RF指向性カプラの基礎とその効果的な使用方法
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2019-10-22
車載レーダ、5Gセルラー、IoTなどの無線周波数(RF)の応用により、電子システムで使用されるRFソースの数が増えています。これらすべてのソースに、RFパワーレベルを監視および制御しながら、同時に伝送路および負荷で損失を発生させない方法が必要です。また、一部の応用では高電力トランスミッタ出力が必要になるため、設計者は、高レベルの信号で損傷を受ける可能性がある高感度の計測器を直接接続せずに出力信号を監視する方法を見つけ出す必要があります。
その他にも、幅広い周波数範囲でアンテナなどのRF負荷の特性を判定する方法や、トランスミッタの無線通信中に負荷変動および定在波比を監視して、高反射電力とアンプの損傷を防ぐ方法などの課題があります。
これらの要件や課題の解決策は、伝送路に挿入される指向性カプラにあります。これにより、伝送路のRFエネルギーフローを正確に監視しながら、パワーレベルを既知の固定量だけ下げることができます。指向性カプラは、サンプリングプロセスにおける主伝送路の信号の乱れを最小限に抑えます。順方向電力と反射電力を区別でき、無線通信中にリターンロスまたは定在波比を監視して負荷変動のフィードバックを提供することができます。
この記事では、指向性カプラの動作について説明し、Anaren、M/A-Com、およびAnalog Devicesから提供されている3つのトポロジと適切な例を紹介します。また、その一般的な特性と効果的な使用方法についても説明します。
指向性カプラとは
指向性カプラは、RFソース(信号発生器、ベクトルネットワークアナライザ、トランスミッタなど)と負荷の間の伝送路に挿入される測定デバイスです。ソースから負荷へのRFパワー(順方向成分)と負荷からソースに反射して戻るRFパワー(反射成分)の両方を測定します。順方向成分と反射成分を把握すると、合計パワー、リターンロス、および負荷の定在波比を計算できます。
指向性カプラは、3または4端子のデバイスとして構成される4ポート回路です(図1)。
図1:3ポート(左)と4ポート(右)の両方の指向性カプラを表す回路図記号。(画像提供:DigiKey)
一般的に、ソースはカプラの入力ポートに接続され、負荷は出力ポートまたは送信ポートに接続されます。結合ポートの出力は、減衰バージョンの順方向信号です。減衰値は、3ポートの例に示されているように指定できます。3ポートバージョンで内部的に終端されている絶縁ポートは、4ポートバージョンでは外に出ており、その出力は反射信号に比例します。回路図記号内の矢印は成分の経路を示します。たとえば、4ポート構成では、入力ポートは結合ポートに向けられており、順方向成分を受信することを示している一方で、出力ポートは反射信号を読み取る絶縁ポートにリンクされています。ポート番号は標準化されておらず、メーカーによって異なります。ポートの名称はサプライヤ間で統一傾向にあります。
カプラは対称デバイスで、接続を反転できます。3ポートデバイスの場合は、入力ポートと出力ポートを反転すると、ポート3が絶縁ポートになります。4ポートデバイスの場合は、入力ポートと出力ポートを反転すると、結合ポートと絶縁ポートが入れ替わります。
カプラの出力はRF信号です。結合ポートと絶縁ポートの出力は一般に、順方向電力と反射電力のレベルに関連するベースバンド信号を生成するピークまたはRMS検出器に接続されます。指向性カプラと関連する検出器の組み合わせは反射率計と呼ばれます。
場合によっては、2つの指向性カプラがバックツーバックで接続され、デュアル指向性カプラを形成します。これにより、結合ポートと絶縁ポート間のリークが最小限に抑えられます。
指向性カプラの仕様
指向性カプラは、帯域幅、定格入力、挿入損失、周波数平坦性、結合係数、指向性、絶縁、残留電圧定在波比(VSWR)などの主な特性で規定されます。
帯域幅:カプラの帯域幅は周波数の範囲(Hz)を示し、カプラはこの範囲において、その仕様内で機能するように設計されます。
定格入力:カプラには、連続波(CW)とパルス入力信号の両方に関する最大入力定格(W)があります。これは、デバイスで性能の低下や物理的損傷を伴わずに処理できる最大パワーレベルです。
挿入損失:デバイスを主伝送路に挿入することで生じる電力損失(dB)です。
周波数平坦性:周波数平坦性は、入力信号の周波数の変動に応じたデバイスの指定帯域幅における主伝送路の振幅応答の変動(dB)を指定します。
結合係数:結合係数は、カプラがすべてのポートで適切に終端される場合の、結合ポートの電力に対する入力電力の比率(dB)です。これは指向性カプラの主要な特性の1つです。結合ポートの出力は、この既知の係数を単位として、入力から出力への直接経路のパワーレベルに比例します。結合出力は、機器に過負荷をかける危険を伴わずに、オシロスコープなどの他の計測器に接続できます。
絶縁:すべてのポートが適切に終端される場合の、入力ポートと絶縁ポートの電力の比率(dB)です。
指向性:すべてのポートが適切に終端される場合の、絶縁ポートの電力に対する結合ポートの電力の比率(dB)です。3ポートカプラの場合は、通常の順方向方向の測定と、入力ポートおよび出力ポートを反転した場合の測定の2つの電力測定が行われます。この仕様は、順方向成分と反射成分の分離の尺度です。一般に、指向性が高いほどカプラの性能が向上します。指向性は直接測定できませんが、絶縁と反転絶縁の測定に基づいて計算されます。
残留VSWR:カプラがすべてのポートで適切に終端される場合に測定した定在波比です。これは、カプラに固有のインピーダンス整合の尺度です。
指向性カプラのトポロジ
指向性カプラの設計はさまざまな方法で実行できます。最も一般的な3つのトポロジは、RFトランス、抵抗ブリッジ、結合伝送路です。RFトランスベースのトポロジでは、2つのRFトランスが使用されます(図2)。ここで、トランスT1は、入力と負荷間の主伝送路の電流を感知します。2つ目のトランスT2は、主伝送路のグランドに対する相対電圧を感知します。結合係数は、トランスの巻数比Nで制御されます。
図2:RFトランスベースの指向性カプラのトポロジでは、2つのRFトランスを使用して、主伝送路の順方向成分と反射成分の両方を感知します。(画像提供:DigiKey)
このタイプの指向性カプラの理論上の動作を分析するには、結合伝送路で各トランスによって個別に誘起された電圧を組み合わせて結果を加算します(図3)。Vinは順方向電圧で、VLは反射電圧です。
図3:トランスベースのカプラの分析では、結合伝送路に対する両方のトランスの電圧寄与を個別に分析します。(画像提供:DigiKey)
結合ポート(VF’)および絶縁ポート(VR’)の結合伝送路に対する電流センストランスの寄与が、上側の図で計算されます(電圧センシングトランスが図から削除されています)。同様に、電圧センシングトランスからのこれらのポートに対する寄与(電流センシングトランスが削除されている)が、下側の図でVF”およびVR”として計算されます。 結合ポートVFの電圧は、VF’およびVF”の加算によって決まります。
式1
結果として得られる結合ポートの電圧は、入力電圧をトランスの巻数比で割ったものです。
同様に、VR’およびVR”を組み合わせると、絶縁ポートの電圧が得られます。
式2
絶縁ポートの電圧は、反射電圧をトランスの巻数比で割って負の記号を付加したものです。負の記号は、反射電圧が順方向電圧と180°位相がずれていることを示します。
このタイプの指向性カプラの性能は、帯域幅が5~1225MHzにわたるM/A-ComのMACP-011045で見られるように、幅広い周波数範囲で優れています。このトランスベースのカプラの結合係数は23dBで、電力定格は10Wです。絶縁は周波数に依存し、45dB(周波数が30MHz未満)から27dB(周波数が1GHzを超える)まで幅があります。寸法が6.35mm x 7.11mm x 4.1mmの面実装パッケージを使用しており、ほとんどのワイヤレスアプリケーションとの互換性が確保されています。
結合伝送路ベースのカプラは、同軸ケーブルまたはプリント回路伝送路に基づきます。このメカニズムでは、一般に長さが4分の1波長の複数の伝送路が近接して配置され、主伝送路から1つ以上の結合伝送路までの間で制御された少量の信号電力がリークするようになっています(図4)。
図4:結合伝送路を使用したデュアル指向性カプラの例。伝送路は一般に、設計された中心周波数の4分の1波長のセクションです。(画像提供:DigiKey)
入力はポート1に印加され、電力のほとんどがポート2の負荷に提供されます。ポート3および4に接続されている2つ目の伝送路に少量の電力が結合されます。ポート3は結合ポートです。ここでのパワーレベルは、印加された電力の固定割合です。結合係数は、結合伝送路のジオメトリの関数で、結合ポートの電力を示します。反射電力は、ポート4(絶縁ポート)に結合されます。
Anarenの11302-20は、代表的な結合伝送路の指向性カプラで、周波数範囲190~400MHzに対応しており、最大100Wを処理できます。公称結合係数は20dBで、挿入損失は0.3dBです。16.51 x 12.19 x 3.58mmの面実装パッケージに収められており、標準的なパワートランスミッタのパワーレベルとVSWRの測定を監視することを目的としています。このタイプのカプラの寸法は周波数範囲に関連します。動作周波数が低下すると、長さは増す必要があります。一般にUHFおよび高周波に使用され、寸法は小さくなります。
最後の指向性カプラのトポロジは、従来のホイートストンブリッジに関連する回路である指向性ブリッジです。このトポロジは、Analog DevicesのADL5920 RMSおよびVSWR検出器で使用されています(図5)。
図5:Analog DevicesのADL5920 RMSおよびVSWR検出器で使用されている双方向ブリッジの概略図。ここに示した計算では、適切に終端された状態の分析に基づいて指向性33dBが導出されます。(画像提供:Analog Devices)
ADL5920では、抵抗ブリッジを使用して伝送路の順方向電圧と反射電圧を分離します。ここに示した計算では、定格終端で低周波のデバイスの理論上の指向性を計算します。結果として、指向性は33dBになります。ブリッジからのVREVおよびVFWDの出力は、60dBのダイナミックレンジを持つRMS検出器段に供給されます。検出器の出力は線形にdB単位で読み取られます。順方向出力と反射出力の差から導出される3つ目の出力は、リターンロス(dB)に比例する電圧を生成します。このブリッジベースのカプラは、9kHz~7GHzの周波数範囲に対応し、50Ωの整合負荷で電力定格は33dBm(2W)です。挿入損失は、0.9dB(10MHz)から2dB(7GHz)まで幅があります。デバイスは、厚さが0.75mmの5 x 5mmの面実装パッケージに収められています。
Analog Devicesは、ADL5920の評価ボードであるADL5920-EVALZを提供しています。完全実装で、5V、200mAの電源が必要です。入出力は2.92mmのコネクタを介して使用でき、1次出力も同様です。次の回路図は、ADL5920に必要となる一般的な接続を示しています(図6)。これはADL5920を試すのに最適なツールで、最小限の作業で試すことができます。
図6:このADL5920-EALZ評価ボードの回路図は、Analog DevicesのADL5920双方向RMSおよびVSWR検出器に必要となる一般的な接続を示しています。(画像提供:Analog Devices)
指向性カプラの抵抗ブリッジの実装では最も広範な周波数範囲が実現し、直流(DC)にかなり近づきます。トランスおよび伝送路のバージョンでは帯域幅がより制限されますが、どちらもより高い電力制限に対応します。
これらのデバイスのいずれかを使用して、信号監視回路で使用される入力電力のサンプルを取り出すことができます。オシロスコープやスペクトラムアナライザなどの従来の機器でそのサンプルを測定して、パワーレベル、周波数、および変調を特定できます。そのデータを、出力を目的の制限内に保つように調整するフィードバックループの一部として統合することもできます。
負荷の状態は電圧定在波比(VSWR)で示されます。出力ポートの負荷のVSWRは、結合ポートと絶縁ポートの両方の出力(それぞれ順方向電圧と反射電圧を表す)を使用して計算できます。
式3
リターンロスはVSWRから計算できます。
式4
まとめ
指向性カプラは、RFシステム設計者に有用な測定デバイスです。振幅が拡大縮小されたRFパワーレベルのビューを確認できるだけでなく、順方向信号成分と反射信号成分を分離して負荷を特性化することもできます。これまで見てきたように、ワイヤレスデバイスとの互換性がある小型のパッケージでこれらの出力を供給する3つのカプラトポロジが一般的に使用されています。
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