D級アンプで、ポータブルで低電力のオーディオ回路設計を簡素化

著者 Art Pini

Digi-Keyの北米担当編集者 の提供

この記事では、各タイプのオーディオアンプの違いを説明した後、D級(クラスD)アンプの動作理論を詳しく説明し、それがいかに効率を高め、所要電力とサイズを削減するかを示します。

ハンドセットや携帯IoTデバイス用のオーディオ回路には、低電力、小型サイズ、低放熱といった特性が必ず求められます。しかし、オーディオアンプというものは、かさばるヒートシンクを必要とする非効率的な発熱体です。サイズ要件と電力要件を低減するには、D級アンプまたはデジタルアンプが優れたソリューションを提供します。

スイッチモード電源が電源ソースにもたらしたものを、D級アンプはオーディオ再生にもたらします。D級アンプでは、オーディオ入力はパワーデバイスをオンとオフのレベル間で駆動するパルス幅変調(PWM)信号としてエンコードされ、電力は遷移時にのみ消費されます。

このような「デジタル」アンプは、オーディオアンプの効率を大幅に向上させ、その結果、熱放散が減少し、物理的サイズが小さくなります。また、最近の開発で変調方式が変更された結果、ローパスフィルタが出力に不要になり、サイズと複雑さがさらに減少しました。

アナログパワーアンプ

アナログパワーアンプの開発は、忠実度を改善することに重点を置いてきましたが、同時にアンプ効率も改善されました。アンプは、動作点またはバイアス点、そして伝導する入力信号サイクルの割合に基づいて、A、B、AB、またはCのアルファベット文字で分類されます(図1)。

A級、B級、AB級、およびC級のアナログアンプの動作バイアスと信号伝導の図

図1:A級、B級、AB級、およびC級のアナログアンプの動作バイアスと信号伝導。(画像提供:Digi-Key Electronics)

A級(クラスA)アンプ(左上)は、入力信号の全サイクルで伝導し、入出力動作特性の中間点でバイアスされます。信号忠実度は非常に優れていますが、入力信号がない場合でもアンプは常にオンになるため、効率は悪くなる傾向があります。

B級(クラスB)アンプ(左下)は、効率を改善することを目的とし、カットオフでアンプをバイアスします。このアンプは、入力サイクルの半分だけを伝導します。通常、回路はプッシュプルトポロジで構成され、正と負の両方の入力遷移を増幅します。信号が存在しないとアンプは導通せず、効率が上がります。しかし、この利点は、入力極性の遷移点で発生する可能性があるクロスオーバー歪みによる忠実度の低下によって相殺されます。

クロスオーバー歪みの問題は、アンプのバイアス点をわずかに高くすることで対処できます。その結果生まれたのが、AB級(クラスAB)アンプです(右上)。このタイプのアンプは、プッシュプル構成でも広く使用されています。AB級アンプは、オーディオパワーアプリケーションに最も一般的なタイプと言えます。

C級(クラスC)アンプ(右下)は、入力サイクルのごく一部で伝導するように設計されています。効率が高いことが特長ですが、忠実度は低くくなります。このタイプのアンプは、RFパワー設計のアプリケーション向けで、出力負荷が正しい波形を回復するための共振回路などで使用されます。

これらのアナログアンプの効率を向上させるための戦略は、C級アンプで示されているように、アンプの伝導位相を可能な限り最小の期間に減少させることに重点が置かれています。

D級アンプの基本

これに代わってD級アンプは別のアプローチを取り、スイッチモード電源と同様の動作をします(図2)。

「D級アンプはアナログ入力をPWM波形に変換します」の図

図2:D級アンプはアナログ入力をPWM波形に変換して、FETスイッチを完全にオンまたはオフにします。出力ローパスフィルタは、スピーカでアナログ波形を再生します。(画像提供:Digi-Key Electronics)

D級アンプは、入力アナログ信号をパルス幅変調(PWM)波形に変換します。PWM波形は、各パルスに対してプッシュプルFET出力段を完全にオンまたはオフに駆動します。一方のFETがオンのときは、それを流れる電流は大きくなりますが、両端の電圧は非常に低くなるため、電力はオン状態とオフ状態の間の短い遷移期間にのみ消費されます。同様に、FETがオフのとき、両端の電圧は高くなりますが、電流はゼロに近くなります。繰り返しになりますが、状態遷移期間を除いては、電力損失がありません。

アナログ波形をPWM波形に変換するには、アナログ波形をコンパレータの一方の入力に印加し、もう一方の入力には所望するスイッチング周波数で三角波またはランプ波形を印加します(図3)。上側のトレースは入力波形で、この場合は10kHzの正弦波を表し、コンパレータの一方の入力に印加されます。真ん中のトレースは、もう一方のコンパレータ入力に印加される250kHzの三角波です。コンパレータの出力は、下側のトレースに示されているPWM波形です。パルス幅は、入力信号の振幅によって変動します。

「入力信号と三角関数またはランプ関数を使ってアナログ入力からPWM信号を作成する」の画像

図3:アナログ入力からPWM信号を作成するには、入力信号(上)と三角関数またはランプ関数(真ん中)が必要になります。次に両方をコンパレータの入力に印加して、入力信号の振幅(下)に応じて変化するパルス幅を持つPWM信号を生成します。(画像提供:Digi-Key Electronics)

FETプッシュプルパワー段の出力もPWM信号です。これは、増幅されたアナログ波形を復元するために、簡単なインダクタ + コンデンサ(LC)ローパスフィルタに印加されます。三角波の周波数は、ローパスフィルタのコーナー周波数よりかなり高くなければなりません。

PWMの代替は、パルス密度変調(PDM)です。PDMは、密度がアナログ入力振幅の関数として変化する一連の短時間矩形パルスを使用します。これは、シグマデルタ変調を使用して生成されます。

D級アンプのゲインはバス電圧の影響を受けます。この方式は電源除去比が貧弱ですが、アンプの周りのフィードバックを使用して修正されます。図2のブロック図に示されているように、フィードバックはフィルタ入力から取得されます。

D級アンプの最大の利点は、約90%という高い効率です。これに最も近いアナログのライバルは、50〜70%の効率のAB級アンプですが、それよりはるかに優れています。

高効率であるということは、より小さな物理的サイズを可能にし、そして場合によってはヒートシンクや冷却ファンを排除することも可能にします。ポータブルデバイスの場合は、効率が高いほどバッテリ寿命が長くなります。効率は出力電力レベルによって直接変化し、電力の減少につれて低下します。

D級アンプのトポロジ

一般にD級アンプに使用されるトポロジは2つあり、そのうちより単純なものは図4に示すハーフブリッジ回路です。

「一般的に使用さる2つのD級トポロジ、ハーフブリッジ構成とフルブリッジ構成」の図

図4:一般的に使用される2つのD級トポロジは、ハーフブリッジ構成とフルブリッジ構成です。(画像提供:Digi-Key Electronics)

ブリッジ接続負荷(BTL)と呼ばれるフルブリッジトポロジには、ハーフブリッジ構成と同じ電源電圧でより高い出力電力が得られるという利点があります。ハーフブリッジのフィルタ入力は、正または負の電源レール間で振幅しますが、BTL回路では、正と負のレールの間に同時に負荷がかかるため、負荷への印加電圧が2倍になり、結果として電力出力が4倍になります。BTL動作では、単一のユニポーラ電源の使用も可能です。

フィルタレスD級アンプ

AD変調と呼ばれる従来のD級スイッチングシステムでは、デューティサイクルによって矩形波が変調され、その平均値が入力アナログ信号電圧に相当します。BTL出力は互いに補完します。その出力には、大きな影響を与えるコモンモードスイッチングの成分はありません。ただし、PWMスイッチングの平均値により、コモンモードDC電圧が発生します。このDC電圧レベルは負荷の両側に印加されるので、それ全体の電力消費を増やすことはありません。

入力がない場合、アンプは公称PWM周波数でスイッチングし、50%のデューティサイクルが負荷に印加されます。これにより、負荷に大きな電流が流れ、電力が消費されます。効率を向上させるために電流を「リップル」まで下げるには、LCフィルタが必要です。このリップル電流が小さいほど、負荷での電力消費が減少し、出力FETのRDS(on)での伝導損失が減少するため、効率が良くなります。

BDまたはフィルタレス変調と呼ばれる代替変調方式では、平均値が入力アナログ信号と一致するように、出力信号の差のデューティサイクルを変調するスイッチングシステムを使用します。アイドル時にはBTL出力は互いに同相であり、相補的ではありません。これにより、負荷にかかる電圧差がゼロになり、フィルタを必要とせずに静止消費電力を最小限に抑えます。BD変調は、その出力に大きな影響を与えるコモンモード成分を含みます。この変調方式は、スピーカの固有インダクタンスと人間の耳に特有のバンドパスフィルタ特性に基づいてオーディオ信号を再生します。

D級アンプの集積回路

Texas InstrumentsTPA3116D2DADRは、90%を超える効率を持つD級ステレオアンプで、21V 4ΩのBTL負荷に対して50W 2チャンネルを含む、複数の出力電力構成をサポートします。このファミリの他のモデルは、24V 8Ωに対して30W 2チャンネル、および15V 8Ωに対して15W 2チャンネルをサポートします。ヒートシンクは、最高出力のデバイスにのみ必要です。

これらのデバイスは、干渉を防ぐため、AM回避で1.2MHzまでのスイッチング周波数をサポートしています。ADまたはBD変調方式の選択は、単一の入力制御で選択可能です。これには、過電圧、不足電圧、過温度、DC検出、短絡など、エラーレポート付きの自己保護回路が内蔵されています。TIのTINA-TIシミュレーションツールを使用した代表的な構成を図5に示します。

Texas InstrumentsのTPA3116D2DADR D級ステレオアンプのシミュレーションの画像(クリックで拡大)

図5:TIのTPA3116D2DADR D級ステレオアンプのシミュレーションで、BD変調の生波形(VM3)とフィルタ処理後(VM1)の出力波形を表示したところです。(画像提供:Digi-Key Electronics)

この回路は12V単電源を使用し、4Ωに対して12.5Wの出力電力レベルを示しています。バーチャルオシロスコープは、生のデジタル出力(VM3)とフィルタ処理された出力(VM1)を示しています。

Texas InstrumentsのTPA3126D2DADは、TPA3116D2シリーズの性能を引き上げたものです。このデバイスは古いICとピン互換であり、独自のハイブリッド変調方式を使用してアイドル電流を70%削減する大きな改善が行われています。この方式は、低電力レベルでのアイドル電流を減らして、バッテリ寿命を延ばします。

低電力動作では、D級アンプの設計にはさらに注意が必要です。前述のように、効率は電力レベルに比例するもので、低電力レベルは一般に効率が低いことを意味します。Texas InstrumentsのTPA2001D2PWPRは、1W/チャンネルのステレオD級アンプで、低電源電流、低ノイズフロア、高効率を特長とする第3世代のD級設計です。D級フィルタレス変調方式を軸に設計されているので、出力フィルタが不要で、設計者の部品コストと基板スペースを節約します。5Vの電源を使用し、1チャンネルあたり8Ωに1Wを超える電力を供給できます。

リファレンス設計は、プラグアンドプレイD級オーディオアンプを構成できる評価用ボードTPA2001D2EVMとして入手できます(図6)。

TPA2001D2 D級アンプをベースにした1W/チャンネルのステレオアンプの図

図6:TPA2001D2 D級アンプをベースにした1W/チャンネルのステレオアンプ。(画像提供:Texas Instruments)

BTLトポロジを使用したアンプは基本的に自己完結型で、わずかな外部部品を追加するだけで済みます。

まとめ

D級アンプは、小型パッケージで低損失と非常に高い電力効率を提供し、ポータブルおよびバッテリ駆動設計に向いています。このようなアンプには、既製のICをすばやくかつ手軽に応用できます。そして最近の進歩によってフィルタの必要性が減ったこともあり、このタイプのアンプは低価格化と小型化が進んでいます。

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著者について

Art Pini

Arthur(Art)PiniはDigi-Key Electronicsの寄稿者です。ニューヨーク市立大学の電気工学学士号、ニューヨーク市立総合大学の電気工学修士号を取得しています。エレクトロニクス分野で50年以上の経験を持ち、Teledyne LeCroy、Summation、Wavetek、およびNicolet Scientificで重要なエンジニアリングとマーケティングの役割を担当してきました。オシロスコープ、スペクトラムアナライザ、任意波形発生器、デジタイザや、パワーメータなどの測定技術興味があり、豊富な経験を持っています。

出版者について

Digi-Keyの北米担当編集者