作領域を拡大できるかを、ショットキーダイオードと比較して示しています。

NexperiaのSiGe整流器はショットキー整流器のような熱暴走を起こさないことを示すグラフ図9:NexperiaのSiGe整流器は、高温になっても、ショットキー整流器のような熱暴走を起こしません。(画像提供:Nexperia)

安全動作領域の拡大を実現する熱暴走耐性のグラフ図10:熱暴走耐性により、ショットキー整流器と比較して、SiGe整流器では安全動作領域を拡大させることができます。(画像提供:Nexperia)

Nexperia SiGe整流器は、0.2nA(VR = 120V(パルス)、Tj = 25℃)の低IRで1、2、3AのIF能力を提供し、高温(VR = 120V(パルス)、Tj = 150℃)では10μAまで上昇させます。ショットキーダイオードと同様、この整流器は、スイッチング損失が少なく、trrが6nsであり、高速スイッチングオプションに適しています。本製品はAEC-Q101認定品です。

結論

ショットキー整流器は、効率的な高周波数のAC/DCコンバータの選択肢として定評がありますが、比較的高いIRにより、高温アプリケーションでは有害な熱暴走を起こしてしまう場合があります。その結果、設計者は高温のスイッチングコンバータのために、低効率でも熱的に安定した高速リカバリダイオードに頼らざるを得ませんでした。

しかし、この記事が示すように、トランジスタで実績のあるSiGe技術がダイオードでも実用化されるようになりました。この新しいクラスのデバイスは、ショットキーの効率性および高速スイッチング特性と、高速リカバリダイオードの熱安定性を兼ね備えています。そのため、LED照明、車載用ECU、サーバ電源、通信インフラなど、高温環境下で使用される設計に適したソリューションを提供しています。

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著者について

Steven Keeping(スティーブン・キーピング)

スティーブン・キーピング氏はDigi-Key Electronicsウェブサイトの執筆協力者です。同氏は、英国ボーンマス大学で応用物理学の高等二級技術検定合格証を、ブライトン大学で工学士(優等学位)を取得した後、Eurotherm社とBOC社でエレクトロニクスの製造技術者として7年間のキャリアを積みました。この20年間、同氏はテクノロジー関連のジャーナリスト、編集者、出版者として活躍してきました。2001年にシドニーに移住したのは、1年中ロードバイクやマウンテンバイクを楽しめるようにするためと、『Australian Electronics Engineering』誌の編集者として働くためです。2006年にフリーランスのジャーナリストとなりました。専門分野はRF、LED、電源管理などです。

出版者について

Digi-Keyの北米担当編集者