総合的なEV充電インフラを支えるさまざまなコネクタの採用方法について

著者 Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

これからの電気自動車(EV)の普及には、ユビキタスな充電インフラが必要です。設計者には、住宅、ホテル、店舗およびレストラン、商業および工業用地、駐車場、ガソリンスタンド、休憩所など、いつでも手軽にEV充電ができる場所での利用を想定した、幅広いインフラソリューションの開発が求められているのです。場合によっては、ユーザーは時間的な余裕があり、長期間にわたって数キロワット(kW)の交流(AC)充電電力が必要なだけです。一方で、時間がないため、数分でEVを充電するために数百kWの直流(DC)電力が必要となる場合もあります。

設計者は、低電力AC、高電力DC、およびその中間の電力レベルに対応できるさまざまなコネクタオプションを必要としています。それらのコネクタは、人間工学に基づいた利便性の高いものでなければならず、また、コスト効率と信頼性の高いソリューションを求めるEVメーカーのニーズに応えるため、堅牢で取り付けが簡単なものでなければなりません。充電ハンドルと電源インレットは、複合充電システム(CCS)規格、SAE J1772、およびIEC 62196の要求事項を満たす必要があります。

この記事では、住宅での低電力AC充電器からさまざまな商業施設での高電力充電(HPC)まで、さまざまな環境におけるEV充電器の技術要件について、電気性能とインターフェース規格、HPC設置における液体冷却の必要性などを含めて説明します。そして、あらゆるタイプのEV充電器設計のニーズをサポートする Phoenix ContactAC および DC 充電インレット、ハンドル、ケーブルシステム、そしてHPCケーブルおよびコネクタ用の液体冷却システムを紹介します。

EVの充電規格とそれに対応するコネクタは、北米、欧州、中国で開発されています。北米と欧州の規格は、AC充電とDC充電を車両の1つのインレットで行う複合充電システム(CCS)規格に基づいているため、両者は関連しています。CCSタイプ1のコネクタは北米や韓国で普及しており、CCSタイプ2のコネクタは欧州、中東、南アフリカ、南米、オーストラリア、ニュージーランド、その他の一部の地域で見られます。中国はGB/T規格で、AC充電用とDC充電用のインレットを別々にすることを義務付け、独自の道を歩んでいます(図1)。

地域ごとに整備されているEV充電規格の画像図1:EV充電規格は、北米、欧州、中国の地域ごとで策定されています。(画像提供:Phoenix Contact)

CCSタイプ

CCS規格には、Type1とType2の2つのバージョンがあります。Type 1は、SAE J1772およびIEC 62196-3の規格に適合し、北米市場向けに開発されました。AC充電コネクタとDC充電コネクタの構造は、共通のCCS車両インレットに対応しています。

Type 2もIEC 62196-3に適合していますが、SAE J1772には適合していません。もともとヨーロッパで開発されたもので、前述のようにいくつかの地域で採用されています。Type 2のACおよびDC充電コネクタは、共通のCCS車両インレットにも対応しています。

GB/T 20234の充電規格は、中国国内でのみ使用されています。この場合、ACコネクタとDCコネクタはインターフェースが異なるため、車両側で別々のインレットを使用する必要があります。

CCSタイプ1(左)、CCSタイプ2(中央)、GB/T(右)の画像図2:CCSタイプ1(左)、CCSタイプ2(中央)、GB/T(右)のEV充電電力インレットの例。(画像提供:Phoenix Contact)

充電モード

CCSのType1とType2のコネクタの物理的な違いに加え、北米と欧州では異なる充電モードが採用されています。低電力モードではEV車載充電器を使用し、高電力モードでは外部充電器を使用します。さらに、高電力レベルでは熱による課題が多く、より高精度な温度監視により恩恵を受けることができます。

北米のSAE J1772規格では、以下の3つのモードまたはレベルを認めています。

  • レベル1は主に住宅用で、AC120ボルト(Vac)を使用し、最大約1.9キロワット(kW)まで供給します。
  • レベル2ではより高い電圧の208/240単相交流が使用されます。これは「急速AC充電」と呼ばれ、車載のEV充電器に約19kWの電力を供給することができます。
  • レベル3は、外部DC充電器を使ったDC充電です。基本仕様は、600VDC 、最大400アンペア(A)、最大240kWまでです。先進的な設計では、1キロボルトDC(kVDC)で500Aを供給し、合計500kWの出力が可能です。

IEC 61851-1では、4つの充電モードを定義しています。モード1、2、3は、以下のEVの車載の充電器を使用します。

  • モード1、2は、低電力AC充電用です。モード1のケーブルはACコンセントに直接差し込むため、使用できる電力は限られています。モード2もAC電源に直接接続しますが、ケーブル内に制御装置と保護装置を追加し、3相ACで最大15kWまで安全に供給します。
  • モード3は急速AC充電で、充電ステーションを使用して最大120kWのAC電力を供給します。レベル3充電器は、オプションとして、外部AC電源と充電制御用の車載充電器間の高レベル通信(HLC)プロトコルを組み込むことができます。
  • モード4は急速直流充電で、数百キロワットを直接バッテリに供給することができます。モード4では充電器制御に必要なフィードバックを行うため、HLCが必要となります。

熱保護

AC充電器、DC充電器の両ケーブルに熱保護を施しています。80AまでのAC充電では、正温度係数(PTC)サーミスタチェーンが一般的です。各接点に1つずつ、デバイスのチェーンで構成されています。抵抗値を監視することで、限界温度を超えた場合に安全にシャットダウンすることができます。

高電力充電器の接点に、より高精度のPt1000センサを使用することで、迅速な応答性を確保し、高電力レベルでシステムを安定的に動作させることが可能になります。

ACインレットとケーブルオプション

Phoenix Contactは、AC充電システムの設計者向けに、ACまたはDC入力が可能なユニバーサル充電インレットと、北米のタイプ1および欧州のタイプ2の要件を満たし、DC充電を必要としない車両に適したAC専用インレットを幅広く用意しています。これらのアセンブリには、2メータの電源ケーブルと、ロック用アクチュエータ、温度センサ、および通信用の1メータのケーブルが含まれています。それらには、ロック機構、温度センサ、ダストキャップがついています。IEC 62196-2およびSAE J1772 Type 1のアプリケーションで使用されるケーブルの例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • モデル 1271960 車両充電インレットは、最大12kWの単相交流電力に対応します。このインレットは、10,000回以上の挿抜サイクルに耐えることができます。
  • より高い電力用途には、最大20kWの単相交流電力に対応したモデル 1271836 を使用できます。ロック式アクチュエータおよび保護キャップが付属しています。

Phoenix Contact では、以下のようなさまざまなAC充電ケーブルも用意しています。

  • SAE J1772 Type1車両用充電器用モデル 1277166 。片方の端に車載用充電コネクタがあり、もう片方は充電器を常時装着できるようにオープンになっています。PTCチェーン温度センシングを搭載し、最大20kWの単相交流電力を扱うことができます。25フィートのケーブルが付属しています(図3)。
  • モデル 1627692 モバイルAC充電ケーブルは、片方の端がタイプ2インレット用の車両充電コネクタ、もう片方がタイプ2 IEC 62196-2充電器で使用するためのインフラACコネクタを備えています。このケーブルアセンブリは、最大26.6kWの3相交流電力を供給でき、HLC接続用の接点を含み、長さは5mです。

モバイルAC充電ケーブルアセンブリの画像図3:20kW定格のモバイルAC充電ケーブルアセンブリ。(画像提供:Phoenix Contact)

DC充電ケーブル

Phoenix Contactは、個人住宅、集合住宅、企業、駐車場などで使用される中電力充電システム向けのDC充電ケーブルCCS C-Lineを提供しています。これらのケーブルは、タイプ1とタイプ2の設計があり、アセンブリは、片方の端に温度センサ付きの車両充電コネクタがあり、もう片方はオープンケーブル接続になっています。タイプ1のデザインの例としては、以下のようなものがあります:

  • 全長5m、40kW定格モデル 1105880
  • 全長7m、80kW定格モデル 1236563 (図4)

Phoenix ContactのDC充電コネクタの画像図4:このDC充電コネクタの定格は80kWで、ケーブルは7mです。(画像提供:Phoenix Contact)

ユニバーサル充電インレット

モデル 1210900 ユニバーサル充電インレットは、最大200A、1kVDC、または80A、250Vac単相の定格でACおよびDC CCSタイプ1、IEC 62196-2、IEC 62196-3コネクタに対応しています。DC接点にはPT1000温度センサを2個、AC接点にはPTCチェーン温度センシング方式を採用しています。

500kW DCケーブリングシステム

高電力モード4 HPC DC充電システムの設計者は、1kVDCで、最大500 Aを供給できる液体冷却式車両用コネクタおよびケーブルを含む 1085658 ケーブルシステムを利用することができます。CSS Type1、SAE J1772、IEC 62196-3-1の各要件を満たしています。温度監視、ケーブルの断線、冷却水の漏れなどのセンサがついています(図5)。温度監視は、ケーブル内のDC接点用の2つのNTCおよびDC電源線用の2つのNTCで行われます。

高電力DC充電ケーブルアセンブリの画像(クリックして拡大)図5:この高電力DC充電ケーブルアセンブリは、複雑な仕組みになっています。(画像提供:Phoenix Contact)

Phoenix Contactでは、これらのDC充電ケーブルに接続する自己完結型の 冷却ユニット も提供しています。可変速ファンとポンプを搭載し、高電力DC充電システムに最適な冷却を実現します(図6)。ポンプおよびファンは0VDC から10VDCで動作し、ファンは最大1.97A消費し、ポンプは最大1.8A必要です。冷却液は、水50%とグリコール50%の混合液です。ケーブルおよび配線の長さは1.5mです。1085658ケーブルと組み合わせた場合、3mケーブルで600W、4mケーブルで800W、5mケーブルで900W、6mケーブルで1050Wの冷却能力を持ちます。

大電力DC充電ケーブル用液体冷却システムの画像図6:高出力DC充電ケーブル用液体冷却システム。(画像提供:Phoenix Contact)

まとめ

EVを広く普及させるための総合的な充電インフラを提供するためには、幅広いスタイルのEV充電器および電力レベルが必要です。設計者は、EVのバッテリ内蔵充電回路を利用する1.9kWの低電力AC充電器から、内蔵充電回路を使用しないでバッテリを直接充電する液体冷却式ケーブルを備えたHPC500kW DC充電器までの充電器構成を開発しなければなりません。個人住宅や集合住宅、ホテル、店舗およびレストラン、商業施設および工業施設、駐車場、ガソリンスタンド、休憩所などでの常時充電に対応するためには、両極端の間で、さまざまな充電器の出力レベルや充電モードが必要になります。

DigiKey logo

免責条項:このウェブサイト上で、さまざまな著者および/またはフォーラム参加者によって表明された意見、信念や視点は、DigiKeyの意見、信念および視点またはDigiKeyの公式な方針を必ずしも反映するものではありません。

著者について

Image of Jeff Shepard

Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

ジェフ氏は、パワーエレクトロニクス、電子部品、その他の技術トピックについて30年以上にわたり執筆活動を続けています。彼は当初、EETimes誌のシニアエディターとしてパワーエレクトロニクスについて執筆を始めました。その後、パワーエレクトロニクスの設計雑誌であるPowertechniquesを立ち上げ、その後、世界的なパワーエレクトロニクスの研究グループ兼出版社であるDarnell Groupを設立しました。Darnell Groupは、数々の活動のひとつとしてPowerPulse.netを立ち上げましたが、これはパワーエレクトロニクスを専門とするグローバルなエンジニアリングコミュニティで、毎日のニュースを提供しました。また彼は、教育出版社Prentice HallのReston部門から発行されたスイッチモード電源の教科書『Power Supplies』の著者でもあります。

ジェフはまた、後にComputer Products社に買収された高ワット数のスイッチング電源のメーカーであるJeta Power Systems社を共同創設しました。ジェフは発明家でもあり、熱環境発電と光学メタマテリアルの分野で17の米国特許を取得しています。このように彼は、パワーエレクトロニクスの世界的トレンドに関する業界の情報源であり、あちこちで頻繁に講演を行っています。彼は、定量的研究と数学でカリフォルニア大学から修士号を取得しています。

出版者について

DigiKeyの北米担当編集者