1500VDC光電池システムの電源システム設計の課題の克服

著者 David Carroll, Director of Product Management at CUI Inc.

光電池電力生成の経済的な有用性を確保するには、エネルギー効率の向上が不可欠です。大きなセルのストリングに移行することで、DC動作電圧が上昇し、I2R損失を減らして開発コストを削減できますが、監視および制御回路に電力を供給する補助電源の設計が課題となります。

太陽光発電市場の成長

光電池(PV)発電に対する政府補助金は頻繁に変化する傾向がありますが、既設の発電容量は着実に増加し続けています。発電容量は2014年の178GWから、2019年には540GWに増大すると予測されています。割合の最も大きいのは欧州で、2019年に158GWに到達すると予測されています。ただし、増加率については中国や米国など他の国のほうが急速で、同じ期間中にそれぞれ4倍および3倍の容量増加が見込まれています。太陽光産業の成功は、経済的な観点からも好ましいことで、2014年には約5,500万人が直接雇用されています。

PV発電がこのような予測を実現するには、発電ワットごとのコストを引き続き削減していく必要があります。このために障害となることの1つは、パネル自体の効率が一般に低いことです。今日の最も効率的な単結晶セルは約25%の効率で動作し、これは既にテクノロジの理論的な限界に近い値です。

動作電圧の上昇によるエネルギーの削減

太陽光から得られるエネルギーは、最後の1ジュールまでが貴重です。太陽光モジュールDC出力から、電力網に送電するACまで、システムの各部で損失を最小に抑えるため、厳格なエネルギー管理が絶対に必要となります(図1)。複数のモジュールを直列に接続して高電圧のDC出力を生み出すと、電流が減少し、光電池アレイとインバータとの間でI2R損失を減らすことができます。グリッド接続システムでは、1000VDCでの動作は珍しくありません。一般的なシステムは22個のモジュールを直列接続して構成され、ストリングと呼ばれます。各モジュールには90個のセルが含まれ、約45Vの出力電圧を発生します。このようなストリングのピーク電力は5.5kWで、例として2727個のストリングを組み合わせた構成なら15MWの発電施設になります。

複数のMWをグリッド結合したPV発電機の主要機能の図

図1:複数のMWをグリッド結合したPV発電機の主要機能。(画像提供:CUI, Inc.

ストリングごとのモジュール数を増やすと、出力電圧が1500VDCに上昇し、各コンバイナに入力される最大電流を1000VDCの場合と比較して、さらに66.6%まで減らすことができます。抵抗性ケーブル損失はさらに低下し、前の値のわずか44.4%になります。これによって、システム設計者はより柔軟にエネルギー効率を向上できるようになり、ケーブルのサイズやコネクタのサイズを小さくすることで、設備のコストも下げることができます。また、同じ出力電力を得るために必要なストリングの数が少なくなるため、必要なコンバイナボックスの数も減少します。各ボックスが20個のストリングを処理できるとして、15MWの発電施設に必要なボックス数は1000VDCの場合に137個ですが、94個で済むようになり、31%も削減されます。GTM Researchは、10MWの発電施設を1500VDCで動作するよう設計すると、1000VDCのシステムと比較して、開発コストが約40万ドル削減されると計算しています(図2)。

1000Vから1500Vへの移行により、10MWで展開コストの削減が可能になる図

図2:1000Vから1500Vへの移行により、10MWで展開コストの削減が可能です。(画像提供:CUI, Inc.)

1500Vでの設計の課題

このようなコスト削減と効率向上が可能なことは確かに魅力的ですが、システム全体を通してより高い絶縁定格が必要となり、コンバイナボックスやインバータも、より高い電圧で動作可能な必要があります。幸い、適切なインバータは既に市場に存在し、これらの製品の一部は最新のワイドバンドギャップ半導体を基礎としているため、シリコンベースの代替品よりも効率性に優れています。

ただし、1500VDCシステムの設計における別の重要な要素として、これらのPVコンバイナやインバータは、電力監視および制御回路に給電するため、1500VDCラインから独自の低電圧ソースを抽出する必要があります。これを実現でき、1500VDCで動作可能で、しかも最低で200VDCに達するストリング出力電圧ディップを処理できるような、入力電圧範囲が広く小型のDC/DCコンバータは、簡単には入手できません。これには最低でも7.5:1の入力範囲が必要で、一般的な仕様とは呼べません。

24VDC出力を持つ、入力範囲の広いDC/DCコンバータを含めた太陽光コンバイナユニットの電源アーキテクチャを図3に示します。24V出力は、追加の絶縁および非絶縁コンバータにより、通信および処理/センシングモジュールの電源として使用されます。メインの高電圧DC/DCコンバータには、完全に強化された安全絶縁、一般には4000VAC定格のものが必要です。

太陽光コンバイナボックスの内部電源アーキテクチャの図

図3:太陽光コンバイナボックスの内部電源アーキテクチャ。(画像提供:CUI, Inc.)

安全性についての考慮事項

安全性に関して適用される標準はIEC 62109-1『光電池電源システムで使用される電力コンバータの安全性(Safety of Power Converters for use in Photovoltaic Power Systems)』で、最高1500VDCのシステムに該当します。この標準のパート1は一般的な要件を、パート2はインバータに固有の要件を定義しています。IEC 62109-1の範囲には、感電、機械的災害、高温、火災、化学的災害、その他の危険性からの保護を確保するための設計および構築手法が含まれます。

また、この標準にはIEC 60664『低電圧システム内の機器での絶縁の調整(Insulation Coordination for Equipment within Low-Voltage Systems)』への参照も含まれています。DC/DCコンバータにとって特に重要なのは、絶縁の中のミクロボイドが高電圧において破断したときに発生する可能性がある部分放電が存在しないことを検証するためのテスト要求です。これが存在すると劣化を招き、最終的には完全な障害を引き起こします。テストは、1500VDCの動作電圧に大きく関係し、DC/DCコンバータの絶縁バリアに特別な構造が必要となります。

IEC 62109-1の絶縁の要件は、システム電圧、設備の過電圧(OV)カテゴリ、および環境の汚染度(PD)に依存します。1500VDCバスを持つシステムのPVパネル回路には、OVカテゴリIIが使用され、最低インパルス耐圧は6000Vです。グリッド接続されるインバータステージではOV IIIが使用され、インパルス耐圧の要件は8000Vです。

多少の環境保護を含む産業グレードの用途では、機器がPD 2の対象となります。これにより許容されるのは、非伝導性の汚染のみで、濃縮が頻繁に発生しないことが求められます。IEC 62109-1には、これ以外にも多くの仕様が存在し、それらも考慮する必要があります。

また、米国内ではUL 1741標準が適用されます。これには「分散エネルギーリソース」の多くの一般的な用途が網羅されており、「コンバータとコントローラ」の要件が含まれています。

新しい補助電源トポロジ

これらの標準から、この環境で動作する補助DC/DCコンバータには特定の性能要件が科されます。標準のフライバックまたはフォワードコンバータトポロジでは、非常に広い入力範囲と高い最大入力電圧の実現は極めて困難です。出力をレギュレートするためパルス幅が変化することから、非常に高い内部ピーク電圧および電流が存在するため、部品へのストレスを制限するには、より複雑なトポロジが必要になります。

照度レベルが低い、またはパネルが日陰になった場合には、入力電圧が最低値未満にまで低下するため、周期的な「ブラウンアウト」が発生してもコンバータが動作を続けられることを確保するため、保護機能も非常に重要です。これ以外にも、リモート施設では過負荷、短絡、過電圧など他の障害状況が発生する可能性があり、コンバータに損傷が及ばないようにする必要があります。また、PVシステムはエネルギー収穫能力を最大化するため、日光をいっぱいに受けられる場所に設置することが望ましいことから、コンバータは高い動作温度に耐えられる必要があります。政府機関で規定された絶縁定格を満たすことも重要です。

これらの課題をすべて合わせ考えると、PV用途向けに1500VDCの入力範囲が広いDC/DCコンバータを設計するのは簡単な作業ではありません。

CUIは最近、1500VDCで動作するPV用途向けに、AEシリーズのDC/DCコンバータを発売しました(図4)。これらは、太陽光の補助電源で使用するため必要な、200~1500VDCの入力範囲を扱えるよう設計されており、5、10、15、40Wの電力定格の製品があります。出力電圧は5、9、12、15、24VDCを選択できます。これらのコンバータはIEC 62109-1の欧州版であるEN 62109-1の承認済みで、4000VACの絶縁を持ち、高度5000mまででの動作が規定されています。一部のモデルはUL 1741も満たしています。カプセル化された基板取り付け、シャーシ取り付け、DINレール形式を選択でき、これらのコンバータは性能低下なしに最高70°Cで動作できます。

CUIのAEシリーズDC/DCコンバータの図

図4:CUIのAEシリーズDC/DCコンバータは、200~1500VDCの入力電圧で動作します。(画像提供:CUI, Inc.)

1500VDCのPVシステム用のドロップイン補助電源

GWレベルに達する施設向けに産業用PV発電システムを設計するとき、最も重要な目標はエネルギー変換効率の最大化です。太陽光アレイの出力電圧を1500VDCに上げると、この目標を達成するため役立ちますが、最良の性能を実現するには徹底した制御と監視が必要になります。これらの機能を支えるため使用される補助電源は、信頼性および安全性の標準に準拠すると同時に、最低200VDCから最高1500VDCまで大幅に変動する入力電圧で動作できる必要があります。CUI製の最新世代のDC/DCコンバータは、これらの課題を満たすよう製造されたもので、PVシステムの設計者およびインテグレータに向けたドロップインソリューションです。CUIのAEシリーズの詳細については、Digi-Keyの再生可能エネルギー用途向けのDC/DCコンバータ製品特集ページをご覧ください。

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著者について

David Carroll, Director of Product Management at CUI Inc.