コンデンサは5G通信インフラの重要な設計部品である
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2025-08-26
2018年の展開開始以前から、第5世代(5G)セルラー無線周波数(RF)通信プロトコルは、個人ユーザー、産業用機械、クラウドコンピューティングサーバがデータを送受信する方法において、桁違いの改善を約束してきました。第3世代パートナーシッププロジェクト(3GPP)が国際移動通信-2020(IMT-2020)の要件に準拠して策定された5G規格は、最大10Gbpsのデータ転送速度が要求されており、これは従来の4G規格の10倍から100倍の速度に相当します。また、単位エリア当たりの帯域幅が1000倍となり、4G LTEプロトコルに比べて最大100倍のデバイスが接続できるようになります。同時に、ネットワーク基地局と接続デバイスの両方で、99.999% のネットワーク可用性と、エネルギー使用量の削減を要求しています。
2025年半ばまでに、全世界中で22億5,000万以上の5G接続が確認されており、北米地域だけでも1億8,200万以上を占めています。ネットワークアーキテクトは、5Gの周波数とプロトコルのみをサポートするスタンドアロン(SA)機器への移行を進めています。これにより、アップロードとダウンロード速度が向上し、高度な産業用モノのインターネット(IIoT)やマシンツーマシン(M2M)通信をサポートするとともに、ネットワークのレイテンシを1ミリ秒まで低減可能となります。
5Gインフラ構築に向けた新しい機器の開発は、あらゆる種類の電子部品、特に汎用的なコンデンサの需要を押し上げています。5Gアプリケーションにおいて、コンデンサは不要な周波数やRF干渉を除去し、インダクタと組合わせてアンテナの調整を行い、電源レールをデカップリングして電圧レベルを安定化させ、アンテナ接続のバランス調整など、さまざまな機能を果たします。5G対応デバイスやセルラー基地局を設計する設計者は、各アプリケーションの性能、サイズ、コスト要件を満たすコンデンサを選択する必要があります。
5Gアンテナアプリケーション用コンデンサ
5Gインフラ用アンテナは、高周波領域において3つの帯域(2GHz以下のローバンド、2GHz~6GHzのミッドバンド、24GHzから100GHzのハイバンド)をサポートします。積層セラミックコンデンサ(MLCC)はインダクタと組み合わせて、アンテナ発振器を形成し、特定の無線周波数に同調することができます。5Gインフラ用コンデンサは、プロトコルのより高い周波数に対応できる必要があります(図1)。
図1:MLCCはRF通信の全周波数帯で使用されます。技術者は、5Gインフラで使用される高いRF電流を管理するため、コンデンサを慎重に選択する必要があります。(画像提供:KEMET Corporation)
KEMETのHiQ-CBRシリーズ (図2)がそのようなコンデンサ製品ラインの1つです。このシリーズの製品は、0.1pF~100pFの静電容量値を持ち、1MHz~50GHzの周波数帯において、過熱や静電容量特性の劣化なしに長期動作を可能にする設計となっています。HiQ-CBRコンデンサはクラスI誘電体を使用しているため、-55°C~+125°Cの温度範囲で動作可能であり、静電容量の変化は±30ppm/°C未満です。また、コンデンサの性能は6.3V~500VのDC電圧範囲で安定しており、経年劣化も発生しません。
図2:HiQ-CBRコンデンサは、5Gインフラで使用される高周波に対応にするために設計されたMLCCです。面実装デバイス(SMD)では、クラスIセラミック誘電体がベースメタル導体と組み合わされ、エンドキャップは艶消し錫メッキ仕上げが施されています。(画像提供:KEMET Corporation)
HiQ-CBRコンデンサは、複数のベースメタル電極層(図3)(本品では銅)で構成され、これらはセラミック(本品ではクラスI、C0G誘電体であるCaZrO3)によって分離され、埋め込まれています。金属製エンドキャップにより、電極への電気的接続が可能となり、この面実装デバイス(SMD)をプリント回路基板(PCB)にはんだ付けするのが容易になります。
図3:HiQ-CBRシリーズのようなMLCCは、内部電極の層がセラミック誘電体に埋め込まれ、エンドキャップに金属接続部が設けられています。(画像提供:KEMET Corporation)
HiQ-CBRコンデンサの材料と構造は、損失係数(DF)の逆数である品質係数Qで示される低損失性能を実現します。静電容量値30pF以上のHiQ-CBRコンデンサは、1MHz±100kHz、1.0±0.2VRMSの条件下でテストした場合、Q値が1,000以上になります。本製品ラインのより低い静電容量値のコンデンサについては、Q = 400 + 20C(Cは静電容量値)となります。
高周波RFアプリケーション向けの電子機器を設計する技術者は、高い自己共振周波数(SRF)に寄与する、低い等価直列抵抗(ESR)および低い等価直列インダクタンス(ESL)を備えたコンデンサも必要としています。SRFとは、コンデンサの共振によりその静電容量が失われ、インダクタとして動作する周波数です。したがって、SRFは動作周波数を十分に上回る必要があります。HiQ-CBRコンデンサのSRFは、100pFコンデンサで600MHz、0.1pFコンデンサで12,000MHzの範囲です。
HiQ-CBRコンデンサは、エンドキャップに艶消し錫仕上げを施し、標準的なプリント基板へはんだ付けできるように設計されています。0201(0.2インチ x 0.1インチ )、0402(0.4インチ x 0.2インチ )、0603(0.6インチ x 0.3インチ )、0805(0.8インチ x 0.5インチ )など、一般的なケースサイズでご用意しています。鉛フリー認証を取得しており、RoHS指令に準拠しています。
HiQ-CBRシリーズが提供する性能特性とフォームファクタを備えたコンデンサは、5Gセルラー基地局や通信ネットワーク、RFパワーアンプ(PA)、ワイヤレスローカルエリアネットワーク(LAN)、全地球測位システム(GPS)ネットワーク、Bluetooth通信などにおいて優れた性能を発揮します。また、これらのコンデンサは、DCブロッキング、フィルタリング、インピーダンス整合、カップリング、バイパスなどの信号処理にも使用されています。
干渉や信号ノイズを低減するため、設計者はKEMETのWi-Fiバンドおよび5G用FLEX SUPPRESSOR®などの製品を追加する場合があります。このシートまたはロール状のポリマー-メタル複合体(図4)は、柔軟なポリマーベース全体に拡散されたミクロンサイズの磁性粉末が含まれ、電磁波や共振の抑制、磁束収束の改善、3GHz~40GHzの5G帯域における電子機器から発生するノイズを低減します。
図4:Wi-Fiバンドおよび5G用FLEX SUPPRESSOR®は、ミクロン単位の磁性粉末を配合した柔軟なポリマーです。ユーザーは、シートを任意のサイズにカットすることで、電磁共振の低減や磁束収束の促進が可能です。(画像提供:KEMET Corporation)
発振器を超えた5Gインフラ用コンデンサ
コンデンサは、DC/DCコンバータ、電力損失保護、ソリッドステートドライブ、ルータ、スイッチなど、他の多くの5Gインフラアプリケーションにも使用されています。高静電容量値で知られる高分子電解コンデンサや、リップル電流に対応可能なメタライズドフィルムコンデンサは、特定の用途においてMLCCよりも優れた性能や体積効率を発揮します。
高分子電解コンデンサの一種として、KEMETのT523シリーズがあります(図5)。このコンデンサでは、陽極であるタンタルコアが五酸化タンタル(Ta2O5)誘電体層で覆われ、さらにタンタルを含む導電性高分子電解質層で覆われています。この層は、炭素の第3層と銀の第4層と組み合わされて陰極を形成しています。
図5:T523高分子電解コンデンサは、陽極にタンタル、陰極の一部にタンタル高分子電解質を使用しています。モールドエポキシケースは、面実装技術(SMT)によりPCBに取り付けられます。(画像提供:KEMET Corporation)
T523シリーズコンデンサの静電容量値は47µF~1,000µFの範囲で、定格電圧は6.3V~35Vにおいて安定性を維持します。ESRは30mΩ~100mΩと低く、定格周波数1MHzまでこの安定性に寄与しています。
KEMETのA798シリーズ高分子アルミ有機コンデンサにも高分子電解質技術が採用されています(図6)。これらのコンデンサは、固体導電性高分子陰極とアルミ陽極を組み合わせることで、動作電圧2V~2.5Vの範囲で安定した470µFの静電容量を実現しています。ESR値は3mΩ~9mΩの範囲で、静電容量が100 kHz付近の周波数でピークに達する際に最低値を示します。
図6:A798シリーズ高分子電解コンデンサは、アルミ陽極とアルミ高分子陰極を採用しています。これにより優れた温度安定性と高静電容量特性を実現しています。(画像提供:KEMET Corporation)
MLCCと同様に、これらのコンデンサは-55°C~+125°Cの動作温度範囲に対応しています。ただし、MLCCとは異なり、高分子ベースのコンデンサは、動作温度と湿度に基づいた有限の動作寿命があります。T523コンデンサは定格電圧および+85°Cで2,000時間、A798コンデンサは定格電圧および+125℃で5,500時間以上の動作実績があります。いずれのタイプも、+85°C未満の温度環境では定格電圧下で10年以上の寿命が期待できます。
両高分子電解質製品ラインはSMT対応で、類似サイズを提供します。長さ0.138インチ~0.287インチ 、幅0.110インチ~0.236インチ 、高さ0.043インチ~0.110インチ。MLCCで達成可能な静電容量値よりも数桁大きい容量を実現できるこれらの高分子電解コンデンサは高い体積効率を有しています。使用可能なアプリケーションにおいて、高分子電解コンデンサはMLCCと比較して、より小さな実装面積で同等またはそれ以上の静電容量を提供できます。
DC/DCコンバータで頻繁に使用される別のコンデンサは、電解方式ではなく静電方式で動作するメタライズドフィルムパルスコンデンサ(図7)です。これらのコンデンサは、非導電性ポリプロピレンフィルム誘電体の層で構成されており、片面に金属がコーティングされていますが、金属コーティングしたポリエステルが散在しているか、金属ホイルが積層されています。
図7:メタライズドフィルムコンデンサは通常、スルーホール技術(THT)でプリント基板に取り付けられます。損失係数が低いため、高dv/dtアプリケーションやパワー変換時のリップル電流に対応可能です。(画像提供:KEMET Corporation)
KEMETが提供するメタライズドフィルムパルスコンデンサは、多様なサイズと特性を備え、多くの5Gインフラアプリケーションに適合します。技術者は、40pF~100µFの間の静電容量範囲と、100V~2,500VのDC電圧範囲から製品を選択できます(図8)。このタイプのコンデンサのESRは、0.5mΩ~6.366Ωの範囲です。
そのフットプリントは、最小0.283インチ x 0.098インチから、最大1.634インチ x 1.181インチまで対応可能です。ほとんどのメタライズドフィルムパルスコンデンサはスルーホールでPCBに取り付けられるため、プロファイルは0.236インチ~1.776インチとやや高くなります。
図8: メタライズドフィルムコンデンサは、金属を積層したポリプロピレンフィルムの誘電体を使用しています。これらのコンデンサは通常、THTでPCBに取り付けられます。(画像提供:KEMET Corporation)
まとめ
5G通信インフラの設計には、その約束された利点と同等の課題があります。高周波用低静電容量のMLCCから、桁違いの静電容量を持つ高分子電解コンデンサ、電圧変動やリップル電流に耐えるメタライズドフィルムコンデンサに至るまで、あらゆるタイプのコンデンサが、現在および将来の5Gインフラにおいて重要な役割を担っています。
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