信頼性、性能、短いリードタイムという要件を満たすプログラム可能MEMS発振器
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2021-06-10
民生用、車載用、産業用、医療用、通信用、モノのインターネット(IoT)用、エンタープライズ用など、さまざまなアプリケーションのシステム設計者は、特にレガシー規格のサポートが必要な場合、多数のクロックタイミング要件と性能特性を考慮する必要があります。これらには、精度、正確性、安定性、システムノイズ、電磁干渉(EMI)、消費電力、出力タイプ(差動または単一)、各種のスペクトラム拡散プロファイルなどが含まれます。設計者にとっての課題は、さまざまな要件を低消費電力の小さなフォームファクタで満たすことです。
その一方で、コストと納期を最小限に抑える必要もあります。しかし、量産レベルの数量を発注する必要があり、リードタイムが3~5週間、場合によってはそれ以上かかることもある、カスタム構成の場合には困難です。このような遅れにより、試作と開発の両方、さらには最終製品の生産スケジュールも遅れてしまうのです。
より柔軟な高性能タイミングソリューションのニーズを満たすため、設計者は従来の水晶発振器の代わりに、プログラム可能マイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)発振器を使用することができます。これらの製品は、品質と性能いずれの要件も満たしますが、カスタム要件に合わせて調整できる標準構造で提供されます。
本稿では、プログラム可能MEMS発振器の概要と、その主な要素について説明します。その後、SiTimeのデバイスを例に取り上げ、リードタイムを短縮して全体的なコストを削減しながら、幅広いアプリケーションのタイミング要件を満たすため、どのようにデバイスを選択して使用できるかを紹介します。
なぜプログラム可能MEMS発振器を使うのか?
2000年代にMEMS発振器が登場するまで、回路のタイミング制御では水晶共振器が主流でした。しかし、急速な技術革新とシリコンプロセスの使用に支えられ、MEMS発振器は、品質、信頼性、堅牢性が重視される設計要件に適したソリューションとなりました。水晶発振器は、今でも多くのアプリケーションで低コストの優れた選択肢となっていますが、高集積なプログラム可能MEMSデバイスと比較すると、設計がやや複雑になります。たとえば、水晶発振器を扱う設計者は、コールドスタート不良や水晶振動子の不適合などの問題を回避するために、適切な共振子と負荷コンデンサを選択する必要があり、同時に電磁干渉(EMI)を最小限に抑えることにも取り組まなくてはなりません。
プログラム可能MEMSデバイスは、プラグアンドプレイで使用できるため、これらの問題を回避または大幅に軽減することができます。また、製造工程がシンプルで標準化されており、小型であることと相まって、固有の性能、信頼性、耐障害性の特性を備えています。たとえば、ボリュームの大きいシリコンベースのMEMS製造プロセスを使用することで、コンタミネーションの機会を最小限に抑え、結果的に100万個あたりの欠陥パーツ数(DPPM)を減少させることができます。これにより、コストが下がるだけでなく、設計者にとって同じく重要である品質と信頼性がプロセスによって高められ、平均故障間隔(MTBF)が長くなります。これは、-55°Cから+125°Cまでの極端な環境温度にわたり適用されます。
サイズに関しては、MEMS発振器は小さいため、標準的な32kHzのMEMS発振器をピンの頭ほどの大きさのチップスケールパッケージ(CSP)で提供することができます。つまり、衝撃や振動に対して非常に堅牢なのです。また、プログラム可能MEMS発振器は、共振子と発振器回路の間に露出したプリント基板接続部がなく、発振器回路は電気的ノイズの多い状況向けに最適化されているため、電磁干渉(EMI)に対する感度が大幅に低くなります。さらに、ボードノイズの影響を受けにくい構造と設計にもなっています。
プログラム可能MEMS発振器の構成要素
プログラム可能MEMSデバイスは、MEMS共振子をCMOS ICでパッケージ化したものです。このCMOS ICは、必要なクロック(CLK)出力を生成するためにアナログ発振器の制御・駆動回路を内蔵しています(図1)。この回路には通常、フラクショナルN方式のフェーズロックループ(PLL)とそれに付随する分割器、ドライバ、電圧調整器、温度補償のほか、MEMS共振子を静電励起によって駆動するための回路が含まれています。図1に示すワンタイムプログラム可能(OTP)メモリは、プログラムされたパラメータを格納するために使用されます。
図1:MEMS発振器のプログラム可能性は、左記のMEMS共振子をパッケージ化したCMOS ICに、構成可能なアナログ発振回路を使用することで得られます(用途に応じて3つのタイプから選択)。(画像提供:SiTime)
必要なCLKに応じて部品を選択・製造する水晶発振器とは異なり、プログラム可能MEMS発振器では、必要な出力周波数に対してフィールドプログラマブルなブランクのものを一括製造します。周波数のほかにも、電源電圧、周波数安定性、立ち上がり/立ち下がり時間など、さまざまなパラメータがプログラム可能です(図2)。
図2:プログラム可能MEMSの幅広いタイミングオプションにより、さまざまなアプリケーションにおける複数世代のシステムのニーズを効率的かつコスト効率よく満たすことができる柔軟性が得られます。(画像提供:SiTime)
このパラメトリックな微調整により、マイクロコントローラやマイクロプロセッサ、システムオンチップ(SoC)などの下流のICに合わせて、出力周波数をプログラムすることができます。この柔軟性により、外付けのバッファ、周波数分割器、周波数変換PLLが不要となり、複雑さと開発期間を大幅に削減することができます。
プログラム可能MEMS発振器は設計者の負担を大きく軽減しますが、その負担がなくなるわけではありません。その代わり、MEMS、プログラム可能アナログ、システムに関する専門知識を持ち、簡単にプログラムできる信頼性の高い安定したソリューションを提供するために設計者が頼りにする、上流のデバイスプロバイダに負担が移ります。
プログラム可能MEMSソリューション
柔軟性があるとはいえ、すべての周波数であらゆるアプリケーションをカバーできる「汎用的」なオプションはありません。それでも、プログラム可能MEMS発振器のプロセスと技術は、それに非常に近いところまで高められています。たとえば、SiTimeが提供するElite PlatformのSiT3521(図3)とSiT3522発振器は、それぞれ1MHzから340MHz、340MHzから725MHzの範囲でI2C/SPIインターフェースを使用して、1Hz刻みでシステム内プログラマビリティ(ISP)を実現します。
図3:SiT3521(写真)は、デジタルI2C/SPIインターフェース(右下)を備え、1MHzから340MHzまでプログラム可能です。その姉妹品であるSiT3522は、340MHzから725MHzまでプログラム可能です。(画像提供:DigiKey)
このデバイスはデジタル制御発振器(DCO)であるため、制御入力を駆動するためのデジタル/アナログコンバータ(DAC)が不要で、アナログノイズカップリングの影響も受けません。
また、周波数引き込みはPLLのフラクショナルフィードバック分周器で実現しているため、引き込みの非直線性がありません。さらに、フラクショナルフィードバック分周器を使用しているため、電圧制御の水晶発振器のように可変幅が制限されることもありません。これにより、6.25ppm(百万分率)から3200ppmまで16種類の周波数可変範囲を選択することができます。どちらのデバイスも、約0.2ピコ秒という超低位の位相ジッタと、±25ppmから±3200ppmまでのプログラム可能な周波数可変範囲を備えています。また、周波数の引き込み分解能は5ppt(一兆分率)と低く、LVPECL、LVDS、HCSLという3種類の信号に対応します。
その柔軟性から、ネットワーク、サーバストレージ、放送、電気通信、試験・計測などの用途に適しています。ここでは、デジタルビデオ送信やEthernetといったレガシー規格との下位互換性が求められており、複数の周波数に対応できることに加え、さまざまなジッタや位相ノイズの要求があります。
SiT3521およびSiT3522プログラム可能MEMS発振器の使用
動作として、SiT3521とSiT3522には2つのモードがあります。「任意の周波数」とDCOです。あらゆる周波数モードにおいて、サポートされている任意の周波数にデバイスを再プログラムすることができます。そのためには、まずポストデバイダ、フィードバック、mDriverの値を計算し、それらをデバイスに書き込む必要があります(図4)。
図4:I2C/SPI発振器の高レベルブロック図を参照すると、SiT3521とSiT3522のプログラミングはいずれも、ポストデバイダ、フィードバックデバイダ、およびmDriverの値を計算することから始まり、これらの計算のための1つのユーザー入力値は、ターゲット出力周波数です。(画像提供:SiTime)
これらの計算に必要な設計者からの入力値は、必要な出力周波数のみです。その他の入力値は、分割器の許容範囲です。なお、新しい値がプログラミングされると、出力が短時間無効になるため、設計者はそれを考慮する必要があります。
デジタル制御の場合、プロセスはより簡単です。デバイスは、デバイスの注文コードに従って、その公称動作周波数と周波数可変範囲までパワーアップします。そこから、周波数可変範囲と出力周波数の両方を、それぞれの制御レジスタに書き込むことで設定できます(図4の左上)。しかし、いくつかの考慮事項があります。たとえば、出力周波数の変化の最大値は、周波数可変範囲の制限に拘束されます。周波数可変範囲は、ピークツーピークの偏差の半分として規定されるため、ピークツーピークで200ppmの偏差がある場合、周波数可変範囲は±100ppmと規定されます。
16種類のオプション(前述の±6.25ppm~±3200ppm)の中から必要な周波数可変範囲を選択した後、それぞれの制御レジスタにロードします(Reg2[3:0]、図4)。表1に示すように、周波数可変範囲は周波数精度に影響します。
| Reg2[3:0] | プログラムされた周波数可変範囲 | 周波数精度 |
|---|---|---|
| 0000b | ±6.25ppm | 5x10-12 |
| 0001b | ±10ppm | 5x10-12 |
| 0010b | ±12.5ppm | 5x10-12 |
| 0011b | ±25ppm | 5x10-12 |
| 0100b | ±50ppm | 5x10-12 |
| 0101b | ±80ppm | 5x10-12 |
| 0110b | ±100ppm | 5x10-12 |
| 0111b | ±125ppm | 5x10-12 |
| 1000b | ±150ppm | 5x10-12 |
| 1001b | ±200ppm | 5x10-12 |
| 1010b | ±400ppm | 1x10-11 |
| 1011b | ±600ppm | 1.4x10-11 |
| 1100b | ±800ppm | 2.1x10-11 |
| 1101b | ±1200ppm | 3.2x10-11 |
| 1110b | ±1600ppm | 4.7x10-11 |
| 1111b | ±3200ppm | 9.4x10-11 |
出力周波数を変更するには、2つの制御ワードを書き込みます。まず最下位ワード(LSW)をReg0[15:0]に、続いて最上位ワード(MSW)をReg0[15:0]に書き込みます。MSWが書き込まれた後、デバイスは新しい周波数に合わせてフィードバックデバイダの値を変更します。これは、Tdelayの時間枠の中で行われます(図5)。
図5:DCOモードでは、MSWが書き込まれた後に出力周波数の変更が開始され、デバイスがフィードバック値を変更し(Tdelayの間)、新しい値(F1)の1%に落ち着く(Tsettle)と終了します。(画像提供:SiTime)
分割器の値を設定した後、出力は最終的な周波数値の1%以内に収まるようになります。「任意の周波数」モードとは異なり、周波数変更時に出力が停止することはありません。しかし、ソフトウェアの出力イネーブル(OE)制御機能が有効であれば、周波数変更期間中に手動で出力を無効にすることを選択できます。
デバイスを使いこなし、アプリケーションの要件を満たすことを確認するために、設計者はSiT6712EB評価ボードを使って実験することができます。この評価ボードは10ピンQFNパッケージの差動信号出力を備えたSiT3521とSiT3522の両方に対応し、信号の完全性、位相ノイズ、位相ジッタ、再プログラミングの容易さなど、デバイスのあらゆる側面を評価することができます。LVPECL、LVDS、HCSLの出力信号タイプに対応し、出力周波数測定用のプロービングポイントも備えています。
ここで重要なのは、これらがサブナノ秒の立ち上がり/立ち下がり時間を持つ差動発振器であるということです。正確な測定を行うためには、高品質のアクティブプローブとともに、測定のベストプラクティスを用いることが重要です(図6)。
図6:SiT6712EB評価ボードを使用する際は、高品質のアクティブプローブや適切な高速差動プローブヘッドの使用など、高速測定のベストプラクティスを採用することが重要です。(画像提供:SiTime)
最良の結果を得るためには、帯域幅が4GHz以上で負荷静電容量が1pF未満のアクティブプローブと、それに適合する高速差動プローブヘッドを使用する必要があります。付属のオシロスコープは、4GHz以上の帯域幅を持ち、50Ωの入力端子を持つ必要があります。
アプリケーション指向ですぐに使えるプログラム可能発振器
もちろん、プログラム可能MEMS発振器には多くのシリーズがあり、ネットワーク、放送、通信に適したものもあれば、AEC-Q100認定などの車載用や、高い動作温度範囲などの特長を重視した産業用に適したものもあります。たとえば、SiT1602BI-33-33S-33.333330は動作温度が-40°C~+85°Cであり、33.333330は公称周波数をメガヘルツで表しています。
また、用途に応じてパッケージや電圧を選択することも可能です。たとえば、SiT1532は低電圧CMOS(LVCMOS)の1.2V発振器であり、フットプリントは1.54mmx 0.84mm、高さが0.60mmのUFBGAパッケージに収められています(図7)。モバイルやIoTアプリケーションをターゲットとし、公称周波数は32.768kHzです。
図7:SiT1532は、IoTやモバイルアプリケーションに向けたUFBGAパッケージのLVCMOSプログラム可能MEMS発振器です。(画像提供:SiTime)
車載用としては、24MHz発振器のSiT8924AEがあり、非常に広い動作温度範囲(-55°C~125°C)と、フットプリント2.50mm x 2.00mm、高さ0.80mmという小型かつ非鉛の面実装デバイス(SMD)パッケージを組み合わせています。
数十種類のシリーズからなるプログラム可能MEMSデバイスは、公称周波数のものがすぐに入手可能ですが、その原型はすべて同じで、ブランクとなっています。これらの製品は本質的に「フィールドプログラマブル」な発振器であり、最初はブランクですが、一般的に必要とされる周波数を工場であらかじめプログラムし、DigiKeyがストックしています。
カスタム発振器の迅速な出荷
多種多様な発振器を用意することで、一般的に必要とされるタイミング回路を迅速に市場投入できます。しかし、かなり単純であるにもかかわらず、すべての設計者が発振器のプログラミングに対応したいと思っているわけではありませんし、場合によっては、カスタム構成も必要になることがあります。これまでは、カスタム構成の場合、工場から出荷されるまでに3~5週間のリードタイムが必要でした。そこでDigiKeyは、SiTime部品専用の自動プログラミングマシンを自社倉庫に設置して、この問題に取り組みました(図8)。
図8:SiTime発振器専用にDigiKeyが設置した自動プログラミングマシンが、ブランクの発振器をプログラミングソケットにセットしている様子。(画像提供:DigiKey)
このマシンは現在8つのソケットを持ち、1時間に最大1500ユニットをプログラムすることができます。カスタム構成のリードタイムは24~48時間に短縮され、最小数量もありません。
この機能を利用するには、DigiKeyのTechForumにあるSiTimeプログラム可能発振器のセクションから始めてください。リクエストが送信されると、DigiKeyのエンジニアリング技術者に電子メールが直ちに送信されます。エンジニアリング技術者は新しい品番を確認し、DigiKeyのウェブサイトに追加します。ウェブサイトでは、設計者に対し注文方法を説明していますが、SiTimeの発振器構成の命名法を知っておくと便利です(図9)。
図9:SiTimeのプログラム可能MEMS発振器で一般的に使用されている構成命名法を示していますが、ここではSiT2001ベースのモデルを使用しています。(画像提供:SiTime)
結論
さまざまなアプリケーションに対応するシステムの設計者は、現在だけでなく、従来や将来のシステム仕様や要件を満たす柔軟な回路タイミングソリューションを必要としています。設計者は、複数の水晶発振器やMEMS発振器を使用してそれに伴う回路や設計の複雑さに取り組むのではなく、すでに多くの要求を満たすプログラム可能MEMSデバイスを選択することで、スペース、時間、コストを削減することができます。
カスタム設計が必要な場合でも、工場での生産から出荷まで3~5週間も待つ必要はありません。DigiKeyでは、SiTimeデバイス専用のプログラミングマシンを使用して、24時間から48時間でカスタム構成品の出荷を開始することができます。
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