ハイブリッド型ACサージ保護素子の適用によるサージ保護性能の改善方法
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2022-09-07
電子デバイス(素子)は広く普及しており、急速に進歩しています。電子素子は、電気インフラ(電圧サージや過渡現象に対する最新の保護機能を備えている場合もあれば、備えていない場合もある)にアクセスするために、フロントエンド保護に大きく依存している高感度回路を備えています。これらの過渡現象の原因である落雷、スイッチング、または同様の電圧サージは、過電圧や過電流を引き起こし、繊細な電子素子を損傷したり劣化させたりする可能性があります。
コストが低い既存のサージ保護技術であるGDT(ガス放電管)やMOV(酸化金属バリスタ)などは、サージエネルギーを分流・制限し、保護対象素子に到達させないようにするものです。GDTとMOVにはそれぞれ利点がありますが、いずれも、故障するまでに処理できる過渡現象の数に限界があります。また、GDTは電流を完全に遮断できない場合があり、何度も過渡事象が発生すると、MOVが熱暴走により故障する場合があります。
GDTとMOVの両方の長所を生かしつつ、それぞれの欠点を緩和するために、ハイブリッド技術素子が出現しています。この素子は、所定のサージ保護レベルでは比較的小さな物理サイズを持つ単一の集積素子に搭載されています。この集積素子の相補性により、GDTとMOV双方の性能が向上し、それらの動作寿命も延びます。ただし、そのような効果を持たせるには、GDT素子とMOV素子のマッチングを慎重に行うことが必要です。このIsoMOV™ハイブリッドサージプロテクタは、正しく実装されると、情報技術およびAV機器のハザードベース規格であるIEC/UL62368-1への準拠を確保するのに特に役立ちます。
そこで本稿では、まずGDTとMOVのサージプロテクタの動作について簡単に説明した後、Bournsが提供する実例であるIsoMOVハイブリッドプロテクタの特性を検証します。そして最後に、IEC/UL62368-1に準拠するIsoMOV技術の実装方法を紹介します。
SPDの仕組み
サージ保護素子は、以下の2つの方法のいずれかで動作します。1つ目の動作は、スイッチとしての動作であり、サージをグランドに迂回(別称:クローバ)させます。2つ目の動作では、過渡エネルギーを吸収・放散して最大電圧を低いレベルにクランプすることにより、サージ電圧を制限します。
GDTはクローバリミッタの一例です。クローバリミッタは、アルゴンのような非反応性ガスが満たされている、プラグ間の隙間であり、電力線の向こう側に配線されます。クローバリミッタの電圧レベルがGDTの降伏電圧を下回ると、サージ保護素子は基本的に高インピーダンス"オフ"の状態になります。過渡現象によってGDTの降伏電圧を超える電圧が発生すると、GDTは導通状態、つまりオン状態になります(図1)。
図1:GDTがオンにトリガされたときの電圧と電流の波形を示します。降伏電圧を超えると、GDTの電圧が10ボルト程度に下がり、電流は大きく増加します。(画像提供:Bourns)
GDTは電源入力の向こう側に配線されているため、基本的には電源を短絡させるものです。これにより、ヒューズや回路ブレーカなどの直列の保護素子がトリガされ、GDTの下流側の回路が保護されます。なお、オフ状態では電圧は高く、電流は小さくなります。オン状態では、その逆で、消費電力は非常に小さくなります(除く:状態遷移時)。GDTの状態をリセットするには、入力電圧を降伏電圧より低くする必要があります。電源ライン入力が十分に低下しないと、GDTは、リセットされないため「持続」電流を流し続け、オン状態を維持することがあります。GDTがオンのままになる可能性があることは、この種のサージ保護技術にとっては大きな制約となります。
MOVはクランピング素子です。MOVも、GDTと同じく、電力線の向こう側に配置されます。MOVは、通常の動作では高インピーダンス状態にあり、わずかなリーク電流を流すだけです(図2)。
図2:MOVの電流電圧特性は、バイポーラクランプ作用を示しています。(画像提供:Bourns)
電圧サージが発生すると、MOVのインピーダンスが低下して電流が流れ、電力が消費されるため、過渡現象の電圧が低下し、制限されます。過渡現象が終了すると、MOVのインピーダンスは上昇し、標準状態に戻ります。MOVは、そのような過渡現象が何回許容されるかに基づいて定格されます。過渡現象が何度か発生すると、MOVのリーク電流が増加することがあります。そのため、素子が消費する電力が増大し、発熱原因となります。発熱により、リーク電流が増加し、MOVが熱暴走を起こして、素子が致命的な故障に至る可能性があります。
これらのサージ保護技術は、いずれも単独では理想的なものではありません。ところが、GDTとMOVを電源ラインの向こう側で直列に配置することで、それらが相補的に挙動することが明らかになったのです。通常動作では、GDTはオフであり、MOVではリーク電流はありません。電圧過渡が発生すると、GDTが起動するので、MOVが回路内に配置されます。そして、MOVが過渡電圧サージをクランプします。過渡現象が過ぎると、MOVがオフとなるので、GDTを流れる電流が減少するため、GDTも同様にオフになります。
GDTとMOVを直列に配置するには、相互の特性を正確に補完し合うよう慎重にマッチングする必要があります。ディスクリート実装は、設計から製造、テスト、パッケージングに至るさまざまな変動要因に左右されるため、設計者が良いマッチングを見つけることは難題です。この難題を解決するため、BournsのIsoMOVハイブリッドプロテクタは、慎重にマッチングされた一連のMOVおよびGDT素子を、各素子を別々に収納した場合よりもはるかに小さくなる単一のパッケージに統合しています(図3)。
図3:2つのMOVの間にGDTを組み込んでIsoMOV SPDを構成しています(a)。合成された回路図記号を(b)の右側に示します。(画像提供:Bourns)
図4のIsoMOVハイブリッドプロテクタの合成過渡電圧応答は、両素子がどのように作用しているかを示しています。
図4:IsoMOVハイブリッドプロテクタの電圧応答は、GDT素子が降伏してMOV素子をアクティブ化し、下流の回路を保護することを示しています。(画像提供:Bourns)
IsoMOVハイブリッドプロテクタの両素子は、それぞれ単独で最大連続動作電圧(MCOV)に耐えられるように設計されています。前述のように、過渡現象が存在しない場合、GDTはMOVのリーク電流をブロックします。多くの過渡現象が発生しても、GDTがMOVのリーク電流レベルの上昇を抑えます。MOVは過渡的サージ後の持続電流を発生しないようにすることで、GDTを保護します。IsoMOV素子のジオメトリは、単一のMOVと比較して単位面積あたりのサージ容量を増加させます。
設計者の視点から見ると、IsoMOV素子は、部品点数と基板スペースの両方を最小限に抑える小型統合パッケージで、強化された保護機能を提供することができます。たとえば、IsoMOVハイブリッドプロテクタISOM3-175-B-L2は、MCOVが175VRMSであり、最大クランプ電圧が470ボルトの公称3キロアンペア(kA)のサージを15回以上処理することができます(図5)。直径は13.2ミリメートル(mm)、厚さは6.1mmです。この直径は最大電流容量によって変化し、厚さもMCOVが高くなると増大します。
図5:ISOM3-175-B-L2は、小型フォームファクタを持つIsoMOVハイブリッドプロテクタの一例です。2つのMOVと1つのGDTを搭載しながら、直径13.2mm、厚さ6.1mmと小型化を実現しています。(画像提供:Bourns)
BournsのIsoMOVファミリは、3kA、5kA、8kAの3種類の公称電流定格と、175~555VRMSのMCOV定格を備えています。中規模の素子としては、直径17mm、厚さ7.1mm、300VRMS、5kAの素子ISOM5-300-B-L2があります。高電流のハイエンドとしては、MCOVが555VRMSである8kA素子ISOM8-555-B-L2があります。直径は23mm、厚さは9.4mmです。これらの素子はいずれも動作温度範囲が-40℃~+125℃です。
BournsのIsoMOVハイブリッドプロテクタは、統合されていないMOVとGDTを使用する場合よりも小さなフットプリントで、これら最新鋭のサージ定格を実現しています。リーク電流が非常に低く、直列GDTによりMOVの寿命が延びます。また、どのIsoMOV SPDも、UL1449タイプ4の素子として認定されているので、サージ保護素子として簡単に設計することができます。
IEC/UL62368-1規格に準拠した保護機能の実装
IsoMOV素子は、IEC/UL62368-1への準拠を達成できる有用なソリューションです。オーディオ/ビジュアル & 情報通信技術機器の新しい安全規格IEC/UL 62368-1は、機器ユーザーの物理的安全性と安全対策を実現するためのHazard Based Safety Engineering(HBSE)の原則に基づいています。HBSEは、通常動作時および故障時の双方において、危険の可能性があるエネルギー源と、エネルギーがユーザーに伝達されるプロセスを列挙しています。
推奨する電源入力保護設計(図6)には、ラインとニュートラルの間、ラインと保安用グランドの間、ニュートラルと保安用グランドの間に、それぞれ保護素子が含まれています。
図 6:IEC/UL62368-1に準拠した、推奨される電源入力保護回路は、ラインとニュートラルの間、ラインと保安用グランドの間、ニュートラルと保安用グランドの間に、それぞれ保護素子を備えています。(画像提供:Bourns)
MOVを単独で使用した場合に発生する可能性のある感電から保護するために、ラインとグランドの間またはニュートラルとグランドの間で、MOVまたはIsoMOVと直列にGDTを配置する必要があります。保安用グランドが接続されていない場合、絶縁されたグランドパスに触れた場合に、怪我をするほど高いMOVリーク電流が流れる可能性があります。GDTを直列に配置することで、そのリーク電流をなくすことができます。
MOVおよびMOVを搭載した素子に関する危険としては、過剰なリーク電流による感電と火災の可能性があります。MOVは故障した場合に潜在的な発火源(PIS)となるため、設計では、発火の可能性を低減し、火災の拡大を防止するための措置が必要とされます。
サージプロテクタは製品の信頼性を高めるのに役立ちますが、そのためにはIEC/UL62368-1規格で要求される各種テストに準拠する必要があります。たとえば、MOVのMCOVは、機器電圧範囲の上限電圧の1.25倍以上でなければなりません。電源入力範囲が85~250VACの機器の場合、その機器のライン保護MOVの最小MCOVは313ボルトである必要があります。ライン間にMOVを配置したライン保護回路は、公称定格の2倍のライン電圧を使用するテストの対象となります。このテストでは、入力電流が抵抗器によって順に0.125、0.25、0.5、1、2Aの値に制限されます。MOVは故障すると発火源となる可能性があるため、MOVが故障するまでテストを続けます。MCOVが最大定格ライン電圧の2倍を超えるMOVについては、このテストは必要ありません。その条件下では、MOVが故障する可能性が非常に低いためです。
まとめ
インフラの老朽化や保護不足、ユーザー保護基準の絶え間ない進化を背景に、電子システムが加速度的に進歩、縮小、増殖する中で、IsoMOVハイブリッドプロテクタはより小型の改良された保護機能を提供します。優れた性能と省スペース性に加え、広い温度範囲、低リーク、高いエネルギー処理能力を持っています。特に高サージにさらされる産業用アプリケーションに適していますが、HBSE(Hazard Based Safety Engineering)をベースにしたIEC/UL62368-1規格を満たしたい場合は、オーディオ/ビジュアル & 情報通信機器に簡単に実装することも可能です。
免責条項:このウェブサイト上で、さまざまな著者および/またはフォーラム参加者によって表明された意見、信念や視点は、DigiKeyの意見、信念および視点またはDigiKeyの公式な方針を必ずしも反映するものではありません。
