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モジュール式のマルチ出力AC/DC電源を使用して柔軟性と構成可能性を実現

著者 Bill Schweber氏

Digi-Keyの北米担当編集者 の提供

システム設計者やインテグレータは、精度、安定性、高速過渡応答などの性能要素を満たしつつアプリケーションに必要な電圧レールを提供するために、適切に設計されたライン動作のAC/DC電源を頼りにしています。多くのシステムにおいて、AC/DC電源は複数の独立した出力電圧(レール)を同時に供給する必要があります。また、これらの電源は、電磁干渉(EMI)、無線周波数干渉(RFI)、効率、およびユーザーの基本的な安全性など、複数の規制基準を満たす必要もあります。医療用アプリケーションの設計者である場合は、許容リーク電流や複数の患者保護手段(MOPP)に関する追加規格にも対応する必要があります。

こうしたアプリケーションのニーズに応えるために、さまざまな出力電圧と電流が事前に設定されたマルチ出力電源が用意されています。しかし、事前に設定されたマルチ出力AC/DC電源では、しばしば変わるニーズに応じてBOM(部品表)や在庫管理が複雑になる可能性があります。また、特に少量生産の特殊な最終製品のように、製品ごとに異なるマルチ出力電源を必要とする場合は、柔軟性が限定されます。多くの場合で設計者にとってより良い選択肢は、モジュール式AC/DCのアプローチを使用することです。

この記事では、医療、産業、およびテストのアプリケーション、特に固有またはカスタムの調整が必要な場合におけるこのアプローチの特長と利点を見ていきます。次に、MEAN WELL Enterprises Co., Ltd.の高性能AC/DCモジュール式電源を紹介し、それらがどのように使われているかを示します。

マルチ出力要件に対応した電源構成

システムでは、内部用と外部機器用に複数のDCレールが必要になるのが普通です。たとえば、プロセッサを中心とした論理およびデジタル回路には通常、1桁台の低い電源レールが必要ですが、機器やそのドライバには、より高い電圧や異なる電流定格が求められることがあります。

多くの場合、必要なDC出力電圧とその最大電流の具体的な一覧は、以下2つの理由から、固定や不変ではありません。

  • 小型のモータ、LEDアレイ、医療用スキャンシステムと同タイプの大型機器を比較すると、さまざまな機器に同じ基本設計が使用されている場合は、一部のレールの電圧や電流を変更する必要が生じます。
  • 製品や製品ファミリに固定のDC出力要件があったとしても、企業のポートフォリオには複数の関連製品があり、それぞれに異なる電源調整が必要になることが多くあります。

このような多様なニーズに応えるため、設計者には以下2つの選択肢があります。

  • 製品のバージョンごとに必要な出力レール電圧に基づき調達した、個別のマルチ出力電源を使用することができます。このような構成不可能な電源を使用すると、在庫管理やサプライチェーンの問題が発生し、予測、発注、在庫、リードタイムなどの非効率性が生じます。
  • 各製品バージョンのニーズに合わせて、単出力のAC/DC電源(モジュール)を混在させることができます。これにより、在庫やサプライチェーンの問題はある程度単純化されますが、デザインインやアセンブリの課題が増える可能性があります。その理由は、さまざまな電源でフットプリント、容積、および取り付け方法が異なる可能性があるからです。その結果、それぞれの固有の構成に応じて、製品全体のアセンブリを変更する必要が生じます。

これは、「理論上」は些細な問題のように見えますが(図1)、実際には望ましくない「波及効果」が生じる可能性があります。

単一のマルチ出力電源と複数のシングル出力電源を比較した画像図1:単一のマルチ出力電源を使用する場合と、複数のシングル出力電源を使用する場合の違いはわずかなように見えますが、サプライチェーンや生産工程への実際の影響は大きくなる可能性があります。(画像提供:ビル・シュウェーバー氏

医療用アプリケーションでは、さらに要件が加わります。

より良い選択肢は、状況の詳細および、トレードオフや優先順位と設計目標とのバランスによって決まります。しかし、患者とAC/DC電源で動作する機器との物理的な接触をともなう多くの医療用アプリケーションには追加の制約があり、前述した2つの選択肢の選択に影響を与えます。

2020年12月に既存のIEC 60950-1およびIEC 60065規格から完全に置き換えられた、情報およびコンピュータ技術(消費者向け製品を含む)向けのIEC 62368-1など、より広範な用途で使用される電源を管理する他の規格に加えて、IEC 60601-1などを主とした規制上の義務があります。

設計者は電源を選択する際に、設計要件と規制を考慮する必要があります。たとえば、保護接地導体を介してアースに流れる電流である、リーク電流の問題があります。良好な接地接続がない場合に(規格では実際に接続がないことを前提としています)、人体のような導電性の経路があると、導電性部品や非導電性部品の表面からグランドに流れる電流があり、生命を脅かす危険性をはらみます。

医療用アプリケーションで許容される最大リーク電流は、他の一般的なアプリケーションに比べてはるかに小さいものです。その理由は、この電流が身体、特に胸部に流れると、サブミリアンペア領域の非常に低いレベルであっても、心停止を引き起こす可能性があるからです。「通常」の使用環境では、この電流がゼロまたはほぼゼロになりますが、規格では、故障が発生して身体に電流が流れることが想定されています。

これは、複数のAC/DC電源レールのニーズに応えるための2つの方法の選択に、どのような影響を与えるのでしょうか。2つ目の選択肢が魅力的に見えても(場合によってはそのとおりかもしれませんが)、規制上の義務のために、微妙ながらも重要な技術的検討が必要になります。規制基準では、個々の構成電源ではなく、最終製品全体のリーク電流を測定します。そのため、個々のマルチ出力電源のリーク電流が許容値以下であり(図2)、個々のシングル出力電源が許容値以下であっても、複数のシングル出力電源のリーク電流の合計が許容値を超えてしまうことがあります(図3)。

単一のマルチ出力AC/DC電源であるMEAN WELLのNMP1K2-HHEKC#-01の図図2:複数のDC出力を提供する最も一般的な方法は、事前に設定された出力電圧値と指定された最大リーク電流を持つ、単一のマルチ出力AC/DC電源を使用することです。(画像提供:MEAN WELL)

一連のシングル出力AC/DC電源を使用して複数のDC出力を供給する図(クリックして拡大)図3:別の方法として、個々のシングル出力AC/DC電源のセットを使用して複数のDC出力を提供することもできますが、それらのリーク電流は加算され、許容範囲を超える可能性があります。(画像提供:MEAN WELL)

次に、多くの医療システムでは独自の要件として、1つのMOPPではなく、2つのMOPPが必要とされています。これは、1つのMOPPが故障した場合に、患者の被害に対する追加的な保険を提供するための追加要件です。また、オペレータ保護手段(MOOP)についても対応する要件があります。

電源サブシステム以外の製品の回路でMOPPを実現する方法はいろいろありますが、製品の電源サブシステム内では、絶縁型トランスを使って実現するのが一般的です(医療専用の規制基準を満たしたトランスがMOPPとみなされます)。他の義務とともに、トランスの2次側からのグランドリターンがないことによって1つのMOPPを実現し、1次/2次による絶縁が2つ目のMOPPとなります(図4)。

絶縁型トランスと1次-2次巻線ペアの図図4:絶縁型トランスと1次-2次巻線ペアにより、AC式の電源でMOPPを実現します。(画像提供:MEAN WELL)

また、効率性の要件を定めた規格も課題に加わります。これらの規格では、リーク電流と同様に、定義された動作条件と電力レベルにおけるシステム全体の効率を見ています。複数のレールシステムの中にある個々の電源が基準を満たしていても、規制当局の承認は、個々に評価された基礎となる電源ではなく、集約されたシステムの効率に基づきます。

電源にモジュール式を採用

ここまで、マルチレール方式には、事前に設定された出力固定(したがって柔軟性は制限されます)のマルチ出力AC/DC電源を1台使用する方式と、シングル出力のAC/DC電源を複数台使用し、必要に応じて組み合わせる方式の2つがありました。

しかし、別の選択肢もあります。MEAN WELLは、出力構成の柔軟性を備えつつ医療を含むすべての関連規制基準を上回る、モジュール式AC/DCアーキテクチャを開発しました。MEAN WELLのシステムは、ユーザーが選択可能なアドインのDC出力モジュールを備えたモジュール式のシャーシで構成されています(図5)。

このシャーシには、定格650Wの4チャンネル(スロット)対流冷却型シャーシNMP650-CEKK-03と、定格1200Wの6チャネル強制空冷(ファン)型シャーシNMP1K2という2つの容量があります。どちらのシャーシも1Uのスリムな機械設計で、厳しいスペースの制約に対応します(1Uは1.75インチ/44.45mmのラック高さ)。

MEAN WELLの6チャンネル強制空冷(ファン)型シャーシNMP1K2の画像図5:MEAN WELLのシステムは、4チャンネルまたは6チャンネルのモジュール式シャーシと、独立したプラグイン式DC出力モジュールのファミリで構成されています。NMP1K2のカバーを外した状態(上)と、装着した状態(下)を示しています。(画像提供:MEAN WELL)

このシャーシには、1次側のACライン絶縁型トランスと、フロントエンドのパワー変換/安定化回路が搭載されています(図6)。NMP1K2では、内部の温度検知機能によりファンの回転数を自動的に調整し、シャーシを熱的制限値以下に保つとともに、エネルギー使用量と音響ノイズを最小限に抑えています。NMPシリーズは、IEC 60601-1の医療安全認証(1次-2次:2 x MOPP、1次-アース:1 x MOPP)および、IEC 62368-1の情報技術(IT)産業規制に適合しています。このシリーズはまた、EN61000をはじめとした、関係する電磁両立性(EMC)エミッションとイミュニティの要求事項にも対応しています。

MEAN WELLのNMPシャーシの図(クリックして拡大)図6:NMPシャーシには、必要なACライントランスおよび、1段のパワー変換と制御回路が搭載されています。(画像提供:MEAN WELL)

いずれのシャーシのチャンネル(スロット)にも、5V(公称)/36AのユニットであるNMS-240-5など、必要な出力定格のDC出力モジュールが搭載されています(図7、図8)。この他にも、12V/20A、24V/10A、48V/5Aの出力を備えたシングル出力ファミリのモジュールがあります。

NMP650およびNMP1K2シャーシ用のMEAN WELL NMS-240-5モジュールの図(クリックして拡大)図7:NMP650およびNMP1K2シャーシ用のNMS-240-5モジュールは、最大36Aで5ボルト(公称)を供給します。(画像提供:MEAN WELL)

MEAN WELLの5V/36A NMS-240-5モジュールの画像図8:5V/36AのNMS-240-5モジュールは、NMP650およびNMP1K2シャーシのスロットにスライドして入ります。(画像提供:MEAN WELL)

MEAN WELLでは、1つのスライドインモジュールから2つのDC出力を必要とするアプリケーション向けに、3~30V/5Aのデュアル出力モジュールNMD-240を提供しています(図9)。

MEAN WELLのNMD-240 シングルスロット、デュアル出力モジュールの図(クリックして拡大)図9:NMD-240はシングルスロット、デュアル出力のモジュールで、両チャンネルから最大5Aで最大30ボルトの出力が可能です。(画像提供:MEAN WELL)

汎用性を高める追加機能

電源の性能は、出力電圧精度、過渡応答および過負荷応答、温度安定性、ライン安定化、負荷安定化といった最優先パラメータの仕様によって特徴づけられます。しかし、供給の利便性やユーザーの信頼を高めるために追加できる機能もあります。MEAN WELLのNMP650およびNMP1K2シャーシとそのプラグインモジュールには、以下のような追加機能があります。

  • 保護機能:短絡保護、過負荷保護、過電圧保護、過温度保護をすべての出力モジュールに搭載しています。過温度保護は、TTLレベルの信号出力(最大ソース電流10mA)で示されます。
  • 補助電源出力:NMP650シャーシは5V/1.5A、NMP1K2は5V/10mAの出力が可能で、フルサイズのモジュールでは過剰になる場合の補助機能に便利です。
  • また、マルチ出力に関する問題に対処するための機能もあります。場合によっては、シャーシ全体とすべての出力に対して単一のオン/オフ制御が必要となりますが、テストや運用の場面では、出力を個別に制御して、各出力レールを独立してオン/オフする必要があります。NMPのシャーシには、グローバルなオン/オフ制御機能が搭載されていますが、各DC出力モジュールは、リモート信号およびローカルスイッチによって個別にオン/オフすることができます。
  • 最後に、モジュールの電流と電圧のプログラム可能性があります。外部からの0~1VのDC信号を使用して、各モジュールの出力電圧を公称値の50~100%に、出力電流を40~100%にプログラムすることができます。

結論

マルチ出力AC/DC電源を選択する際は、性能、機能、特長、調達、規制基準などを考慮します。MEAN WELLのNMPシャーシは、プラグイン式の出力カードを選択できるため、設計者に出力構成の柔軟性を提供します。また、エンドユーザーの多様な要件を容易かつ迅速に満たすことができる機能も備えています。

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著者について

Bill Schweber氏

エレクトロニクスエンジニアであるBill Schweber氏はこれまで電子通信システムに関する3冊の書籍を執筆しており、また、発表した技術記事、コラム、製品機能説明の数は数百におよびます。これまで、EE Timesでは複数のトピック固有のサイトを統括するテクニカルウェブサイトマネージャとして、またEDNではエグゼクティブエディターおよびアナログエディターの業務を経験してきました。

Analog Devices, Inc.(アナログおよびミックスドシグナルICの大手ベンダー)ではマーケティングコミュニケーション(広報)を担当し、その職務を通じて、企業の製品、ストーリー、メッセージをメディアに発信する役割と、自らもそれらを受け取るという技術PR業務の両面を経験することになりました。

広報の業務に携わる以前は、高い評価を得ている同社の技術ジャーナルの編集委員を務め、また、製品マーケティングおよびアプリケーションエンジニアチームの一員でした。それ以前は、Instron Corp.において材料試験装置の制御に関するハンズオンのアナログおよび電源回路設計およびシステム統合に従事していました。

同氏はMSEE(マサチューセッツ大学)およびBSEE(コロンビア大学)を取得した登録高級技術者であり、アマチュア無線の上級クラスライセンスを持っています。同氏はまた、MOSFETの基礎、ADC選定およびLED駆動などのさまざまな技術トピックのオンラインコースを主宰しており、またそれらについての書籍を計画および執筆しています。

出版者について

Digi-Keyの北米担当編集者