LEDノイズと歪みを軽減して正確なパルスオキシメトリを実現

著者 Bonnie Baker

Digi-Keyの北米担当編集者 の提供

パルスオキシメトリは病院の患者、一般的な診察、新生児医療、家庭での健康モニタリングなどで血液酸素飽和度や脈拍数を測定できる非侵襲的な方法です。これらのあらゆるアプリケーションでは精度が決定的に重要ですが、LED信号のノイズと歪みが大きすぎるということからも、多くの場合その実現が困難です。

一般に、パルスオキシメトリに使用される赤色LEDや赤外LEDは人体の半透明な部位(通常、被検者の指や耳たぶ。乳幼児の場合多くは足)を透過します。その光が、発せられる光の明度などの特性を取り込むフォトダイオードへと通り抜けます。

Zacurateのポータブルパルスオキシメータの画像

図1: このポータブルパルスオキシメータの中に被検者が指を入れると、血中酸素濃度と心拍数が明確に表示されます。(画像提供:Zacurate)

血液酸素飽和度は酸化ヘモグロビン(HbO2)の還元ヘモグロビン(Hb)に対する比率で計算されます。脈拍数を測定するため、システムは脈動する血液の波形サンプルをいくつか収集します。これら2つのパラメータを正確に測定するには、LED信号のノイズと歪みの両方を低減させる必要があります。

この記事ではまず、標準的なパルスオキシメータの電子ブロックについて考察し、次に適切なLED駆動ソリューションと、これらを応用してLEDドライバ回路のノイズと歪みを低減できる設計について紹介します。

パルスオキシメータのエレクトロニクス

パルスオキシメータの主要な電子ブロックはLED送信回路と光検出システムです。標準的なパルスオキシメータのエレクトロニクスは、フィンガーグローブ上部に装着された2つのLEDと底部の光検出器によって構成されます(図2)。

パルスオキシメータの図

図2: パルスオキシメータで正確な測定を行うには、赤色(HbO2)および赤外(Hb)駆動エレクトロニクスからの信号に伴うノイズと歪みを低減させる必要があります。(画像提供:ボニー・ベイカー氏)

図2では、2つのLEDドライバ回路の素子は、以下のようなLEDアンプドライバ回路を搭載した低ノイズデジタル/アナログコンバータ(DAC)です。赤色LEDや赤外LEDは、高電流レベルと低電流レベルのパルス信号を交互に送出し、生成された2種類のパルス幅を持つ信号が指を透過します。これら2つのLEDへ届く駆動信号のタイミングがオフセットされるため、信号を受け取る光検出器が1つの信号を他の信号から分離できます。これらの電流パルスは、一般に100µsのオーダーでアクティブハイになります。

赤色LEDと赤外LEDのピーク波長はそれぞれ660nm (HbO2)と940nm(Hb)です。HbO2 とHbはスペクトル反応が異なるため、異なる波長が使用されます。これら2つの数値による比率の計算により、血中酸素量のパーセンテージ(SpO2)を見積もることができます。

トランスインピーダンス回路またはI-Vフォトダイオード回路の素子はオペアンプ(演算増幅器)、アナログノッチフィルタ、ゲインアンプです。このゲインアンプに続くのがアナログ/デジタルコンバータ (ADC)であり、デジタル出力をDSPチップへ送ります。

LEDドライバ回路

パルスオキシメータ回路の信号パスはLEDドライバから開始されます。単一電源LEDドライバのチェーンには電圧リファレンス(U1)、DAC(U3)、DAC出力バッファ(U4)、トランジスタ電流源(Q1)があります(図3)。

パルスオキシメータシステム用に簡素化されたLEDドライバの図

図3: (右側にあるフォトダイオードレシーバを搭載する)パルスオキシメータシステム用に簡素化されたLEDドライバ。(画像提供:ボニー・ベイカー氏。Analog Devicesの資料を編集して使用)

電圧リファレンス(U1)は16ビットDAC用であり、式1に従いアナログ出力電圧を定義します。

式1

ここでのD = DACレジスタにロードされた10進データワード、N = DACビット数。

たとえば、U1がAnalog DevicesADR4525BRZ-R7シリーズの2.5V電圧リファレンスであり、U3がAnalog Devicesの AD5542AACPZ-REEL7 16ビットシリアルDACである場合、式1は以下のようになります。

式1a

その結果、DACのミッドスケール電圧は1.25V、最下位ビット(LSB)サイズはVREF/(2N) = 2.5/65,536 = 38.1µVとなります。

ADR4525は高精度かつ低ノイズ(1.25mVp-p、0.1Hz~10Hz)であり、温度変動に対し安定した基準を維持できるように設計されています。このデバイスでは出力電圧温度係数(最高2ppm/°C)および長期出力電圧ドリフト(60°C、1000時間以上で25ppm)が低く抑えられているため、長期間および温度の変動という条件下でもシステム精度を維持できます。ADR4525Bの初期室温誤差は最大±0.02%です。

LEDドライバのノイズ解析

LEDドライバ回路のノイズ解析では、16ビットDACが周辺機器を選択する場合の基準になります。つまり、DAC分解能が12ビットであれば、LSBサイズは601.35mVとなり、電圧リファレンスとオペアンプのノイズ要件が緩和されます。

ただしLEDドライバ回路では、近傍DCノイズおよび非直線性がLEDの輝度レベルに影響します。近傍DCノイズ源は以下が原因となって生成されます。

  • DACの積分非直線性および微分非直線性
  • 電圧リファレンスの1/fノイズとアンプの1/fノイズ
  • アンプのコモンモード歪み

これらのノイズ源については詳しく考察していく必要があります。

DACの積分非直線性と微分非直線性: 微分非直線性(DNL)は実際のステップサイズと1LSBの理想値との差です。DNL誤差が–1LSB未満の場合、ミッシングコードの原因となります。AD5542A 16ビットDACの微分非直線性誤差は約±0.4LSBの範囲内です(図4)。

Analog DevicesのAD5542A 16ビットDACにおける微分非直線性とコードの対比のグラフ

図4: Analog DevicesのAD5542A 16ビットDACにおける微分非直線性とコードの対比により、その微分非直線性誤差は約±0.4LSBの範囲であることがわかります。(画像提供:Analog Devices)

積分非直線性(INL)誤差は、測定されたオフセット誤差とゲイン誤差をゼロ設定し、理想的な増幅特性曲線の出力電圧からの実際の出力電圧の最大逸脱幅を示します。AD5542AのINL誤差は約-0.6LSB~+0.25LSBの範囲です(図5)。

Analog DevicesのAD5542A における積分非直線性とコードの対比のグラフ

図5: AD5542Aにおける積分非直線性とコードの対比のグラフにより、積分非直線性(INL)誤差は約-0.6LSB~+0.25LSBの範囲であることがわかります。(画像提供:Analog Devices)

図4、図5の非直線性グラフから、最大アナログノイズは非直線性の最大値に対して1/3または0.6LSBとなり、以下の式となります。

式2

電圧リファレンスの1/fノイズとアンプの1/fノイズ: 1/fノイズの周波数範囲は0.1Hz~10Hzとなります。電圧リファレンス(U1)と基準バッファ(U2)はDAC(U3)へ直接フィードされます。U1とU2の1/fノイズ寄与率を組み合わせる場合は、二乗和(RSS)計算を使用することをお勧めします(式3)。

式3

U1がADR4525シリーズの2.5V電圧リファレンスである場合、1/fノイズは1.25mVP-Pとなります。さらに、U2とU4はそれぞれAnalog Devicesの ADA4500-2(10MHz、14.5 nV/√Hz、レールツーレールI/O、ゼロ入力クロスオーバー歪オペアンプ)の半分を担います。ADA4500-2の場合、1/fノイズは2mVP-Pとなります。

式3を用いると、DAC REFFピンに入る1/fノイズの合計は以下のようになります。

式3a

電圧リファレンス(U1)とバッファアンプ(U2)のノイズはDACのLSBサイズと比較して著しく小さくなっています。

アンプのコモンモード歪み: U4 DACバッファオペアンプの入出力振幅はレールツーレールです。標準的なレールツーレール入力アンプでは、2つの差動ペアを使用してレールツーレール入力振幅を実現できます。低コモンモード範囲では下の差動ペアがアクティブになり、高い範囲では別の差動ペアがアクティブになります。いずれの差動ペアにも固有のオフセット電圧があります。この標準的な相補型デュアル差動ペアがクロスオーバー歪みを引き起こします(図6)。同様に、このアンプにおけるオフセット電圧の変化がDACバッファとして非直線性の原因となります(図7)。

オフセット電圧がコモンモード入力電圧の範囲全体にわたる歪みの原因となることのグラフ

図6: 2つの差動入力ペアにより、オフセット電圧がコモンモード入力電圧の範囲全体にわたる歪みの原因となります。(画像提供:ボニー・ベイカー氏)

アンプ出力バッファによるDAC非直線性のグラフ

図7: 2つの差動入力構造を持つアンプ出力バッファによるDAC非直線性。(画像提供:Analog Devices)

図7はオペアンプの非直線性を示しています。コモンモード電圧が上昇すると、アクティブな差動ペアがPタイプペアからNタイプペアへと変化し、クロスオーバー歪みの原因となります。このクロスオーバー歪みが+4LSB~−15LSBの誤差振幅を引き起こします。

ただし、ADA4500-2は1つの差動入力ペアのみを使用してレールツーレール入力振幅を実現するという点で標準的なアンプではないため、クロスオーバー歪みが発生しません。これは入力構造で正電圧チャージポンプを使用し、フルのレールツーレール入力振幅を得ることで実現できます。

この場合は新たな利点として、デュアルオペアンプADA4500-2の後半部分を使用してDACバッファアンプ(U4)を形成できます。前述のように、前半部分は電圧リファレンスのバッファアンプであるU2に使用されます。

DAC(U3)の出力インピーダンスは一定(通常、6.25kΩ)でありコード独立型です。出力バッファ(U4)で誤差を最小限に抑えるには、入力バイアス電流を低くし、入力インピーダンスを高くする必要があります。これらの要件により、室温での2ピコアンプ(pA)の入力バイアス電流、高い入力インピーダンス、-40°C~125°Cの温度範囲にわたる190pAの最大入力バイアス電流を仕様とするADA5400-2が適切な製品となります。

ノイズ測定

この完全なLED駆動システムの目標ノイズは15mVP-P未満です。データシートの仕様によると、選択されたコンポ―ネントのノイズ寄与率は以下のようになります。

  • U3: DAC AD5542A:
    • 16ビットDAC
    • 0.134μVP-P
  • U1: 電圧リファレンスADR4525:
    • 2.5V出力基準
    • 1.25μVP-P
  • U2: アンプADA4500-2(基準バッファ):
    • コモンモードクロスオーバー歪みなし
    • 2μVP-P
  • U4: アンプADA4500-2(DACバッファ): 2μVP-P
    • コモンモードクロスオーバー歪みなし
    • 2μVP-P

データシートの仕様によると、コンポーネントU1~U4のRSSノイズは3.1mVP-Pです。

この回路では、ゲインが10,000V/Vであるノイズ測定器に0.1Hz~10Hzのフィルタを装備し、実際のノイズ測定を行っています(図8)。

10,000V/Vのゲインで0.1Hz~10Hzのノイズ測定を行うテストの設定の図表

図8: 10,000V/Vのゲインで0.1Hz~10Hzのノイズ測定を行うテストの設定。(画像提供:Analog Devices)

Analog Devicesの EVAL-CN0370_PMDZ 評価キットでは回路の測定データを生成します(当初は図3に記載)。差動入力を短絡すると、測定器のノイズ出力と、接続された回路のノイズはそれぞれ7.81mVP-P (図9)、9.6mVP-P (図10)となります。

入力側のS/N比と出力ノイズのグラフ

図9: 入力S/N比測定器を短絡して出力ノイズを測定すると、78.1mVP-P (または入力換算で7.81μVP-P)となります。(画像提供:Analog Devices)

Analog DevicesのEVAL-CN0370-PMDZを接続した状態の出力ノイズのグラフ

図10: Analog DevicesのEVAL-CN0370-PMDZを接続して出力ノイズを測定すると、96mVP-P (または入力換算で9.6μVP-P )となります。(画像提供:Analog Devices)

この2つのシステムから得られた無相関ノイズとRSS式の組み合わせにより、以下の式が得られます。

式4

LED駆動時のノイズ電流は5.58mVP-P を124Ωで除算した45nAP-Pに等しくなります。

Analog DevicesのEVAL-CN0370-PMDZ回路評価ボードの画像

図11: EVAL-CN0370-PMDZ回路評価ボードは完全な単一電源、低ノイズLED電流源ドライバです。16ビットDACで制御されます(すべてPMODフォームファクタに格納)。(画像提供:Analog Devices)

結論

赤色LEDや赤外LEDはパルスオキシメータで使用され、血液酸素飽和度や脈拍数の非侵襲的測定に活用されます。その役割はフォトダイオードが受け取るエネルギーに基づき、被検者の指を十分に照射して、酸化ヘモグロビン(HbO2 )の還元ヘモグロビン(Hb)に対する比率を測定することです。

システム設計者にとっての課題は、LEDを駆動する電流のノイズと歪みを低減させることです。ご覧のように、この課題には16ビットDACと1/f領域の低ノイズデバイスを、クロスオーバー歪みのないレールツーレールLEDドライバアンプと組み合わせることで対処することができます。

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著者について

Bonnie Baker

Bonnie BakerはDigi-Key Electronicsの寄稿者です。Burr-Brown、MicrochipおよびTexas Instrumentsは、彼女の過去30年以上にわたるアナログ設計とアナログシステムへの関与を促進しました。Bonnieはアリゾナ大学(アリゾナ州ツーソン)から電気工学の修士号を取得し、北アリゾナ大学(アリゾナ州フラッグスタッフ)から音楽教育学士号を取得しています。Bonnieは、アナログデザインの魅力に加えて、450以上の記事、デザインノート、アプリケーションノートの著述を通じて、知識と経験を共有する機会を得ています。

出版者について

Digi-Keyの北米担当編集者