特殊なDC/DCコンバータで鉄道の電力供給におけるユニークな課題に対応

著者 Bill Schweber氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

最新の鉄道システムには、乗客のインターネットアクセス、衛星リンク、インターコム・放送(PA)システム、ナビゲーションサブシステム、緊急無線、アナンシエータサインボード、LED照明、情報システム、座席に設置された充電用コンセント、その他のアクセサリなどの機能向けに、ますます多くのエレクトロニクスが搭載されています。また、これらの機能の多くは、過渡電力ギャップや長時間の電力損失時にも給電される必要があるため、バッテリ充電サブシステムもあります。これらの機能にはそれぞれ固有の電圧要件があるため、高電圧DCを複数の低電圧に変換する多くのDC/DCコンバータが配置されています。

ただし、鉄道で使用するDC/DCコンバータを指定する設計者は、難しい電気的条件、機械的条件、および熱ストレス条件下の限られたスペースで、コンバータが確実に動作できるようにする必要があります。また、それらは、数多くの厳しい業界要件や規制要件を満たし、簡単に配置して時間を節減できる必要があります。

この記事では、鉄道用途向けのDC/DCパワーコンバータの要件について簡単に説明します。次に、TRACO PowerのDC/DCコンバータを紹介し、それらの要件を満たすためにどのように適用できるかを示します。

鉄道用の配電

電気機関車やトロリーの一般的な配電経路には、1次DC架空カテナリー電源から得られる多くの低電圧があります。あらゆる重要なアプリケーションと同様に、複数の観点にわたって性能要件を定義する必須業界標準があります。

鉄道用電子機器の主な規制仕様は、EN 50155:鉄道用途 - 車両 - 電子機器です。これは、環境および整備条件、期待される信頼性、安全性、設計および構築方法を定義します。また、ドキュメンテーションと試験もカバーしています。

その他の重要な仕様は以下のとおりです。

  • EN 61373:鉄道用途 - 車両設備 - 衝撃および振動試験
  • EN 61000-4:電磁両立性(EMC)に関するもの
  • EN 45545-2:欧州鉄道火災安全規格
  • 英国鉄道産業協会規格RIA 12:DC制御システムにおける過渡およびサージからの牽引および車両電子機器の保護に関する一般仕様

DIYのパワーコンバータ設計がシミュレーション中に意図どおりに動作したり、ベンチプロトタイプとして動作する場合でも、これらの規制の必須条件を満たすことは設計上の大きな課題です。しかし幸いにも、DIYの必要はありません。鉄道要件を満たす、用途に特化された標準DC/DCコンバータがすでに入手可能となっています。

たとえば、TEP 150UIR/TEP 200UIRファミリは、ハーフブリック基板実装コンバータの2つの類似シリーズで、それぞれの定格は150Wと200Wです。これらは、3,000V AC(VAC)の入出力(I/O)絶縁を強化し、短絡、過電圧および過温度保護が組み込まれています。

これら2つのファミリのすべての製品は同じ接続構成で、パッケージサイズは60mm × 60mm × 13mmです(図1)。それぞれの効率は約90%です。

TRACOのPower TEP 150UIRおよびTEP 200UIRファミリ エンクロージャの画像図1:TEP 150UIRおよびTEP 200UIRファミリのすべての製品は、エンクロージャサイズとフォームファクタが同じです。(画像提供:TRACO Power)

TEP 150UIRシリーズは、14~160V DC(VDC)の非常に広い入力電圧範囲で動作し、5V/30A~48V/3.2Aの5つの出力ペアで利用可能です(図2)。

モデル
注文コード 入力電圧範囲 公称出力電圧(調節可能) 最大出力電流 標準効率
TEP 150-7211UIR 14VDC~160VDC
(公称72VDC
5VDC (4.0VDC~5.5VDC 30,000mA 91%
TEP 150-7212UIR 12VDC (9.6VDC~13.2VDC 12,500mA 93%
TEP 150-7213UIR 15VDC (12.0VDC~16.5VDC 10,000mA 92%
TEP 150-7215UIR 24VDC (19.2VDC~26.4VDC 6,300mA 89%
TEP 150-7218UIR 48VDC (38.4VDC~52.8VDC 3,200mA 93%

図2:TEP 150UIRシリーズは、5V/30A~48V/3.2Aの電圧/電流定格で入手可能です。(画像提供:TRACO Power)

このファミリの中で最低電圧/最高電流の製品は、TEP 150-7211UIRで、5Vで最大30Aを供給できます。

TEP 200UIRシリーズは、入力と出力の電圧範囲は同じですが、電流はより高く、5V/40A~48V/4.2Aです(図3)。

モデル
注文コード 入力電圧範囲 公称出力電圧(調節可能) 最大出力電流 標準効率
TEP 200-7211UIR 14VDC~160VDC
(公称72VDC
5VDC (4.0VDC~5.5VDC 40,000mA 91%
TEP 200-7212UIR 12VDC (9.6VDC~13.2VDC 16,800mA 93%
TEP 200-7213UIR 15VDC (12.0VDC~16.5VDC 13,400mA 92%
TEP 200-7215UIR 24VDC (19.2VDC~26.4VDC 8,400mA 89%
TEP 200-7218UIR 48VDC (38.4VDC~52.8VDC 4,200mA 93%

図3:TEP 200UIRファミリは、出力電圧値は同じですが出力電流が高く、33%高い電力を提供します。(画像提供:TRACO Power)

このファミリの中で最高電圧/最低電流の製品は、TEP 200-7218UIRで、48Vで最大4.2Aを供給できます(同じ電圧で3.2Aを供給する150Wのファミリと比較)。

共通のサイズとフットプリントを維持することで、ユーザーは異なるニーズに対応するために回路を簡単にアップグレードしたり、ケーブル配線やレイアウトの問題を最小限に抑えて異なるボードを使用したりすることができます。また、より少ない独自のモデルを在庫に入れることで、在庫を簡素化することもできます。

3つの主な特長

TEP 150UIRおよびTEP 200UIRユニットは、広い入力電圧範囲、拡張ホールドアップ時間、およびアクティブ突入電流制限という3つの際立った特長を備えています。

1)広い入力電圧範囲:一般的な産業グレードの電子機器は、一般的な電圧/電流要件を満たす場合があります。しかし、この用途向けのDC/DCパワーコンバータは、はるかに広い入力電圧変動と可能な公称値範囲に対応する必要があります(図4)。

各種鉄道用途のDC入力範囲のグラフ図4:さまざまな鉄道用途のDC入力範囲は、特に公称値からの許容可能な偏差を解析に加味した場合、非常に広い範囲に及びます。(画像提供:TRACO Power)

これには、各公称値付近での入力電圧の許容変動が含まれます。

  • 連続範囲 = 0.7~1.25、× VNOM
  • ブラウンアウト = 0.6 × VNOM(100ミリ秒間)
  • サージ = 1.4 × VNOM(1秒間)

100ミリ秒のブラウンアウトを乗り切れるパワーコンバータを設計するのは困難です。一方、1秒間のサージはクランプするためのエネルギーが多すぎます。したがって、コンバータは、ある程度の安全マージンを含めながら、図4に示す全範囲で動作する必要があります。実際には、これは2.33:1を超える入力範囲を意味します。

状況を複雑にしているのは、公称電圧が24VDC~110VDCであることです。多くのDC/DCコンバータメーカーは、ほとんどの用途をカバーするために、より広い4:1入力範囲(通常43~160V)のコンバータを提供することでこれらの要件を満たしています。しかし、単一のコンバータでそれらの要件すべてを満たすことは通常できませんでした。

これに対応するため、TRACOユニットは14~160VDCの超広12:1入力範囲をサポートしています。この範囲により、システムアプリケーションエンジニアは、単一電源で多くの公称システム電圧を対象にすることができます。

2)ホールドアップ時間の延長:DCラインは、立ち上がり時間5ナノ秒、立ち下がり時間50ナノ秒、繰り返し速度5kHzで、±2kVの高速過渡現象にさらされます。また、定義されたAC結合ソースインピーダンスから、立ち上がり時間1.2マイクロ秒(μs)、立ち下がり時間50μsの±2kVライン~グランド間および±1kVライン~ライン間のサージもあります。

一部の要件はEN 50155を超えて、0.2Ωという極めて低い電源インピーダンスから、1秒間に最大1.5 × VNOM、20ミリ秒間に最大3.5 × VNOMのサージに対する耐性を要求しています。110VDC(公称)のシステムの場合、これは385VDCのピーク値に相当し、コンバータの通常の範囲外です。66VDCのブラウンアウト最小値まで動作する必要がある場合は、特にそうです。

このような低インピーダンス電源から得られるエネルギーは、過渡電圧サプレッサ(TVS)によって電圧をクランプできないことを意味します。電力レベルに応じて、電源入力にプリレギュレータを設けるか、サージの間だけ入力をオフにする回路が必要です。この間に出力を維持するため、DC/DCコンバータにはホールドアップ機能が必要です。

この問題を解決するために、TRACOユニットにはBUSピン出力という形式の重要な機能が搭載されています。この出力は、コンデンサを充電するための固定電圧を提供し、コンデンサがホールドアップ時間の延長に必要なエネルギーを提供することを可能にします(図5)。これらのコンデンサは、従来のフロントエンドのコンデンサホールドアップ方式で使用されるものよりもはるかに小型で低費用です。

バスコンデンサと併用する推奨入力回路の図図5:これは、ホールドアップ時間延長の実装を簡素化するために、バスコンデンサCBUSと併用する推奨入力回路です。(画像提供:TRACO Power)

これらのコンバータには、短絡を回避し、コンデンサからのエネルギーを電源に流し続けるためのダイオードが内蔵されているため、入力回路に直列ダイオードを追加する必要はないことに注意してください。

電源電圧の割り込みが発生すると、コンデンサが放電を開始して電源モジュールにエネルギーを供給する前に、入力電圧がBUS電圧まで低下します。電力密度が比較的高いため、TEP 150UIRシリーズおよびTEP 200UIRシリーズは、最大80Vの入力電圧で固定BUS電圧を供給できます。入力電圧が高い場合、BUS電圧は実際の入力電圧に応じて直線的に増加します(図6)。

入力電圧80Vまでの固定BUS電圧のグラフ図6:コンバータは、最大80Vの入力電圧で固定BUS電圧を供給します。入力電圧が高い場合、BUS電圧は実際の入力電圧に応じて直線的に増加します。(画像提供:TRACO Power)

3)アクティブ突入電流制限:これは、パワーコンバータに関連する一般的な問題に対処します。入力電圧が上昇し始めると、入力端子のホールドアップコンデンサが高突入電流を引き起こします。これにより、ヒューズが切れたり、回路がトリップしたりして、接続されたデバイスにエラーや故障を引き起こす可能性があります。

この問題を回避するため、TEP 150UIRおよびTEP 200UIR両シリーズのパルスピンは、突入電流制限回路で使用できる12V、1kHzの矩形波信号を提供します(図7)。

TRACOのPower TEP 150UIRおよびTEP 200UIRシリーズの図図7:TEP 150UIRおよびTEP 200UIRシリーズは、矩形波信号のパルスピンを使用して起動時の突入電流を制限する簡単な方法を提供します。(画像提供:TRACO Power)

アクティブ突入電流制限回路をパルス端子に接続することで、突入電流が効果的に制限されます(図8)。制限なしの場合、突入電流は約120A(左)ですが、制限をかけると約24.5A(右)に低下します。

Vinが72Vのアクティブ突入電流制限回路の例のグラフ(クリックして拡大)図8:コンバータのアクティブ突入電流制限回路をパルスピンで駆動すると、突入電流が5分の1になります。表示されているのはVinが72Vの例です。左の水平スケールは50V/ディビジョン、右は10V/ディビジョンで、トランスデューサのスケールファクタは1V = 1Aです。(画像提供:TRACO Power)

まとめ

低電圧鉄道用途向けのDC/DCコンバータには、信頼性の高い一貫した電力性能を提供する以上のことが要求されます。それらのコンバータは、小型で、管理や配置が容易で、多様な用途に対応し、過酷な環境でも動作可能で、数多くの電気的、熱的、機械的な規制基準や必須条件を満たす必要があります。このように、TRACOのPower TEP 150UIRおよびTEP 200UIRファミリは、14~160VDCの広範な12:1入力電圧範囲、電圧ドロップアウト時にコンデンサを充電してエネルギーを供給するホールドアップピン、サージに耐える能力、および多数の出力電圧/電流の組み合わせなどの機能すべてを単一のフォームファクタに搭載し、このタスクに対応しています。

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著者について

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Bill Schweber氏

エレクトロニクスエンジニアであるBill Schweber氏はこれまで電子通信システムに関する3冊の書籍を執筆しており、また、発表した技術記事、コラム、製品機能説明の数は数百におよびます。これまで、EE Timesでは複数のトピック固有のサイトを統括するテクニカルウェブサイトマネージャとして、またEDNではエグゼクティブエディターおよびアナログエディターの業務を経験してきました。

Analog Devices, Inc.(アナログおよびミックスドシグナルICの大手ベンダー)ではマーケティングコミュニケーション(広報)を担当し、その職務を通じて、企業の製品、ストーリー、メッセージをメディアに発信する役割と、自らもそれらを受け取るという技術PR業務の両面を経験することになりました。

広報の業務に携わる以前は、高い評価を得ている同社の技術ジャーナルの編集委員を務め、また、製品マーケティングおよびアプリケーションエンジニアチームの一員でした。それ以前は、Instron Corp.において材料試験装置の制御に関するハンズオンのアナログおよび電源回路設計およびシステム統合に従事していました。

同氏はMSEE(マサチューセッツ大学)およびBSEE(コロンビア大学)を取得した登録高級技術者であり、アマチュア無線の上級クラスライセンスを持っています。同氏はまた、MOSFETの基礎、ADC選定およびLED駆動などのさまざまな技術トピックのオンラインコースを主宰しており、またそれらについての書籍を計画および執筆しています。

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