電池不要のスマート製品向けBluetooth対応ワイヤレススイッチの構築

著者 Stephen Evanczuk

Digi-Keyの北米担当編集者 の提供

スマートコネクテッド製品の急速な普及により、コネクティビティを促進するワイヤレススイッチの需要が増加しています。これらのスイッチは、ワイヤレスであるため配線の必要がなく、設置場所にも困りません。ただし、最近のワイヤレススイッチは電池駆動であるため設計のコストと複雑さが増しており、ユーザーによる電池交換も必要です。この問題のソリューションとして、誘導型環境発電が役立つ可能性があります。

環境エネルギーには、光子、RFエネルギー、振動、温度差、圧力など多くの供給源があります。ただし、この記事では、ON SemiconductorおよびZF Electronicsの部品を組み合わせ、BluetoothおよびEddystoneオープンビーコンプロトコルに基づく新しいアプローチを活用した、誘導型環境発電のリファレンス設計について説明します。

また、この設計および関連開発キットは、Bluetooth対応ハブやスマート製品へ信号をワイヤレス送信するのに必要な電力を超低電力Bluetooth 5.0モジュールに供給します。

超低電力設計

ON SemiconductorのBLE-SWITCH001-GEVB開発キットは、ドロップインBluetooth 5.0モジュールを環境発電機械スイッチと組み合わせることにより、ワイヤレススイッチの迅速なソリューションとカスタムワイヤレススイッチ設計の基盤を開発者に提供します。この設計において、ZF ElectronicsのAFIG-0007誘導型環境発電機は、ON SemiconductorのRSL10 Bluetooth 5システムインパッケージ(SiP)がBluetooth Low Energy(BLE)ビーコンの送信距離を十分に確保できるように、必要なエネルギーを提供します。スマート製品またはハブのBLE対応レシーバは、ビーコンを受信すると、関連動作を実行してライト、リレー、または他のデバイスを制御できます。

この電池不要の設計は、ビーコンを送信するRSL10の電力要件と、その要件に対して十分なエネルギーを生み出すAFIG-0007の機能が最適に組み合わされることで実現します。

RSL10モジュールは、低電力ワイヤレスコネクティビティの新しい需要を満たすために設計されており、複数の機能ブロックを統合して、完全なBluetooth 5ソリューションを提供します(図1)。このモジュールには、汎用処理用にArm® Cortex®-M3コア、および特殊アプリケーション用にON Semiconductor独自のLPDSP32 32ビットデジタル信号プロセッサ(DSP)コアの両方が搭載されています。

ON Semiconductorが提供するRSL10 SiPモジュールの図

図1: ON SemiconductorのRSL10 SiPモジュールは、複数の機能ブロックを組み合わせることにより、消費電力を最小化しつつ完全なBluetooth 5.0ソリューションを提供します。(画像提供:ON Semiconductor)

このモジュールは、上記のプロセッサに加え、複数の周辺機器やメモリをサポートしています。これらには、384Kバイトのフラッシュ、76Kバイトのプログラムメモリ、88Kバイトのデータメモリが含まれます。また、このモジュールには、Bluetooth通信機能を実現するために、Bluetooth物理層(PHY)をサポートする2.4ギガヘルツ(GHz)RFフロントエンド、および高度なBluetooth 5.0プロトコルをサポートするベースバンドコントローラが搭載されています。

1.1~3.3ボルトという広範な電源電圧で動作できるため、RSL10の消費電力は非常に低く抑えられています。Embedded Microprocessor Benchmark(EEMB)ConsortiumのULPMark超低電力(ULP)ベンチマークを使用したところ、RSL10は3ボルト電源で1090、2.1ボルト電源で1360という業界最高スコアを達成しました。

ただし、多くのワイヤレスアプリケーションでは、繰り返される長期間のワイヤレストランザクションへの対応に多くの電力を要するため、最も電力効率の高い設計であったとしても限界に達する可能性があります。ON Semiconductorのリファレンス設計では、Bluetoothビーコンプロトコルの使用により実現される、非常に短い時間のワイヤレストランザクションに対応しています。

ビーコンとは、Bluetoothアドバタイジングプロトコルの後に続く短いメッセージで、識別子や他の短いデータを受信可能なリスナーへ送信します。専用モバイルアプリと組み合わせることにより、ビーコンは小売、エンターテイメント、輸送や、その他の公共の場所で幅広く使用されるようになり、ユーザーの現在地に関連した情報を提供できるようになりました。ON Semiconductorのワイヤレススイッチ設計は、Eddystoneビーコンと呼ばれる特殊なビーコンを使用します。

Eddystoneビーコンは、わずか数バイトのパケットに格納されるエンベロープとデータペイロードを指定するオープン標準に準拠しています。Eddystoneビーコンのペイロードのフォーマットでは、一意のID(UUID)、URL、または温度などのさまざまなタイプのテレメトリ(TLM)データを指定できます(図2)。

業界標準のEddystoneフォーマットの図(クリックして拡大)

図2: 業界標準のEddystoneフォーマットは、ビーコンのエンベロープおよびペイロードをわずか数バイトで定義します。(画像提供:ON Semiconductor)

Eddystoneビーコンを発見すると、受信側のアプリは、そのUUIDに関連付けられた動作を実行し、そのURLにユーザーを誘導したり、テレメトリデータに適切に応答したりできます。

環境発電の供給源

Eddystoneビーコンの送信には10ミリ秒(ms)しかかからず、超低電力RSL10を使用すれば、送信完了に必要なエネルギーは100ミリジュール(mJ)だけです。この条件下であれば、AFIG-0007環境発電機の発電能力内で十分対応することができます。

AFIG-0007内では、磁気ブロックと接触する金属コアをコイルが包み込んでいます(図3、左)。ユーザーがスプリング装填アクチュエータを押すと、磁気ブロックが移動します(図3、右)。この動作によりワイヤコイルの磁界の極性が逆転し、磁気誘導の原理に従って電気エネルギーのパルスが生成されます。アクチュエータを放すことによって磁気ブロックが元の位置に戻り、その結果として逆の極性のエネルギーパルスが生成されます。

ZF Electronicsが提供するAFIG-0007環境発電機の図

図3: ユーザーがZF ElectronicsのAFIG-0007環境発電機に内蔵されているアクチュエータを押すと、磁気ブロックは静止位置(左)から伸長位置(右)へ移動します。これにより、最初にアクチュエータを押した時点と次にアクチュエータを放した時点で、それぞれエネルギーパルスが生成されます。(画像提供: ZF Electronics)

このZF製品の寿命は100万回スイッチングサイクルであり、寸法は20 x 7 x 15ミリメートル(mm)であるため、ワイヤレススイッチ設計の主な機械的および物理的要件に適合します。AFIG-0007は、ワイヤレススイッチ設計のエネルギー要件にも十分適合しています。このZF製品には押して放す起動サイクルごとに約300mJのエネルギーを生成する能力があり、2つまたは3つのEddystoneビーコンを送信するのに十分な電力をRSL10に提供します。ワイヤレススイッチ設計の実装では、前述の2個の部品以外に他の数個の部品を追加するだけで、環境発電電源回路を完成させることができます。

環境発電電源の設計

一般的に、環境発電電源回路では、電圧コンバータとコイルを組み合わせることにより、生成される電圧レベルをマイクロコントローラに求められる厳密なレベルに調節する必要があります。この設計では、RSL10の1.1~1.3ボルトという幅広い電源範囲のおかげで、電源供給の設計をシンプルにすることができます。AFIG-007の出力はNSR1030ショットキーフルブリッジ整流器により整流され、SZMM3Z6V2ST1Gツェナーダイオード、フィルタリング/蓄積コンデンサ(C1)、およびNCP170低ドロップアウト(LDO)レギュレータ(すべてON Semiconductor製品)で構成されるシンプルな回路によりクランプされます(図4)。

ON Semiconductorが提供するRSL10の図

図4: 開発者は、ZF ElectronicsのAFIG-007環境発電機からの整流出力をクランプするシンプルな電源回路を使用して、ON SemiconductorのRSL10に電源供給することができます。(画像提供:ON Semiconductor)

ON SemiconductorのBLE-SWITCH001-GEVBキットは、23 x 23mmの基板上でAFIG-007および上記の電源回路をRSL10と組み合わせます(図5)。

ON Semiconductorが提供するBLE-SWITCH001-GEVBボードの画像

図5: ON SemiconductorのBLE-SWITCH001-GEVBボードでは、23 x 23mmの基板の中央セクションに機能コンポーネントが配置されています(左)。取り外し可能なウィングに、下部からアクセス可能な10ピンのJTAGインターフェースを含む開発インターフェースを配置できます(右)。(画像提供:ON Semiconductor)

幅7mmの中央セクションにはコアコンポーネントが配置される一方で、取り外し可能なサイドウィングは、Tag-ConnectTC2050-IDCなどの標準アダプタ用の10ピンJTAG/SWDインターフェースを含む開発インターフェースを提供します。10ピンインターフェースに加えて、サイドウィングはジャンパ用ヘッダを提供します。さらに、Segger Microcontroller Systems8.16.28 J-LINK ULTRA+などのコネクテッドJTAGプログラマを使用して、プログラミング/デバッギングするための外部3.3ボルト電源(Vout)を提供します。

スイッチ開発

BLE-SWITCH001-GEVBボードには、システムが1回のスイッチ起動によるエネルギーを使い切るまで、20ms毎にEddystoneビーコンを送信するファームウェアがあらかじめ搭載されています。このサンプルアプリケーションの設計では、最初に「https://onsemi.com/idk」というURLを含むEddystone-URLフレームが送信されます。この最初のフレームに続いて、Eddystone-TLMフレームが送信されます。このフレームには、スイッチの電源電圧、アップタイム、およびそれまでに送信されたパケット合計数などのテレメトリデータが含まれています。

ON SemiconductorのRSL10 Eddystoneサンプルソフトウェアは、フレームの構築および送信の基本設計パターンを示しています(リスト1)。このように、開発者は関数EddyService_Env_Initialize()を呼び出して、Eddystone環境struct(eddy_env_tag)をEddystone-URLフレームのペイロードとともにロードします。ビーコンを送信するには、送信者はパッケージを構築するEddy_GATTC_WriteReqInd()を呼び出し、RSL10のAES暗号化アクセラレータを使用してデータを暗号化してから送信キューに送信(ke_msg_send())します。下層のサービス層はキューメッセージを取得し、パケットを作成して送信します。

コピー struct eddy_env_tag eddy_env;   void EddyService_Env_Initialize(void) {        /* Reset the application manager environment */        memset(&eddy_env, 0, sizeof(eddy_env));        ...memcpy(eddy_env.advslotdata_value, (uint8_t[16] ) { 0x10, 0x03, 'o', 'n',                                   's', 'e', 'm', 'i', '.', 'c', 'o', 'm', '/', 'i', 'd', 'k' },                      eddy_env.advslotdata_length);          eddy_env.advtxpower_value = OUTPUT_POWER_DBM; /* Set radio output power of RF */     Eddy_GATTC_WriteReqInd(…)...valptr = (uint8_t *) &eddy_env.advtxpower_value;        .../* Enable and configure the base band block */        BBIF->CTRL = BB_CLK_ENABLE | BBCLK_DIVIDER_8 | BB_WAKEUP;        /* Copy in the exchange memory */        uint8_t plain_text[16];        for (int i = 0; i<=15;i++)               plain_text[i] = eddy_env.challenge_value[15-i];        memcpy((void *) (EM_BLE_ENC_PLAIN_OFFSET + EM_BASE_ADDR), plain_text, 16);        /* Configure the AES-128 engine for ciphering with the key and the memory         * zone */        uint8_t encryptionkey[16];        for (int i = 0; i<=15;i++)               encryptionkey[i] = eddy_env.lockstate_value[16-i];        Sys_AES_Config((void *) encryptionkey, EM_BLE_ENC_PLAIN_OFFSET);        /* Run AES-128 encryption block */        Sys_AES_Cipher();        /* Access to the cipher-text at EM_BLE_ENC_CIPHER_OFFSET address */        uint8_t encryptedtext_temp[16];        memcpy(&encryptedtext_temp[0], (void *) (EM_BLE_ENC_CIPHER_OFFSET + EM_BASE_ADDR), 16);        uint8_t encryptedtext[16];        for (int i = 0; i<=15;i++)               encryptedtext[i] = encryptedtext_temp[15-i];        if (!memcmp(encryptedtext, eddy_env.unlocktoken_value, 16))        ...ke_msg_send(…) 

リスト1: ON Semiconductorのサンプルコードは、Eddystone-URLフレームのペイロードを定義し、完了したフレーム送信するための基本設計パターンを示しています。(コード提供: ON Semiconductor)

送信されたビーコンは範囲内のどのBLE対応ホストからも検出できます。また、ON SemiconductorのRSL10モバイルアプリなどのビーコンアプリを使用して、近くのモバイルデバイスで表示できます。ワイヤレススイッチでデバイスを制御するために、開発者はON Semiconductor RSL10ベースのBDK-GEVK BLE IoT開発キットを使用してビーコンを処理し、関連動作を実行できます。たとえば、開発者は、BDK-GEVKベースボードをON SemiconductorのD−LED−B−GEVKデュアルLEDバラストボードと組み合わせることにより、ワイヤレススイッチで制御されたライトを実装できます。モータ駆動アプリケーションを設計する場合、開発者はベースボードをON SemiconductorのBLDC-GEVKブラシレスDCモータドライバボード、またはD-STPR-GEVKステッピングモータドライバボードと組み合わせることができます。

最後に、ワイヤレススイッチを展開するため、開発者は2つのウィングを切り離して、すべての機能コンポーネントを搭載した7 x 23mmの単一アセンブリを完成することができます(図6)。

ON Semiconductorが提供する開発ボードと標準的なロッカブランクの画像

図6: ON Semiconductorの開発ボードから2つのウィングを取り除くと(左)、開発者は7 x 23mmのアセンブリを標準のロッカブランクに簡単に設置できるようになります(右)。(画像提供:ON Semiconductor)

ZFアクチュエータはアセンブリの背面にあるため、CW IndustriesGIL-2000-2010などのブランクのロッカスイッチの下に設置できます。

まとめ

ワイヤレススイッチは、スマート製品の制御という急速に拡大する需要に対してメンテナンス不要のソリューションを提供します。従来のワイヤレス設計では、電力要件として動作用の電池が必要だったため、設計のコストや複雑さが増大し、ユーザーは電池の管理および交換が必要でした。ON Semiconductorのリファレンス設計では、環境発電を使用して、Bluetooth対応ハブやスマート製品へワイヤレスで信号を送信するのに必要な電力を超低電力Bluetooth 5.0モジュールに供給することにより、これらの問題の大部分を解消できます。

免責条項:このウェブサイト上で、さまざまな著者および/またはフォーラム参加者によって表明された意見、信念や視点は、Digi-Key Electronicsの意見、信念および視点またはDigi-Key Electronicsの公式な方針を必ずしも反映するものではありません。

著者について

Stephen Evanczuk

Stephen Evanczuk氏は、IoTを含むハードウェア、ソフトウェア、システム、アプリケーションなど幅広いトピックについて、20年以上にわたってエレクトロニクス業界および電子業界に関する記事を書いたり経験を積んできました。彼はニューロンネットワークで神経科学のPh.Dを受け、大規模に分散された安全システムとアルゴリズム加速法に関して航空宇宙産業に従事しました。現在、彼は技術や工学に関する記事を書いていないときに、認知と推薦システムへの深い学びの応用に取り組んでいます。

出版者について

Digi-Keyの北米担当編集者