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USB電源とデータの絶縁のための技術とソリューション

著者 Doug Peters(ダグ・ピーターズ)

Digi-Keyの北米担当編集者 の提供

1996年に登場したユニバーサルシリアルバス(USB)は、周辺機器をPCに接続するための代表的な方法となっています。過去24年間でUSBのデータレートが1.5Mbits/秒から20Gbits/秒を超えるまでに増加しているため、特に試験・計測器メーカーはこれに注目し、USBベースのテスト機器を市場に投入しています。また、USBの普及率の高さを利用して、愛好家も独自の測定ツールを数多く開発しています。

しかし、パソコンのUSBポートに接続されたUSBベースの機器を使用したり設計したりする際には、危険が潜んでいる可能性があります。被試験デバイス(DUT)はフローティング電源から給電されている場合がありますが、アース接地されたPCに接続されるとグランドループが発生する可能性があります。その結果、深刻な接地電位差が発生し、回路の損傷、さらには人身事故を引き起こす可能性があります。

グランドループ接続を根絶するには、電源とデータ通信経路の両方をPCのUSBアースからガルバニック絶縁する必要があります。データ通信を絶縁するには、データレートやプロトコルに応じていくつかの選択肢があります。さらに、容量性、光、および電磁を含む複数の絶縁戦略を展開することができます。

この記事では、ガルバニック絶縁を定義してから、さまざまなUSB絶縁技術とそれぞれの長所と短所を説明します。その後、Texas InstrumentsWürth ElectronikON SemiconductorAnalog Devicesの実際の絶縁ソリューションを紹介し、それらを効果的に応用する方法を解説します。

ガルバニック絶縁とは?

ガルバニック絶縁は根本的に、2つ以上の別々の電気回路間の電流の流れや伝導を防ぎながら、エネルギーや情報がそれらの間を通過することを可能にします。

簡略化のため、この記事では一次側と二次側と呼ばれる2つの別々の回路に焦点を当てます。一次回路はUSB給電で、ホストPCと双方向のデータフローを共有します。回路を区切る領域は絶縁バリアと呼ばれ、数百ボルトから数千ボルトのブレークダウン電圧に耐えられるように選択されています。一般的には、空気、二酸化ケイ素(SiO2)、ポリイミド、または他の非導電性材料で2つの回路を分離します(図1)。

一次側のUSB入力と二次側の間のガルバニック絶縁を示す図図1:回路の一次側のUSB入力と二次側をガルバニック絶縁した例を示しています。絶縁バリアは数百から数千ボルトの電圧に耐える必要があります。(画像提供:Digi-Key Electronics)

絶縁されたデータ転送

上記で定義されているように、ガルバニック絶縁は、分離された電気回路間でデータまたは情報の転送を可能にします。しかし、回路の間に何らかの導電性材料を使用せずに、どのようにしてこれを実現できるのでしょうか。この問題に対しては、光技術、容量性技術、電磁技術など、いくつかの実用的なソリューションがあります。後述するように、これらのアプローチのそれぞれに利点と欠点があります。設計者が使用する戦略を決定する際は、データレート、静電気放電(ESD)、干渉、および電力要件のすべてを考慮する必要があります。

光学:絶縁のための最もよく知られたアプローチの1つは、光学アイソレータまたは光アイソレータ(またはオプトカプラ)です。絶縁バリアの一次側に発光ダイオード(LED)を使用し、二次側に感光トランジスタを使用することで絶縁を実現します。ON SemiconductorのFOD817は、光アイソレータの好例です(図2)。データは、光パルスを使用して絶縁バリアを通してLEDから送信され、オープンコレクタ構成のフォトトランジスタによって受信されます。LEDが点灯しているときは、フォトダイオードによって二次回路に電流が流れます。

データ転送に光を使用しているため、光アイソレータは電磁干渉(EMI)の影響を受けにくくなります。マイナス面として、データ転送速度はLEDのスイッチング速度によるため、データ転送速度が遅くなる可能性があります。また、光アイソレータは、LEDの経年劣化により、他の技術に比べて寿命が短くなる傾向にあります。

光アイソレータの図 - LEDは絶縁バリアを通して光パルスを放出します図2:光アイソレータ - LEDから放たれた光パルスが絶縁バリアを通してフォトダイオードで受信され、二次回路に電流を発生させます。(画像提供:ON Semiconductor)

FOD817はシングルチャンネルのデバイスで、最大5kV rms AC、1分間の定格です。シリコンフォトトランジスタを駆動するガリウムヒ素(GaAs)赤外線(IR)LEDで構成されています。用途には、パワーレギュレータやデジタル論理入力などがあります。

電磁絶縁:これはおそらく、回路絶縁に関する最も古い技術的アプローチです。2つのコイル間のデータ(および電力、後述するとおり)送信に電磁誘導の原理が使われます。このアプローチは、iCoupler技術を持つAnalog Devicesのような企業により、時間の経過とともに大幅に強化されてきました。iCoupler技術では、トランスコイルを集積回路内に埋め込み、絶縁バリアにポリイミド基板を使用します。

絶縁に対する電磁的アプローチは、光アイソレータよりも磁界干渉の影響を受けやすく、製品の設計段階で対処しなくてはならない可能性がある潜在的な電磁干渉(EMI)を独自に発生させます。しかし、100Mbits/秒以上の高速なデータレートや低消費電力化などの利点があります。

Analog DevicesのADuM1250は、このタイプの技術の一例です(図3)。ホットスワップアプリケーションなどの双方向I2Cデータ絶縁アプリケーションをターゲットとしたこのデバイスは、最大1Mbit/秒のデータレートを特徴とし、UL1577に準拠した1分間2500ボルトrmsの定格を備えています。5ボルトの電源電圧(VDD1、VDD2)で、一次側の入力電流(IDD1)は2.8mA、二次側の電流(IDD2)は2.7mAとなっています。ADuM1250の各I2Cチャンネル(クロックとデータライン)には、双方向性を実現するために2つの内蔵トランスが必要であることに注意してください。

一般的に、データはエッジ遷移スキーマを使用してトランスコイル間で伝送されます。短い1ナノ秒のパルスを使用して、データ信号のリーディングエッジとトレーリングエッジを識別します。また、エンコードやデコードのハードウェアもデバイスに内蔵されています。

Analog DevicesのADuM1250デュアルI2Cアイソレータの図図3:ADuM1250デュアルI2Cアイソレータは、双方向のデータとクロック転送を実現するために、各I2Cラインで2つの異なるトランスを必要とします。(画像提供:Analog Devices, Inc.)

容量性絶縁:容量性絶縁は、その名の通りコンデンサを使用することで実現します(図4)。容量性技術の特性上、DC電圧はコンデンサで遮断され、AC電圧は自由に流れるようになっています。

DC信号を遮断する際に容量性特性を利用する容量性絶縁の図図4:容量性絶縁では、容量性特性を利用してDC信号を遮断し、AC信号が絶縁バリアを通過して流れるようにします。(画像提供:Texas Instruments)

コンデンサ間のデータ転送に高周波キャリヤ(AC)を使用することで、オンオフ変調(OOK)などの変調スキーマを使用して情報を渡すことができます。高周波キャリヤの存在によってゼロ(LOW)のデジタル出力となり、キャリヤがない場合は1(HIGH)を示します(図5)。

高周波キャリヤ(AC)信号を使用するオンオフ変調(OOK)スキーマの図図5:オンオフ変調(OOK)スキーマは、絶縁バリアを通して送信される高周波キャリヤ(AC)信号の有無を使用して、論理レベルのHIGHまたはLOW信号を転送します。(画像提供:Texas Instruments)

容量性絶縁の利点は、磁気絶縁と同様に、データ転送速度が速く(100Mbits/秒以上)、消費電力が低いことです。欠点としては、電界干渉を受けやすくなることなどが挙げられます。

容量性絶縁技術の優れた例としては、最大5000ボルトrmsの絶縁を実現するTexas InstrumentsのISO7742クワッドチャンネルデジタルアイソレータがあります。このデバイスには、必要なデータの流れの方向に応じて複数の構成があります。データレートは100Mbits/秒で、チャンネルあたりの消費電流は1.5mAです。ISO7742の用途には、医療機器、電源、産業用オートメーションなどがあります。

USB電源の絶縁

絶縁コンポーネントのデータシートをよく見てみると、絶縁コンポーネントの各側には別々の電源が必要であることがすぐにわかります。絶縁バリアを維持するため一次側と二次側(VCC1とVCC2)にそれぞれグランドリファレンスがあります。

検討中の設計で別個の電源があり、一次側にUSB 5ボルト、二次側に電源を供給するための別個のバッテリとグランドがあるのであれば十分です。しかし、この製品が単一電源用に設計されている場合、たとえばUSB 5ボルト入力のみの場合は、二次絶縁電圧はどのように供給されるのでしょうか。DC-DCコンバータ(またはトランスドライバ)と絶縁型トランスが解決策を提供します。DC-DCコンバータは電圧の昇降に使用することができ、トランスはガルバニック絶縁を提供します。

Texas InstrumentsのSN6505ドライバとWürth Elektronikの750315371絶縁型トランス(2500ボルトrms絶縁)を組み合わせた、このような絶縁型電源の例を、図6に示します。SN6505に5ボルト、500mAのUSB規格の入力を使用すると、一般的にデータ転送用の二次側アイソレーション回路やセンサなどの他の回路を駆動するのに十分な電力を供給することができます。二次回路側の2つのダイオードが、出力に整流作用を与えています。多くの設計では、二次側に低ドロップアウト(LDO)電圧レギュレータを追加して、よりクリーンな電圧安定化を実現しています。

Texas InstrumentsのSN6505トランスドライバとWürth Elektronikの750315371絶縁型トランスの組み合わせを示す図図6:Texas InstrumentsのSN6505トランスドライバとWürth Elektronikの750315371絶縁型トランスの組み合わせにより、二次側回路を駆動するための絶縁電源経路が提供されます。(画像提供:Texas Instruments)

設計者にとって重要になり得るもう一つの基準は、プリント回路基板(PCB)の利用可能なスペースです。電源とデータの絶縁に別個のコンポーネントを使用すると、ボード上の貴重なスペースを消費します。幸いにも、電源とデータ転送の絶縁を1つのパッケージにまとめたデバイスがあります。このようなトポロジの例としては、Analog DevicesのADuM5240デュアルチャンネルデジタルアイソレータがあります(図7)。

Analog DevicesのADuM5240デュアルチャンネルデジタルアイソレータの図図7:Analog DevicesのADuM5240デュアルチャンネルデジタルアイソレータは、電源とデータの絶縁を1つのデバイスにまとめ、省スペース化を実現しています。(画像提供:Analog Devices)

ADuM5240は、単一のパッケージで電源とデータ送信の両方にトランスベースの磁気絶縁を使用し、プリント基板全体の面積要件を削減します。ADuM5240は、UL1577に準拠した1分間2500ボルトrmsの絶縁と、最大1Mbit/秒のデータレートを提供します。

上流USBデータの絶縁

上述した全ての実施例は、一次側回路と二次側回路の間の絶縁を前提としています。データ絶縁ハードウェアを使用せずに設計された周辺機器が既に存在する場合、設計者はUSBインターフェース(つまりケーブル)でデータ絶縁を行うことができます。これにより、USBホストとUSB周辺機器の間のデータ絶縁が効果的に上流に押し上げられます(図8)。

USBホストとUSB周辺機器の間のデータ絶縁を効果的に上流に移動させる図図8:データ絶縁ハードウェアを使用せずに設計された周辺機器が既に存在する場合でも、USBホストとUSB周辺機器の間でUSBデータ絶縁を上流に移動させることで保護を提供することができます。(画像提供:Digi-Key Electronics)

このアプローチを実装するために、設計者は定格5000ボルトrmsで1分間絶縁を実現するAnalog DevicesのADuM4160を使用することができます。このソリューションでは、上で説明したものと同じiCoupler技術を使用していますが、絶縁はUSBデータインターフェース(D+とD-)を対象としています(図9)。ADum4160のその他の用途には、絶縁型のUSBハブや医療機器が含まれます。

Analog DevicesのADuM4160の図図9:Analog DevicesのADuM4160は、USBホストから周辺機器のケーブル接続で絶縁を提供する必要がある場合に便利なUSBデータライン(D+, D-)絶縁ソリューションを提供します。(画像提供:Analog Devices)

絶縁に対する設計上の考慮事項

設計者は、どのようにして最適な絶縁技術を選択するのでしょうか。上述したように、手元の仕事に適した技術を選択するためには、複数の要因が関係します。表1は、異なるタイプの絶縁技術におけるこれらの設計基準のいくつかを示しています。他の設計と同様に、使用されているコンポーネントを完全に理解するために、慎重に検討する必要があります。データシートを徹底的に確認し、選択したコンポーネントを使って試作を行うことに代わるものはありません。

絶縁アプローチを選択する際に考慮すべき重要な要素の表表1:絶縁アプローチを選択する際に考慮すべき重要な要素がいくつかありますが、設計者はデータシートを慎重に確認し、選択したコンポーネントを使用して試作を行うことが重要です。(データ提供:Digi-Key Electronics)

USBベースの絶縁型周辺機器を開発する際には、表1に定義されているものに加えて、他の要素も考慮する必要があります。例えば、二次回路に必要な総パワーバジェットを計算しなければなりません。絶縁コンポーネントだけでなく、センサ、LED、論理コンポーネントなどの他のデバイスに必要なすべての電力を供給するために、十分な電力を一次側から絶縁された二次回路に転送する必要があります。

また、上述したように、電磁絶縁ソリューションを使用する場合は、トランスが発生する潜在的な電磁干渉(EMI)についてエミッション試験で考慮する、および/または他の回路へのEMIの影響を考慮する必要があります。

結論

USBは、データ転送速度と電源供給能力において成長を続けています。しかし、USB電源やデータインターフェースを備えた製品を設計する際には、データおよび電源回路のガルバニック絶縁を最重要視することが賢明です。

ガルバニック絶縁を実現するために、設計者はデータ転送速度や電磁干渉(EMI)、電力や基板スペースの要件など、複数の基準を考慮した上で、光学、容量性、電磁アプローチのいずれかを選択することができます。いずれを選択したとしても、回路の完全性および設計者とエンドユーザーの安全性の両方を確保できる、設計者を支援するための多くのソリューションが用意されています。

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著者について

Doug Peters(ダグ・ピーターズ)

Doug Petersは、ミネソタ州エデン・プレイリーにあるBluebird Labs, LLCの創設者です。マサチューセッツ州ボストンのノースイースタン大学で電気工学の理学士号を取得し、ペンシルベニア州立大学で応用統計学の理学修士号を取得しています。彼はGEで10年間テレマティクスの仕事をし、何年も前にNeXT computerでシステムエンジニアとして働いていました。連絡先はdpeters@bluebird-labs.comです。

出版者について

Digi-Keyの北米担当編集者