RMS-DCコンバータを使って信号電圧とパワーを効率的に監視する方法を理解

著者 Art Pini

Digi-Keyの北米担当編集者 の提供

スイッチモードのパワー変換や産業用コントローラは、スイッチモードトランジスタ、半導体制御整流器、および関連のサイリスタ機器を使用して、入力波形のデューティサイクルを調整することによりパワーを制御します。生成される波形は非常に複雑なため、そのパワーレベルを測定し監視するには、電流と電圧の波形の二乗平均平方根(RMS)レベルを判定しなければなりません。ここで役立つ機器がRMS-DCコンバータです。

オシロスコープで取得した波形に、プログラムした計算を実行してRMS値を判定することもできますが、この処理にはとても時間がかかります。RMS-DCコンバータでは、入力波形のRMSレベルに比例する直流レベルがリアルタイムで出力されるので、パワーの測定を簡単に行うことができます。RMS-DCコンバータは、複雑な波形や非正弦波形のRMSレベルを測定するパワー監視制御や計器に広く採用されています。

この記事では、RMSとパワー計算の概念を説明します。また、RMS-DCコンバータの仕組みとコンバータの使用例も説明します。

複雑な波形の測定

最近の電子機器は単に直流や正弦波の電圧のみを使うものではなくなってきているので、複雑な波形(図1)の処理に苦労することがあります。どのようにすれば、そうした複雑な波形を数値として測定できるでしょうか。また、各測定値は、波形の何を表しているのでしょうか。

実際によくある複雑な波形のグラフ

図1:実際によくある複雑な波形として、サイリスタ式ACコントローラ(上)、スイッチモード電源の電流(中央)、ランダムなガウスノイズ(下)を挙げます。(画像提供:Digi-Key Electronics)

一番上の波形は、サイリスタ式交流コントローラからの波形です。ゼロ平均値があり、ピークツーピーク値の大きさは、低デューティサイクルの場合は特に、パワーと線形の関係にありません。中央の波形は、スイッチモード電源内のパワーFETからの電流です。一番下の波形は、広帯域ノイズです。非周期的な波形で、これにもゼロ平均値があります。ピーク値は非常に高くなることもありますが、有限の平均パワーを持ちます。

初期の交流電圧計は、全波整流の平均測定値を使って電圧の実効値を測定していました。このような電圧計は正弦波に対しては有効に機能していましたが、複雑な波形の場合には誤った測定値となっていました。波形に左右されることなく実効値を得る唯一の技法がRMS測定です。

RMSとは

RMS測定は、波形の大きさについて最も正確な情報を得られる測定として広く認識されています。変動する信号の測定や比較を、波形によらず一貫して偏りなく行うための標準的な方法です。

RMSは、交流信号の大きさを示す基本的な測定値の1つです。信号から得られるRMS値は、同じ負荷で同じ加熱効果を生成するために必要な直流のレベルを表しています。つまり、信号パワーに関する値です。

波形のRMS値の数学的定義は、「信号を二乗し、その平均を取り、そこから平方根を計算する」となります。平均を取るための時間間隔には、測定すべき最低周波数でフィルタ処理ができるだけの適切な長さが必要です。一定の時間にわたる波形のRMS値を計算する式は以下のようになります。

式1

RMS値は、二乗した電圧の平均の平方根です。二乗した電圧の平均を負荷インピーダンスで割った値は、波形によって生み出される平均パワーです。ここからも、RMSが信号パワーに関する値であることがわかります。

この計算式はオシロスコープなどの計器で取得される波形の数値に適用できますが、数値の計算をするにはある程度のプログラムコードを書く必要があります。RMS-DCコンバータの非常に高い利便性は、デジタル化せずに物理的な波形を測定する点にあります。

RMS-DCコンバータ

RMS-DCコンバータは、その名前が示すとおり、入力信号のRMSの大きさに比例する直流出力のレベルを生成する機械です。過去にさかのぼってみると、最初のこうした機械は、負荷に接続されている入力の波形から生成される熱を実際に測定する計器でした。これらの計器が、その後、同様の処理を電子的に行うICへと形を変えました。

波形のRMSの大きさを計算する方法としては、陽解法、陰解法、デジタルシグマ方式の3種類の回路トポロジがあります(図2)。

陽解法、陰解法、デジタルシグマ方式の回路トポロジの図

図2:波形のRMS値を測定する方法には、陽解法、陰解法、デジタルシグマ方式の3種類の回路トポロジがあります。(画像提供:Digi-Key Electronics)

陽解法では、信号を二乗し、その平均から平方根を取得します。平方と平方根の取得は、一般的に対数/真数トランジスタアレイを使用して実装します。平均は、RCローパスフィルタを使用して取得します。多くの場合は、遮断周波数を設定する外部コンデンサを必要とします。この方法は有効ではありますが、平方根演算を行うため測定値のダイナミックレンジが非常に大きくなり、極めて大きな誤差が生じる確率が高くなります。

2つ目の方法は陰解法です。これは陽解法の性能を改善するための方法で、フィードバックを用いて数学演算を再編成します。入力ステージは、乗算器/除算器であり、フィードバックされた出力を除数として用います。これは、平方根演算を避けることができる優れた方法です。以下の4つの計算式を参照してください。

式2

VOは直流のレベルなので、その値は平均値に等しくなります。

式3

式の両項にVOを掛けます。

式4

最後に、式の両項の平方根を取得します。

式5

Analog DevicesAD737JRZ-RLは、陰解法の計算技法を用いたRMS-DCコンバータです。精度は、±0.2mV(読み取り値の±0.3%)です。このコンバータは、入力信号のRMS値を出力できるだけでなく、平均整流値と絶対値も提供できます。

RMSを得るための最後の方法は、デルタシグマ方式です。この方法では、デルタシグマ(ΔΣ)変調器を除算器として使います。この変調器の出力側の単純な極性スイッチが乗数として機能します。ΔΣの出力はパルスであり、このパルスの平均デューティサイクルは入力信号対出力信号の比率に比例します。この出力パルスが、+1と-1の値を切り替える極性スイッチを動かすことにより、出力は、二乗した入力対出力の比率に比例するものとなります。平均はローパスフィルタによって取得されます。陰解法に使用した数式をΔΣ方式に当てはめると、入力信号のRMS値に等しい出力が得られます。この方法の優れている点としては、計算が高速になるので、測定の帯域幅を大きくできることが挙げられます。

Analog DevicesLTC1966IMS8#TRPBFは、ΔΣ方式を用いたRMS-DCコンバータです。このコンバータは、帯域幅800kHz、総合誤差は1kHzで入力信号の0.25%未満となります。この方法は直線性に優れているため、測定直線性は0.02%です。

RMS-DCコンバータの使用例

RMS-DCコンバータは、信号レベルの監視や制御が必要となるさまざまなケースで使用されます。こうしたケースでは波形が複雑な形になることも、従来の正弦波であることもあります。ここでは、三相パワー監視での使用例(図3)を説明します。

50Hzの三相パワーラインを監視するRMS-DCコンバータの図

図3:50Hzの三相パワーラインの監視にRMS-DCコンバータを使用します。(画像提供:Analog Devices)

この使用例では、Analog DevicesのAD8436 RMS-DCコンバータと、三相を1台のRMS-DCコンバータで監視できるようにするため3:1の多重化装置を使用します。相電圧は、3つの1000:1の高電圧除算器を使用してサンプリングします。RMS-DCコンバータの出力は、アナログ〜デジタルコンバータ(ADC)に接続します。多重化装置とADCは、パワーラインの1電圧周期(20ms)の中ですべての相のサンプリングを継続的に行います。

AD8436は、陰解法を用いた低電力RMS-DCコンバータです。精度は、1MHzの帯域幅で、±10μV(マイクロボルト)、± 0.25%です。このコンバータは、外部の減衰器とやり取りするための内蔵FETバッファを備えています。また、低インピーダンス負荷を駆動するときの誤差を最小限に抑える出力バッファアンプも備えています。

非周期的波形の測定

RMS-DCコンバータは、ガウスノイズ(図4)のような非周期的な信号の特性化にも使用できます。

ノイズレベル監視回路のLTSpice XVIIシミュレーションの図

図4:ノイズレベル監視回路のLTSpice XVIIシミュレーション(メーカー推奨)に、Analog DevicesLTC1966 RMS-DCコンバータを使用します。(画像提供:Digi-Key Electronics)

ノイズや、ノイズのような信号は、特性化が非常に困難です。たとえば、ガウスノイズは、ピークツーピーク値が非常に大きくなることがあります(理論上は無限です)。ピークツーピーク値のレベルは、本質的には、限界がなく、観察時間の経過とともに大きくなります。しかし、RMSレベルは有限で、妥当な値に収まります。LTSpice XVIIでモデル化されたこのノイズ監視回路には、Analog DevicesのLTC1966 ΔΣ RMS-DCコンバータが使用されています。LTC1966の前のオペアンプは、ゲイン係数1000でノイズを増幅します。出力側の1μF(マイクロファラッド)のコンデンサは、平均フィルタの折点周波数を設定する平均化容量です。RMS-DCコンバータの出力は直流のレベルです。感度は、ノイズのmV RMSあたり約1mV(ミリボルト)です。この例では、0.7Vとなっており、これはノイズの大きさが700mVRMSであることを示しています。

同様に、スイッチモード電源からの電流波形のRMSレベルを測定することもできます(図5)。

このLTSpice XVIIシミュレーションでは、実際の波形は区分的線形(PWL)の電流源から取り込まれています。電流は、1Ω抵抗シャントを使用して感知されるので、LTC1966への入力電圧は1mV/mAとなります。この信号は、前の例で使用したようなアンプを必要としません。電流は、LTC1966によって直接感知されます。この波形のピーク電流は0.584Aであり、のこぎり波形のデューティサイクルは20%です。RMS-DCコンバータ出力で測定されたRMS電圧は140mVであり、この値から、RMS電流の大きさは140mAとなります。

LTC1966のシミュレーションを使用して、スイッチモード電源のスイッチングFET電流波形のRMS値を測定する図

図5:LTC1966のシミュレーションを使用して、スイッチモード電源のスイッチングFET電流波形のRMS値を測定します。(画像提供:Digi-Key Electronics)

サイリスタ式コントローラの波形も同様にシミュレーションで測定できます(図6)。

サイリスタ式コントローラの波形の図

図6:サイリスタ式コントローラの波形をシミュレーションし、LTC1966を使って測定します。RMS値は155Vです。(画像提供:Digi-Key Electronics)

この例でも、実際の波形はPWL源を使って取り込んでいます。ピークツーピーク値が620Vのこの波形は、200:1の電圧除算器で減衰されます。LTC1966 RMS-DCコンバータのRMS出力として得られる数値は0.767Vです。これは、回路入力のRMSレベルが155Vであることを示しています。

結論

多くの種類の複雑な波形の実効パワーは、アナログRMS-DCコンバータを使用することにより、長いプログラミングコードを書いたりデバッグしたりすることなく、簡単に測定できます。このような低コストのコンバータは、さまざまな波形のパワーに関連するパラメータの測定、監視、制御に最適です。

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著者について

Art Pini

Arthur(Art)PiniはDigi-Key Electronicsの寄稿者です。ニューヨーク市立大学の電気工学学士号、ニューヨーク市立総合大学の電気工学修士号を取得しています。エレクトロニクス分野で50年以上の経験を持ち、Teledyne LeCroy、Summation、Wavetek、およびNicolet Scientificで重要なエンジニアリングとマーケティングの役割を担当してきました。オシロスコープ、スペクトラムアナライザ、任意波形発生器、デジタイザや、パワーメータなどの測定技術興味があり、豊富な経験を持っています。

出版者について

Digi-Keyの北米担当編集者