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完全差動アンプおよび高分解能ADCを使用した高分解能ECGの設計

Digi-Keyの北米担当編集者 の提供

標準的な医療用の非侵襲的ECG(心電図)は、心臓の基本的な健康状態を視覚的に表現し、臨床分析や医療行為に役立てることができます。しかし、心臓の動きには、非常に高分解能のECG電子機器でなければわからない微小な現象として現れる「心室遅延電位」などがあります。そのような画像に必要な空間分解能は、心電図(ECG)検出器、検出器システム、検知技術におけるノイズや他の性能阻害因子によって阻害される可能性があります。

設計者は、低ノイズのドライバと高分解能のA/Dコンバータ(ADC)を効果的に適用することにより、多くの問題を回避して高精度のECGシステムを開発できます。

この記事では、まずECGの仕組みについて簡単に説明し、次にこの用途でドライバアンプと高分解能ADCをペアで活用する場合にともなう問題を解説します。また、Analog DevicesADA4945-1ACPZ-R7高速完全差動ADCドライバとAnalog Devicesの8チャンネル、24ビットAD7768BSTZ ADCで構成されるサンプルの組み合わせを紹介し、さらに外部抵抗とコンデンサを構成して最適な性能を達成する方法について解説します。

ECGシステム

ECGとは、心臓で発生するミリボルト(mV)単位の電気信号を収集することにより、基礎的な心臓の状態を表す非侵襲的検査です。ECG信号は体の多くの箇所で検出できますが、数十年にわたる医学の伝統では、これらの箇所のうち検査に使用可能な地点を、3つの肢誘導による架空の形(アイントーベンの三角形と呼ばれる)で標準化しました。(図1)。

体の多くの地点で検出可能なECG信号の図図1:ECG信号は体の多くの箇所で検出できますが、アイントーベンの三角形は一般的に検査に使用される位置を定義します。(画像提供:Digi-Key Electronics)

この三角形は、電極RA(右腕)、LA(左腕)、およびLL(左脚)の配置を表します。またこれらは、VI、VII、VIIIの各値も形成します。

このシステムから得られるデータにより、医師は心臓の基礎的な心拍数と心律のメカニズムを把握できます。一方で、さらに詳しい検査を行うと、そのデータから心筋各所での厚さ増加(肥大)やダメージの証拠を得ることができます。またシンプルな2次元のECGグラフからは、心調律異常の素因となる心筋への急性血流障害の兆候や異常な心電活動のパターンを把握できます。

図は正常な心臓のECG信号を表し、典型的な心電図に見られる3つの反屈位の正常な組み合わせ(QRS群)が示されています(図2)。

QRS群を形成するQ、R、S各点の図図2:Q、R、Sの各点から形成されるQRS群は、通常、ECGトレースの中心にあり最も目立つ部分です。(画像提供:Digi-Key Electronics)

QRS群は、信号の中心にあり最も目立つ部分です。この信号は、人間の心臓の右心室と左心室の脱分極に対応します。成人では、QRS群の持続は通常0.08~0.10秒間です。QRS群の持続時間が0.12秒を超えると異常と見なされます。ECGシステムにおける測定では、QRS信号を確実に完全にキャプチャすることが課題になります。

ただ、これはそれほど難しい問題ではありません。理論的には、ECG機器のサンプルレートは50Hz以上です。実際のECG実装のサンプリング周波数は500Hzを超え、ECG検出器内部にあるコンバータの標準的な変換速度は1kHz以上です。これらのサンプルレートでは、一般的なECG検出システムの内部コンバータに12ビットの分解能が必要になります。

この分解能と速度の仕様は、汎用ECG検出器と一致するものです。しかし心臓の不規則性には、より高分解能のECG検出器でないと検出できないものもあります。たとえば、持続性心室頻拍(VT)が見られる患者は、QRS群終末部に数十ミリ秒持続する低振幅、高周波数の波形がともなう場合があります。ECGの結果に見られるこのような「遅延電位」は、右心室細胞の初期の後脱分極によって起こると考えられています(図3)。

QRS群で起こるECG結果のグラフ図3:ECG結果に見られる遅延電位はQRS群の中で発生しますが、多くの場合、標準的なECG検出器に出現するには小さすぎます。(画像提供:Digi-Key Electronics)

多くの場合、遅延電位の振幅は小さすぎて通常のECGには表示されません。一方、20ビットを超える高分解能システムでは、ADCがQRS群の記録を内部的に平均化してランダムノイズをフィルタリングするため、ECG画像に遅延電位を表示できます。

非侵襲的で高分解能のECGが心臓の遅延電位を検出できれば、臨床的に重要な意義があります。たとえば、急性心筋梗塞(MI)の患者は、遅延電位の検出は予後的に重要です。そのような患者に心室遅延電位が見られる場合、以降の急性心筋梗塞または突然の心不全による死亡のリスクの兆候となります。以前は、このような分類やその後の診断は、侵襲的または低侵襲的な検査手法によってのみ可能でした。

しかし、ECGを使用して本来検出不可能な信号を可視化するには、高分解能なシグマデルタ(ΣΔ)ADCを使用した高度な信号収集/処理技術が必要になります。

高分解能変換システム

標準的なECGシステムには、患者の皮膚に貼り付ける12の電極があり、ミリボルトの1,000分の1、つまりマイクロボルト(mV)の心拍信号を感知します。これらの各電極信号は信号調整フロントエンドに到達し、そこで計装アンプがドライバアンプと最終的な高分解能、ΣΔ ADCに備えてマイクロボルト信号を取得します(図4)。

ECGフロントエンド信号調整ブロック図図4:高分解能の医療用センシングシステムのECGフロントエンド信号調整ブロック図。3つのオペアンプ計装アンプから始まります。(画像提供:Digi-Key Electronics)

信号チェーンの最初のデバイスは、3つの高精度オペアンプ計装アンプと、場合により2次ゲイン段もあります。これらのデバイスは、低マイクロボルトレベルの信号のシステムグランドと差動ゲインを確立します。ドライバアンプとローパスフィルタ(LPF)は、差動ゲインECG信号を取得し、高分解能ΣΔ ADCに十分な駆動とフィルタリングをもたらします。

ドライバアンプとΣΔ ADC

フロントエンド信号調整ブロック図での重要な機能は、ドライバアンプとΣΔ ADCの関係です。ADA4945-1完全差動ADCドライバは、高分解能AD7768-4 ΣΔ ADCへの入力を促します(図5)。

Analog Devicesの高分解能ΣΔ ADC AD7768-4の標準的な接続図の画像図5:高分解能ΣΔ ADC AD7768-4の標準的な接続図。ADA4945-1をドライバアンプとして使用しています。(画像提供:Digi-Key Electronics。Analog Devices提供の原資料に基づく)

ADA4945-1ドライバアンプとR/C、LPFネットワークは、信号をΣΔ ADC(AD7768-4)の入力に送信します。

AD7768-4は、4チャンネル、24ビット、同時サンプリングΣΔ ADCです。AD7768-4は、選択可能な電力モードとデジタルフィルタのオプションで再構成することにより、ECG、産業用入出力モジュール、計測器、オーディオテスト、制御ループ、状態監視などの幅広いアプリケーションに適合させることができます。

性能測定

ADA4945-1には、完全に特性化されたフルパワーモードと低電力モードの2種類のモードがあり、システムの電力と性能のトレードオフを最適化します。ADA4945-1のフルパワー帯域幅は145MHzで、低電力モードでの帯域幅は80MHzです。5Vの電源の場合、フルパワーモードでは100kHzでの入力電圧ノイズが1.8nV/√Hzなのに対して、低電力モードでは3nV/√Hzです。また、フルパワーモードでのADA4945-1の動作静止電流は4mA(標準)と4.2mA(最大)なのに対して、低電力モードでは、1.4mA(標準)と1.6mA(最大)です。

AD7768-4の低電力モードでは、広帯域デジタルフィルタを使用する場合、32キロサンプル/秒(kSPS)の出力データレート(ODR)と12.8kHzの帯域幅となります。1kHz入力が適用される正弦波信号は、フルスケールから-0.5dBです。中間パワーモードでは、広帯域フィルタを使用する場合、128kSPS ODRで帯域幅51.2kHzとなります。1kHz入力が適用される正弦波信号は、フルスケールから-0.5dBです。高速パワーモードでは、広帯域フィルタを使用する場合、256kSPS ODRで102.4kHzの帯域幅となります。下記の表2は、ADA4945-1とAD7768-4のパワーを組み合わせた場合の性能と消費電力を示しています。

AD7768-4で構成されたフィルタ応答には、0.433 x ODRカットオフ周波数があります。±0.005dBのパスバンドリップルにより、周波数領域の測定でドライブアンプ対入力周波数の性能を判定できます。

図5では、アンプ出力とADC入力の間に抵抗器-コンデンサ(R/C)ネットワークがあります。このR/Cネットワークはさまざまなタスクを実行します。たとえば、C1とC2はADCへの充電リザーバであり、サンプリングコンデンサへの高速充電電流をADCに提供します。

さらに、これらのコンデンサはRIN抵抗と組み合わせてローパスフィルタを形成し、入力スイッチングに関連するグリッチを除去します。また入力抵抗は、大きな容量性負荷を駆動するときにアンプを安定させ、アンプが振動するのを防ぎます(表1)。

アンプモード ADCモード RIN(Ω) C1、C2(pF) FC (MHz) 電源電圧(V)
低電力 低電力 82 82 23.7 0および5
低電力 中電力 82 120 16.2 0および5
高速電力 フルパワー 82 470 4.1 0および5

表1:RIN、C1、C2の適切な値。(データ提供: Analog Devices)

図5に示されるシステムでは、この評価ツールは、信号対ノイズ比(SNR)106.7dB、全高調波歪み(THD)-114.8dB、サブシステム電力レベルが18.45ミリワット(mW)の低さとなります(表2)。

アンプモード ADCモード 電力(mW) SNR(dB) THD(dB) SINAD(dB)
低電力 低電力 18.45 106.7 -114.8 106.2
低電力 中電力 18.80 106.7 -117.7 106.3
高速電力 フルパワー 30.5 105.9 -116.6 105.6

表2:2つのADA4945-1アンプモードと3つのAD7768-4 ADCモードを組み合わせた性能比較。(データ提供: Analog Devices)

オペアンプ/ADCの組み合わせのSN比は、以下のシステム分解能を示しています。

            分解能 = (SN比 - 1.76)/6.02

                                 = 17.43ビット

この高分解能ドライバADCアンプとΣ-Δ ADCの組み合わせにより、正確な出力が生成され、後処理が完全に必要なくなります。

ハードウェアの評価では、設計者はEVAL-AD7768-4FMCZ評価ボードをAD7768-4と、ADA4945-1を搭載したアンプメザニンカード(AMC)とともに使用できます(図6)。

AD7768-4用のAnalog Devices EVAL-AD7768-4FMCZ評価ボードの画像図6:ADA4945-1を搭載したAMCを追加することにより、AD7768-4用のEVAL-AD7768-4FMCZ評価ボードを使用して設計をテストできます。(画像提供:Analog Devices、明示用のADA4945-1の表示はDigi-Key Electronicsが追加)

この評価プラットフォームは、ADCドライバ用のAMC-ADA4500-2ARMZメザニンカードを、1つのチャンネルのみでドライバアンプ入力として使用するように構成できます。EVAL-SDP-CH1Z高速設計評価ボードをEVAL-AD7768-4FMCZ評価プラットフォームに接続して、付属の評価ソフトウェアを使用します。高精度のオーディオソースをAC分析に使用します。

まとめ

高分解能の心電図によって、通常であれば気付かないままか、または侵襲的検査や低侵襲的な検出方法でなければ兆候を捉えられない心臓の異常を、非侵襲的に検出できます。しかし、そのようなECGに必要な分解能は、ECG検出器、検出器システム、または検知技術のノイズやその他の性能阻害要因によって低下する可能性があります。

これまで述べたように、設計者は、Analog DevicesのADA4945-1ACPZ-R7高速完全差動ADCドライバとAnalog Devicesの8チャンネル、24ビットAD7768BSTZ ADCを効果的に組み合わせることで、多くの問題を回避し、高精度、高分解能のECGを開発できます。さらにこの組み合わせでは、バッファ/デジタルフィルタリング回路も作成され、後処理装置が不要になります。

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