RFSoCシステムオンモジュールを用いた次世代ソフトウェア無線の構築
2025-10-14
ソフトウェア無線(SDR)は、無線通信分野における最も重要な変革の1つを表しています。従来の無線がフィルタリング、ミキシング、変調のために固定されたアナログ回路に依存するのとは異なり、SDRは処理の大部分をデジタルで行います。ハードウェア中心の機能をソフトウェアのアルゴリズムに置き換えることで、SDRは比類のない柔軟性を獲得し、設計者はハードウェアを再設計することなく、機能のアップグレードや新しいプロトコルへの対応、システムライフサイクルの延長が可能になります。
このようにその場で再構成できるSDRは、防衛システムや航空宇宙分野から5Gインフラ、衛星通信、電子試験装置に至るまで、幅広いアプリケーションにおいて不可欠な存在となっています。
SDRと従来の無線システムとの違い
従来のRF受信機では、アナログ部品が信号処理の大部分を担っています。ミキサが入力信号をダウンコンバートし、フィルタがスペクトルを整形し、変調器または復調器が情報を復元する仕組みとなっています。このアナログチェーンは柔軟性に欠け、ノイズの影響を受けやすいため、新しい周波数帯域や規格ごとに再設計が必要となります。
これに対し、SDRはアナログフロントエンドを必要最低限にまで削減します。通常はアンテナと基本的なRFフロントエンド回路のみとなります(図1)。入力波形がA/Dコンバータ(ADC)によってデジタル化されると、主要な処理はソフトウェアによって行われます。変調、復調、チャンネルフィルタリング、誤り訂正、復号化はすべてデジタルで行われます。同様に、送信時には、D/Aコンバータ(DAC)が処理済みデータを再びRF信号に変換し、これもソフトウェアルーチンによって制御されます。
図1:基本的なSDRのプロセス。(画像提供:iWave Global)
この変化により驚異的な柔軟性が実現されます。同じ無線ハードウェアが、ソフトウェアの更新のみで、今日はWi-Fi、明日は5Gバンド、その次は安全な戦術通信をサポートすることが可能になるのです。
RFSoC:SDRに最適なプラットフォーム
高性能SDRを構築するには、超高速コンバータ、強力な処理ファブリック、低遅延のデータパスが必要です。AMDのZynq™ UltraScale+™ RFSoCファミリは、以下の統合によりこれらの要件に対応します。
- マルチギガサンプルRF-ADCおよびRF-DAC
- リアルタイムDSP用のFPGAプログラマブルロジック
- ソフトウェア制御用の組み込みArm®プロセッサ
- 高速メモリおよびトランシーバインターフェース
従来は複数のディスクリートチップを必要としていた機能を1つのデバイスに統合することで、RFSoCは基板設計を劇的に簡素化します。この統合により、消費電力の削減、遅延の低減、信号の完全性が向上します。タイミング精度と性能が必須であるリアルタイムRFアプリケーション向けに、RFSoCは超低遅延と厳密な同期を備えたモノリシックソリューションを提供します。
ダイレクトRFサンプリングの力
RFSoCの決定的な利点の1つは、マルチGSPS範囲のサンプリングレートをサポートする能力です。そのRF-ADCは中間ダウンコンバージョン段に依存することなく、RF周波数で直接信号を取り込むことができ、RF-DACは非常に広帯域の出力を生成することができます。
これにより、「ほぼ完全なデジタル」無線アーキテクチャが実現され、2.4GHz帯のWi-Fi、3.5GHz帯の5G新無線、800MHz~1.8GHz帯のセルラーといった規格を直接デジタル変換および処理することが可能になります。これに対し、市販の多くのSDRプラットフォームは数十から数百MHz程度のサンプリングレートに制限されており、信号を中間周波数へ変換するためには、アナログミキサに頼るしかありません。
これらのアナログ段を無くすことで、RFSoCベースのSDRは高忠実度、低遅延、そしてよりコンパクトな設計を実現します(図2)。
図2:シングルチップRFSoC SDRソリューションとマルチチップの代替ソリューションの比較。(画像提供:Zynq® UltraScale+™ RFSoCによるソフトウェア無線)
SDRアーキテクチャの比較:シングルチップ対マルチチップ
従来のSDRアーキテクチャと比較すると、RFSoC統合の利点は明らかになります(表1)。
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表1:RFSoCと従来型SDRソリューションの比較。
ADC、DAC、FPGAロジック、プロセッサをすべて1つのパッケージ内に統合したRFSoCは、チップ間通信に伴う課題を回避できます。開発者にとっては、設計サイクルの短縮、コスト削減、優れた最終性能につながります。
RFSoC SDRにシステムオンモジュールを選択する理由
RFSoC自体は高度に統合されていますが、それを基にしてカスタムボードを設計するのは依然として困難な場合があります。電源シーケンス、クロック分配、マルチギガビットレイアウトには高度な専門知識が必要です。システムオンモジュール(SoM)は実用的な解決策を提供します。
RFSoC、メモリ、電源管理、高速インタフェースを内蔵した、小型で事前検証済みのモジュールを提供することで、SoMは技術者に以下の利点をもたらします。
- 試作の加速と設計リスクの最小化
- ベースボードの統合ではなく、アプリケーション固有のイノベーションに注力
- 航空宇宙および防衛分野に適した、小型でSWaP(サイズ、重量、消費電力)に最適化された設計の実現
- 長期的供給保証と生産グレード品質への信頼
キャリアボードは、各ユースケースに合わせてカスタマイズ可能でありながら、SoM自体は固定されるため、知的財産(IP)の再利用と総開発コストの削減が可能です。
図3:RFSoC SDR向けiWaveキャリアボード。(画像提供:iWave)
iWaveのRFSoCシステムオンモジュールの製品ラインアップ
iWaveは、高性能SDRおよびRFアプリケーション向けに最適化された、包括的なRFSoC SoMおよび評価プラットフォームを提供しています。
- iG-G42M - ZU49/ZU39/ZU29DR RFSoC SoM
- 16個のADC(2.5GSPS)および16個のDAC(10GSPS)を搭載しています。
- iG-G42P - RFSoC PCIe カード(ZU49/ZU39/ZU29DR)
- PCIe Gen3接続、NVMeストレージ、SMA I/O、FMC+拡張機能を備えています。
- iG-G60M - ZU48/47/43/28/27/25DR RFSoC SoM
- 最大8チャネルADC/DAC(5GSPS / 9.85GSPS)を搭載しています。
- iG-G60V(近日発売予定) - RFSoC ADC/DAC 3U VPXプラグインモジュール
- 航空宇宙および防衛分野向けの堅牢なフォームファクタを採用しています。
図4:iWave RFSoC SoM(画像提供:iWave)
これらのモジュールは、Linux BSP、JESD204B/Cサポート、GStreamerパイプライン、およびリファレンスアプリケーションなど、堅牢なソフトウェアスタックによって支えられており、試作から生産に至るまでシームレスな移行を保証します。
RFSoC SDRがもたらす実世界への影響
直接RFサンプリング、統合デジタル処理、モジュールレベルでの展開を組み合わせることで、SDRシステムは以下の特長を実現します。
- 高い柔軟性 - 複数の無線規格に設定可能
- 小型かつ効率的 - SWaPに敏感なプラットフォーム向けに最適化
- 高忠実度 - 信号劣化を最小限に抑えた性能
- 拡張性 - 実験室での試作から配備済みの防衛および通信インフラまで拡張可能
無人航空機システムによるリアルタイムの監視、動的周波数割り当てをサポートする5G基地局、広帯域信号を分析するポータブルテスト機器など、RFSoC SDRは、ディスクリート設計では実現が困難だったソリューションを可能にします。
まとめ
ソフトウェア無線(SDR)は、無線機の柔軟性、アップグレード性、将来対応性を高めることで、無線通信の在り方を変革しています。AMDのZynq UltraScale+ RFSoCは、コンバータ、FPGAファブリック、プロセッサを単一のシリコンダイに統合することで、このコンセプトを実現しています。RFSoCをシステムオンモジュールと組み合わせることで、市場投入期間の短縮、リスク低減、生産グレードの信頼性を実現します。
iWaveは、FPGAと組み込みシステムにおける25年以上の専門知識を活かし、性能、コスト、長期サポートのバランスを重視したRFSoC SoMとODMサービスを提供しています。
iWaveのRFSoC製品ラインアップがお客様のSDRプロジェクトをいかに加速できるか、ぜひご検討ください。お問い合わせはmktg@iwave-global.com までお願いいたします。
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