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電源管理システムにおける人工知能:プランBとは?

著者 Steve Taranovich(スティーブ・タラノビッチ)氏

Digi-Keyの北米担当編集者 の提供

人工知能(AI)は風力タービンや太陽光発電システムなどの電源管理アプリケーションに必要な電力制御システムの意思決定プロセスに有効利用できる、と考えられています。

設計者によっては、この制御方法は十分に採用の見込みがあり効率的だと考えるかもしれませんが、ミッションクリティカルなアプリケーションの設計者は、まだ自らの設計やユーザーの安全をAIに完全には委ねられない、と考えるかもしれません。このようなアプリケーションでは、さらに1段上または数段上の冗長性と保護が必要になります。

この記事では、電源管理システムにAIを利用する3つの例を紹介します。さらに、AI機能に障害が生じた場合の3つのバックアップ方法と、Texas InstrumentsMonnit CorporationEPCIntersilのソリューションを使用してこれらの「プランB」代替(バックアップ)手法を実装する方法について解説します。

電力におけるAIの役割

AI技術の利用は、90年代末にTexas Instrumentsなどから提供されたデジタルパワーICへの移行から始まりました。デジタルパワーICの登場は、その何年も前に設計者が電源アーキテクチャにDSPを使用し始めたときからと言えるかもしれません。実際に、現在デジタルパワーと見なされているシステムはその時点で始まっており、AIの初期の形が誕生した瞬間でもあります。現在の回路設計者の多くは、ICに統合されたPMBusを含むデジタルパワーICソリューションを、各自の電力設計アーキテクチャに使用したいと考えます。その一例には、IntersilのISL28023-25高精度デジタルパワーモニタがあります。

電力設計者は当初、各自の設計にデジタルパワーを積極的に使おうとしませんでしたが、今ではごく普通に利用されています。次に大きく飛躍を遂げるのはAIであり、電源管理にいち早く採用され始めた一部のAIはAPEC 2019で脚光を浴びました。しかし、この技術はあまりに新しいこともあり、電力設計者は電源管理システム開発の中にAIを慌てて組み入れることには用心も必要です。ただ電力システムでのAI利用は必然的な流れでもあり、電力設計者はそれに備える必要もあるでしょう。しかし心配なのは、いつの日か電源が「デイブ、悪いけどそれはできません」と応答するかもしれないことです。そのとき「プランB」が必要になります。

プランBでは、設計の中に冗長性を考慮する必要があります。あるいは、本来の機能を失ったAI機能を引き継いで確実に機能を実行する代替システム設計を用意して、ミッションクリティカルなシステムの稼働を続行できるようにすれば、さらに理想的です。

スマートグリッドシステムや再生可能エネルギーシステムでのAI1

エキスパートシステム、ファジー論理、および人工ニューラルネットワーク(ANN)の使用はAIに結びつく手法であり、これらはすでにスマートグリッド(SG)や再生可能エネルギーシステム(RES)に変革をもたらしています。AIはSGとRESの性能や適応性を大幅に向上させる一方、SGやRESはプランBを必要とするミッションクリティカルなシステムの代表的な例でもあります。

SGには、分散RESをグリッドアーキテクチャに利用し、その電力セグメントを風力、太陽光発電(PV)などの再生可能エネルギーで強化するという、SGならではの利用手法があります。

これらの電源では、タービンやPVにとって不利な無風時や夜間など、再生可能エネルギーの活動が低下する時間帯の電力供給に備えて、バッテリ、フライホイール、水素などのまとまったエネルギー蓄積システムを用意する必要があります。

SGには、再生可能エネルギー技術をサポートする点で、従来の電源のみを利用するパワーグリッドと比べて特色があると言えます。従来の電源には、配電システムでの継続的に変化する供給と需要など、多くの変動要素があります。SGはこのような変動に対して、グリッド全域でスマートメータを使用することで対応しています。これにより発電を最適化し、需要が最も高い地域にエネルギーを重点的に供給しながら、需要の低い地域では効率的に供給します。

これは複雑な操作でもあり、AIは風力発電、蓄電、および配電を最も効率的な方法で最適化するために役立ちます。

風力発電

風力発電システムでAIの利点を活かすことができる主な応用の1つに、最大電力点追従(MPPT)機能があります(図1)1

システムフローとAIが活躍する場所を示す風力発電システム図の画像(クリックして拡大)図1:システムフローとAIがMPPT-1およびMPPT-2で活躍する場所を示す風力発電システム図。このシステムアーキテクチャは、「内部永久磁石(IPM)同期発電機」に基づいています。(画像提供:IEEE論文、「Artificial Intelligence Techniques in Smart Grid and Renewable Energy Systems—Some Example Applications」)

図1には、2つのMPPTコントローラ、MPPT-1とMPPT-2が示されています。両方のMPPTとも、Mamdani方式のファジー推論システム(FIS)を使用して制御システムを実現しています。しかしMamdaniは、AIシステムに使用できる数多くのファジー論理手法の1つにすぎません。

MPPT-1の内部はファジー論理コントローラ(FLC)で、タービンの空気力学的効率性の最適化により最大出力を決定できるようにタービン速度を調整するために使われています。この場合、MPPT-2にもFLCがありますが、そこでは、軽負荷時に最大電力を得られるように発電機のステータフラックス(固定子磁束)を最適化するために使われています。

ただ、MPPT機能にも「プランB」が必要であることに変わりはありません。

プランBとは?

誤解がないように説明すると、AIの利用は風力発電向けのより優れたMPPTソリューションが出現するきっかけになりますが、現時点ではそのような優れたMPPTソリューションは、あるとしても決して多くはありません。

ここで説明した2つのMPPT機能は、基本的に効率性を実現する機能であり、必ずしも致命的な障害につながるとは限らず、エネルギー生成の重要な要素である電力変換効率を向上させるようにその機能を発揮します。

プランBの論理的な解決策としては、比較的以前からあるMPPTソリューション、たとえばTexas InstrumentsのSM3320-BATT-EV/NOPB-NDバッテリチャージャ電源管理評価ボードなどを、システムのプロトタイプに挿入することが考えられます。デモボードには、SM72442MTE/NOPB、PVシステム用プログラマブルMPPTコントローラICが含まれています。このデモボードでは、風力タービン充電器との連動のために多少の調整が必要です。

この設計は、蓄電池がタービンから生じた電力をすべて吸収できるか、または設計者が蓄電池に並列負荷を設定し蓄電池の満杯状態が検知された場合に余剰電力をダンプできるように切り替えられる場合に成立します。認識しておくべき重要な点は、これはAIに障害が発生した場合の予備的なソリューションにすぎないということです。ここではAIが依然として第一のソリューションになります。

完全電化航空機の発電

完全電化航空機の発電と電力制御は困難な作業です4。ここでの目標は、安定した電力を生成し、システムを循環し終えた電力を再生することにあります。電力システムを最適化するフィードバックと各種システムの装備は必須であり、リアルタイムで実行する必要があります。これを達成するために、新たな処理システムや通信システムを利用する他に、センサやアクチュエータシステムを加える必要もあります。

AI発電機制御装置(GCU)により駆動される同期発電機のインテリジェント制御を利用することで、航空機のフィードバック制御を実現できます(図2)。

完全電化航空機システムモデルの図図2:完全電化航空機システムモデルは、AIが電力システムのどこに存在し、システム全体がどのように機能するかを示します。(画像提供:IEEE発行の「AI-based Power Control of an All-Electric Aircraft」)

このAIの追加により、システムは過去の電源管理の意思決定による学習によって、ユーザーからの要求にリアルタイムに適応できます。

AI GCU

航空機の電力は、通常、機械式エンジンまたはバッテリなどの蓄電システムから生成されます。GCUは、電圧レギュレータ、励磁機、スタビライザを備えています。この制御システムへのフィードバックは、一次配電ユニット(PDU)から送られてきます。

このシンプルなAI GCUアーキテクチャにより、設計者は電圧レギュレータの使用とともに「プランB」を非常に簡単に利用できます。電圧レギュレータはGCUの一部で、EPCのEPC2001C GaN FETなどのGaNパワートランジスタを使用して設計されます。GaNデバイスは、その高速スイッチング機能により、航空機のレギュレータ(自動電圧レギュレータ(AVR))のパワードライバとして理想的です。これにより小型の磁気部品を使用できるようになり、航空機の軽量化につながります。GaN FETは非常に効率的でもあるので、小型ヒートシンクの使用が可能になるか、場合によってはヒートシンクが不要になり、システムのサイズをさらに縮小できます。

GCU内で発電機の交流(AC)を直流(DC)に変換するには、設計者は静止励磁器(基本的には電圧インバータ)を追加して、電界を発生させる必要があります。サイリスタブリッジ整流器を通じた静止励磁器は、交流発電機の出力を部分的に整流し、最終的に航空機システムに直流電圧を供給します。GCUのスタビライザ部分は、システム安定性の改善指標になります。

電池駆動のリモートセンサと通信するモノのインターネット(IoT)3

モノのインターネット(IoT)は、多くの場合に無線インターフェースを通じて、あらゆるデバイスのインターネット接続を可能にします。AIは、コグニティブ無線通信を使用してこのようなコネクテッドシステムの複雑さを軽減するのに役立ち、マシンの人に対する理解度が高まります。

標準的な工場では、機械やプロセスからの何千ものセンサを使用しています。システムの正常な稼動のためには、信頼性の高い通信と低遅延が必要になり、これによりリアルタイムの意思決定を行えるようになります。これを支障なく遂行するには、センシングソースにインテリジェンスを埋め込む必要があります。

設計者がこれを実現しようとすると、クラウドからネットワークエッジにより多くのインテリジェンスを移行し、IoTノードでの意思決定を可能にする必要があります。機械学習(ML)とAI技術を活用することで、実用的なインテリジェンスがエッジに生成されます(図3)。

AIが強化学習(RL)を実行し最適な伝送周波数を特定するプロセスの図。図3:ここに示されるプロセスにより、AIが強化学習(RL)を実行し、最適な伝送周波数と最大パワーレベルを特定できます。ここではインテリジェントノード(a)、AIによるインテリジェントノードの状態、動作、リワード(b)が示されています。(画像提供:IEEE発行の「Intelligence at the Edge of Complex Networks: The Case of Cognitive Transmission Power Control」)

図3には、AIが強化学習(RL)を使用して最大ワイヤレス電力レベルでの最適な伝送周波数を特定し、ネットワークエッジでのワイヤレス通信におけるパケット衝突と遅延を最小化するように学習する図式が示されています。このように、AIは利用可能で最適な無線通信チャンネルを判断するための最善の方法を自己学習して低遅延通信を可能にすることで、ほぼリアルタイムに動作できるようになり、最善の送信電力制御(TPC)を可能にします。

プランBは、Monnit Corp.のMNK2-9-EG-PHLなどのリモートセンサ監視キットを使用して、この地点で実装できます。このキットでは、技術者が現場に赴き問題を評価して故障したコンポーネント、モジュールまたは基板を交換し動作を完全に回復させるまで、システムの機能を維持するために必要に応じてプランBへ切り替えることが可能です。

キットは考察や学習ができるようにはなりませんが、システムは機能を継続するためデータは失われません。システムが評価されエラーが特定されれば、データ送信を損なわずにすべての機能を復元できます。

まとめ

AIは、非常に多くのアプリケーションで電力設計アーキテクチャを強化し、最終的には人間と同等以上に学習し適応する能力を発揮します。現時点では、この技術はまだ初期の段階にあり、特にミッションクリティカルなアプリケーションにはバックアップとして「プランB」が必要です。

これまで述べたように、電力の設計者にはそれぞれの設計で並列システムにより「プランB」を実装する多くのオプションがあり、メインのシステムに問題が検出されればそれを起動できます。ベンダー各社は素早い学習のための評価キットを提供していますが、必要に応じてAIシステムで特定機能の引き継ぎが可能なディスクリート設計を作成することもできます。

出典

  1. Artificial Intelligence Techniques in Smart Grid and Renewable Energy Systems— Some Example Applications, B.K.Bose, Life Fellow IEEE, Proceedings of the IEEE | Vol.105, No. 11, November 2017
  2. MPPT Control Methods in Wind Energy Conversion Systems, Jogendra Singh Thongam, and Mohand Ouhrouche
  3. Intelligence at the Edge of Complex Networks: The Case of Cognitive Transmission Power Control, Pasquale Pace, Giancarlo Fortino, Yin Zhang, and Antonio Liotta, ARTIFICIAL INTELLIGENCE FOR COGNITIVE WIRELESS COMMUNICATIONS, IEEE Wireless Communications, June 2019
  4. AI-based Power Control of an All-Electric Aircraft, Brook W. Abegaz, IEEE 2019

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著者について

Steve Taranovich(スティーブ・タラノビッチ)氏

Steve Taranovich氏は、エレクトロニクス業界で47年の経験を持つフリーランスのテクニカルライターです。氏は、ニューヨーク州ブルックリンの工科大学でMSEEを、ブロンクスのニューヨーク大学でBEEEの学位を取得しました。また、IEEE Long Islandの教育活動委員会の議長も務めました。現在は、Eta Kappa Nu会員であると同時にIEEE Lifeの上級会員でもあります。氏の専門は、多様な組み込み処理教育をバックグラウンドにしたアナログ、RF、および電力管理ですが、これはBurr-Brown社およびTexas Instruments社での長年のアナログ設計の経験とも関わりがあります。

出版者について

Digi-Keyの北米担当編集者