電流測定の基礎: 第3部 – ファンネルアンプ

著者 Steve Leibson氏

Digi-Keyの北米担当編集者 の提供

編集者の注釈: 電流センシングは電子システムで非常に重要な機能ですが、それにともなう複雑さは過小評価されがちです。この3回シリーズの第1部では、電流センス抵抗器について説明しました。第2部では、電流センス抵抗器で生じた電圧を実用的な大きさにまで増幅するアンプの設計と使用法について説明しました。この第3部では、ファンネルアンプを使用して、負荷がより高電圧で駆動しているアプリケーションで電流測定値を増幅する方法について説明します。

電流フローの正確な測定は電圧の測定ほど容易ではなく、比較的高出力の電源電圧に接続された負荷を流れる電流を測定しようとすると、さらに困難になります。電流センス抵抗器(別名シャント抵抗器)は、その測定精度の高さ、低温度係数、そして比較的低コストなことから、電流フロー測定に最適な技術と言えます。この抵抗器はインピーダンスが低いので、シャント抵抗における低い電圧は、通常、昇圧する必要があります。多くの場合、これはローサイドまたはハイサイド構成に接続された電流センスアンプによって行います。

一方で、産業用の制御アプリケーションのように、負荷が比較的高電圧の電源で駆動されている場合は、センス抵抗は負荷から過度の駆動電圧を奪うことなく著しく大きくなる場合があります。このような高い抵抗値は、低インピーダンスのシャント抵抗器(通常はミリオームまたはマイクロオーム単位の値)を流れるセンス電流によって生成される電圧と比較して、格段に大きい電流センス電圧を生成します。この電流センス電圧は、モータ制御からパワー変換にまで及ぶ高電力産業用アプリケーションでは、数ボルトに達することも少なくありません。

このような電流センス電圧は、減衰およびレベルシフトしてからでないと、一般的に単極3ボルトまたは5ボルト電源で動作するA/Dコンバータ(ADC)に印加できません。減衰およびレベルシフトの信号調整チェーンはファンネル信号チェーンとも呼ばれますが、これは検知された電圧信号が信号調整チェーンを通り抜けてADCに到達する際に減衰するためです。このようなセンス電圧を低減または減衰(ファンネル)するための従来のアプローチは受動的な減衰を使用することですが、その代替手法となる差動ファンネルアンプでは、少ない部品数で測定の精度が向上します。

ファンネルアンプは、3種類の信号調整タスクを実行できます。

  1. 検知した電圧を、アナログフロントエンド(AFE)信号チェーンの終わりにADCの許容レベルまで減衰する。
  2. 必要に応じてレベル変換(レベルシフト)を実行する(ハイサイドのセンシング設計など)。
  3. 完全差動ADCの駆動に必要な差動出力が可能。

数百ボルトにも及ぶ非常に高いコモンモード電圧を利用して小信号を測定する必要がある設計者の方は、Art Piniによる「高電圧を利用した小信号の測定、およびセンサ接地ループの回避」を参照してください。

ハイサイドおよびローサイドのセンシングについての考察

図1に示すように、電流を監視する最も一般的な信号チェーン構成には、シャント抵抗器、AFE、ADC、およびシステムコントローラが含まれます。オペアンプまたは専用の電流センスアンプは、シャント抵抗で発生する小さな差動電圧を、ADCに必要なより大きな出力電圧に変換します。

電流シャント抵抗器を通る電流の測定図

図1: 電流を測定する最も簡単な方法は電流シャント抵抗器(左端)を使用することであり、そこを流れる電流に比例した電圧がこの抵抗器で発生します。センスアンプは信号を調整しADCの入力要件に信号をマッチングさせます。(画像提供:Steve Leibson)

ローサイド電流測定では、電流シャント抵抗器をアクティブ負荷とグランドの間に配置します。ローサイド電流測定は、シャント抵抗器のセンス電圧がグランド基準になるため、実装が簡単です。ただしローサイドの測定構成には大きな短所があります。電流シャント抵抗器が負荷とグランド間にあるため負荷がグランド基準ではないのです。さらに、スニークパス経由で負荷からグランドに通るリーク電流を検出できません。

ハイサイドの電流測定では、電源とアクティブ負荷の間に電流シャント抵抗器を挿入します。図2に、ローサイドとハイサイドの電流測定回路を示します。

ローサイドとハイサイドの電流測定回路の図

図2: ローサイドの電流測定回路では電流センス抵抗器をアクティブ負荷とグランド間に配置し、ハイサイドの測定回路では電流センス抵抗器を電源と負荷の間に配置します。(画像提供:Steve Leibson)

ハイサイド電流測定には、ローサイド電流測定と比べて2つの大きなメリットがあります。

  1. スニークパスを経由して負荷とグランド間で短絡が生じた場合、その短絡電流は電流シャント抵抗器を通りセンス電圧を発生させるため、こうした短絡を簡単に検出できます。
  2. ハイサイドの電流測定値はグランド基準ではないため、システムのグランドプレーンを流れる高電流により生じる差動グランド電圧は測定値に影響しません。

ハイサイドの電流測定には大きな欠点も1つあります。センス電圧が、比較的大きなコモンモード電圧の上にあることです。

ローサイドとハイサイドのどちらの測定でも、高電圧によって動作する高電流の負荷は、入力電圧定格を超えるセンス電圧、さらにはセンス電圧をデジタル値に変換するために使うADCの電源レールも超えるセンス電圧を容易に発生する可能性があります。そのような場合、何らかの減衰が必要になります。さらに、センス電圧はハイサイド測定の数十から数百ボルトにも及びがちな大きな電圧オフセットを利用します。このような状況では、センス電圧をADCの入力電圧定格の範囲内に収めるためにレベル変換が必要です。

ファンネルアンプは、正確な電圧ゲインとオフセットを設定するために、出荷時にトリムされた高マッチング抵抗器を内蔵しています。これらの内部抵抗器は、マッチングのないディスクリート抵抗器に基づく設計に比べて、より優れた性能と精度を発揮し、部品点数も削減できます。そして、これらの電流センシングアプリケーションに使用される高性能ADCは差動入力を持つ場合もあるので、ファンネルアンプによってはこれらの差動ADCを適切に駆動するために差動出力を備えています。

2種類のファンネルアンプ

Analog DevicesLT1997ファンネルアンプ(LT1997-2LT1997-3)およびAnalog DevicesのAD8475完全差動ファンネルアンプは、いずれも完全に統合された高精度な抵抗器を備えているデバイスの例です。これら3種類のデバイスは、いずれも同様の信号調節タスクを実行するように設計されていますが、それぞれ非常に異なる特長があります。

Analog Devicesのゲイン選択可能な2つのLT1997ファンネルアンプは、どちらも減衰(ファンネル)差動アンプで、大きな差動信号をADC入力と互換性のある低電圧範囲に変換します。両方のLT1997デバイスとも、高精度オペアンプと高マッチング内部抵抗器のセットをワンチップに組み合わせています。これらのデバイスは、外付け部品を追加せずに電圧を正確に減衰およびレベルシフトできます。図3にはDFNパッケージのLT1997-2アンプの部品を示す内部の回路図、図4にはMSOPパッケージのLT1997-3アンプの内部回路図が示されています。

Analog DevicesのLT1997-2アンプの図

図3: LT1997-2アンプには、高精度なマッチングの抵抗器が多数含まれており、これらを組み合わせて高精度なフラクショナルゲインと減衰を形成できます。(画像提供:Analog Devices)

Analog DevicesのLT1997-3アンプの図

図4: LT1997-3アンプには、高精度なマッチングの抵抗器が数多く含まれており、これらを組み合わせて高精度なフラクショナルゲインと減衰を形成できます。(画像提供:Analog Devices)

なお、これら2つのデバイスのアーキテクチャは非常に似ていますが、品番がほぼ同じでも抵抗値はまったく異なります。またDFNパッケージではREFピンに接続されている内部抵抗器が、MSOPパッケージではピンREF1とREF2に接続されている2つのより大きな抵抗器に分割されています。

並列の配線では抵抗値はどちらのパッケージでも等しくなりますが、MSOPパッケージのこの機能では、2つの抵抗器を電源レールに接続して、追加部品なしで内部アンプの正の入力に正確な中間点の電圧リファレンスを実現できます。この抵抗器を分割する構成は、LT1997-2とLT1997-3のMSOPパッケージの両方に見られます。

LT1997の内部入力抵抗は、広範なアンプゲインを生成するように配線できます。減衰(ファンネル)のタスクでは、ファンネルアンプを形成する多くの減衰設定を生成するように、入力抵抗を配線できます。表1にはLT1997-2アンプ内部の正の入力抵抗器を使用することで可能になる38項目のフラクショナル減衰設定の一覧、表2にはLT1997-3内部の正の入力抵抗器を使用することで可能になる30項目の設定の一覧が示されています。

表1

表1: LT1997-2アンプの高精度なマッチングの正の入力抵抗器を組み合わせることで、数多くの非常に正確なフラクショナル減衰レベルを生成できます。(表提供:Analog Devices)

表2

表2: LT1997-3アンプの高精度なマッチングの正の入力抵抗器を組み合わせることで、数多くの非常に正確なフラクショナル減衰レベルを生成できます。(表提供:Analog Devices)

表1と表2は、LT1997-2とLT1997-3ファンネルアンプの内蔵抵抗器のみを使用することで可能になる、多くの高精度な減衰を示していますが、これがすべてではありません。他の内部抵抗器を使用してアンプゲインをプログラムすることもできます。アンプの出力は、減衰とゲインを掛け合わせた積になります。当然ながら、内部抵抗器で可能になる減衰/ゲインの組み合わせのいずれも総合的な設計要件に合わない場合は、高精度な外付けの抵抗器を回路に追加することも可能です。ただし外付けのディスクリート抵抗器を使用する場合には、内部抵抗器が持つ出荷時の緻密なマッチングはなくなります。

LT1997-2およびLT1997-3ファンネルアンプは、デバイスの負の電源レールより76V高い電圧にも及ぶ、きわめて幅広い入力コモンモード電圧範囲で動作できます。デバイスの内部入力抵抗器を分圧器の構成で使用することにより、LT1997-3のアナログINA入力は±160Vに及ぶ電圧で安全に駆動でき、LT1997-2のINA入力は±255Vに及ぶ電圧で駆動できます。

内部抵抗の緻密なマッチングにより、両方のデバイスでコモンモード除去比が高くなります。非常に大きなコモンモード電圧により信号に対応するこの極端な能力は、Analog Devicesが「Over-The-Top」動作と呼ぶ機能に基づきます。この機能は、デバイスがOver-The-Topモードのとき、直線性、入力バイアス電流、入力オフセット電流、差動入力インピーダンス、ノイズ、帯域幅など他の仕様とのトレードオフによって、極端なコモンモード電圧を許容します。かなり多くのパラメータがトレードオフ対象になるという見方もありますが、他のオペアンプでは致命的にもなる入力電圧を処理できるというメリットがあります。

LT1997-2とLT1997-3の両方のアンプには、5Vのシングルエンド電源と±15Vの電源で動作することを示す完全なデータシート仕様がある一方で、3.3~50Vに及ぶ幅広い電源電圧範囲でも動作します。そしてLT1997アンプはシングルエンド出力を備えています。

完全差動ファンネルアンプ

Analog DevicesのAD8475完全差動ファンネルアンプは、0.4または0.8の高精度な減衰、コモンモードレベルシフト、およびシングルエンド信号から差動信号への変換などの機能を、入力過電圧保護とともに備えています(図5)。このデバイスには、レーザートリムされたマッチング入力抵抗器や高精度な差動アンプなど、AFE構成ブロックの完全なセットが含まれています。アンプは、低電圧で高性能な16または18ビット単一電源SAR(逐次比較型)ADCの差動入力に産業用レベルの信号をインターフェースするために使用できます。AD8475アンプは、単一電源を使用して±10Vの信号を処理できるとともに、±15Vにも達する入力電圧に対する過電圧保護を備えながら5V単一電源で動作します。

Analog DevicesのAD8475完全差動ファンネルアンプの図

図5: Analog DevicesのAD8475完全差動ファンネルアンプは、レーザートリムされたマッチング内部抵抗器を使用して、0.8および0.4のピンプログラム可能なゲインを実現します。(画像提供:Analog Devices)

AD8475には、 2つの標準ゲインオプション(0.4および0.8)があります。デバイスのゲインは、目的のゲインに対応する入力ピンを使用して設定します。

AD8475ファンネルアンプは、その高い電流差動出力段により、多くのADCのスイッチドキャパシタフロントエンド回路を最小限の誤差でドライブできます。さらにスルーレートが強化されたAD8475はその高速出力により18ビット精度に安定し、4メガサンプル/秒にも及ぶ取得速度が可能になります。これにより高速電流(したがって電力)の測定が可能になります。アンプの差動出力は、SAR、ΣΔ、およびパイプラインADCの入力を容易に駆動します。

Analog Devicesの18ビット、1メガサンプル/秒、低電力AD7982 ADCへの差動入力を駆動するAD8475アンプを図6に示します。

Analog DevicesのAD8575ファンネルアンプの図

図6: AD8575ファンネルアンプの差動出力は、Analog DevicesのAD7982のようなADCの差動入力を直接駆動できます。(画像提供:Analog Devices)

この差動入力ADCは単一電源で動作します。3つの正弦波形は、この回路がファンネルアンプにより実行される、減衰、レベルシフト、差動ドライブの3つの信号処理タスクをすべて実行することを示しています。図中央の上と下にある2つの正弦波は位相が180°ずれています。この2つの波形はAD8475アンプの差動ドライブ能力を示すものです。

図の左下にあるAnalog DevicesのADR435超低ノイズXFET®電圧リファレンスは、この回路の高精度な5Vリファレンス電圧を生成します。

図6に示される回路は、電流センス抵抗器からのバイポーラ±10V AC入力信号振幅に対応します。この回路は、入力信号を減衰してレベルシフトし、最終的には、2.5V DCオフセットを中心とした4Vピーク-ピーク信号振幅でADCの入力を駆動し、AD7982 ADCの入力要件に適合します。図の右下隅に示されるように、2個の10キロオーム(kΩ)抵抗器で作られた分圧器は、AD8475のVOCM入力ピン用に2.5Vオフセットリファレンス電圧を生成し、これがアンプの出力電圧オフセットの設定に使用されます。この機能により、設計技術者は設計に使用するADCに必要なオフセット電圧を正確に設定できます。

結論

多くの産業用アプリケーションは比較的高い電圧で負荷を駆動します。この場合、ハイサイドの電流測定回路用のアナログフロントエンドは入力信号電圧を受け入れる必要があり、その電圧は電源電圧よりも大きくなりがちです。このような入力電圧に対応するには、信号の減衰とレベルシフトの両方が必要になります。ファンネルアンプは、このような信号調整タスクの用途向けに設計されており、そのために出荷時にマッチング済みでレーザートリムされた高精度な抵抗器を組み込んでいます。

さらに、差動出力を備えたファンネルアンプは、非常に特殊な駆動条件のスイッチドキャパシタフロントエンド回路を持つ高速ADCを容易に駆動します。

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著者について

Steve Leibson氏

Steve Leibson氏は、HPとCadnetixでシステムエンジニアを務め、EDNとMicroprocessor Reportで編集長として活躍し、XilinxとCadenceなどの企業では技術ブロガーを担当しました。また、同氏は、「The Next Wave with Leonard Nimoy」の2つのエピソードで技術専門家を務めました。同氏は、33年間にわたって、高速でかつ信頼性の高い優れたシステムを設計技術者が開発することを支援しています。

出版者について

Digi-Keyの北米担当編集者