ToFセンサを使用した距離測定とジェスチャ認識の基礎

著者 Steve Leibson氏

Digi-Keyの北米担当編集者 の提供

多くの用途で、対象物に触らずにその存在や対象物までの距離を感知する必要があります。このような近接センシングニーズに対応するため、光学式Time-Of-Flight(ToF)センサなど多くの競合ソリューションが生まれています。これらのソリューションは正確ですが、コストが高く実装が複雑です。ただし最新のソリューションによってこのテクノロジは大幅に使いやすくなりました。

近接センシングを使用する製品には、カメラのオートフォーカスシステム、ロボット、ドローン、トイレのさまざまな備品、自動ドアのポータルアクセスセンサなどがあります。これらはほんの一例で、他にもさまざまな製品があります。競合する近接センシングテクノロジは最初はシンプルな赤外線センサと超音波センサだけでしたが、徐々にニューラルネットワーク装備の立体ビデオカメラなど、より複雑なセンサシステムにまで広がっています。

これらすべてのテクノロジには制限があり、対象物の認識や自律走行車の追跡といった複雑なタスクには人工知能が必要になる場合がありますが、ペーパータオルやせっけんの補充のためのテクノロジはやり過ぎです。予算の削減と設計期間の短縮に直面している設計者は、コスト、スペース、設計時間を最小限に抑える必要があります。

近接センシングの代替として検討できるテクノロジの1つが、ToFセンサです。ToFセンサは、光子がセンサから対象物まで移動してセンサに戻るまでのラウンドトリップの時間を測定して対象物までの距離を測定します。これまで、ToF設計を迅速かつ低コストで実装するのは困難でしたが、新世代の高度に統合された低コストのToFセンサの登場で、非常に精度の高いタッチレスセンシングを低コストの設計に取り込むことができるようになりました。

この記事では、距離センシングとジェスチャ認識両方のさまざまな用途での、ToFセンサを含む距離測定テクノロジの進化と使用法を説明します。最新のソリューションと概要を紹介する前にToFセンサテクノロジの機能について説明します。

初期の近接センサ

1972年に発売されたPolaroid SX-70インスタントフィルムカメラには、折りたたみ式のスリーミラー光学設計、フレネルレンズ、インスタントフィルムパッケージに内蔵されたフラット6ボルトバッテリ、10ショットフラッシュバーなど、革新的なテクノロジが多数組み込まれていました。しかし、PolaroidがSX-70カメラに導入した中で最も影響力の大きかったテクノロジはソナーオートフォーカスシステムです。これは1978年に発売されたPolaroid SONAR OneStepカメラで初登場しました(図1)。ソナーオートフォーカスシステムには、超音波距離測定パルスの送信と反射超音波エネルギーの受信の両方を行う革新的な超音波トランスデューサが採用されていました。

Polaroid SONAR OneStep SX-70カメラの画像

図1:Polaroid SONAR OneStep SX-70カメラにはオートフォーカス距離測定用の超音波トランスデューサ(カメラの上部にある大きな金色の円)が組み込まれていました。(画像提供:Wikipedia)

SONARの超音波センサは非常に成功し、Polaroidはセンサのみに特化したビジネスを立ち上げ、現在でもPolaroid超音波センサオートフォーカスセンサの残影を見ることができます。たとえば、安価なSparkFun SEN-13959 HRC-SR04超音波距離測定モジュールは、送信トランスデューサと受信トランスデューサを別個に備える距離センサです(図2)。このセンサは、Arduino開発ボードで直接駆動される設計になっています。センサの範囲は2~400センチメートル(cm)で、最小解像度3ミリメートル(mm)の非接触近接測定を行うことができるように指定されています。

SparkFunのSEN-13959超音波距離測定モジュールの画像

図2:SparkFunのSEN-13959超音波距離測定モジュールでは40kHzの反射パルスを使用して距離を感知します。(画像提供:SparkFun)

このモジュールで距離を測定するために、Arduinoボード(または別のコントローラ)は10マイクロ秒(µs)パルスをボードのTrigピンに送信します。Trigピンは超音波トランスミッタで放出される連続する8つの短い超音波パルスをトリガします。音波パルスは対象物に到達して反射し、1秒あたり343メートル(m)で移動します(20˚Cの標準的な環境内)。対象物までの距離は、超音波パルスの送信から受信までの時間の長さを1秒あたり343メートルで乗算し、(往復分を考慮して)2で除算した値です。

超音波パルスは硬い表面では適切に反射しますが、カーテン、カーペット、衣類、ペットなどの柔らかい表面の場合はうまく反射しません。測定の精度は、パルスの時間測定に使用する方法によって異なります。SparkFun SEN-13959モジュールにはそのような時間測定制御機能がありません。正確な時間測定はホストのCPUによります。また、超音波センサからの距離測定の精度と安定性は、気温(大気中の音速が変化)と空中移動(反射超音波エネルギーの多くが吸収され、リターン信号が減衰)により変化します。

近接検出と距離測定には赤外線(IR)LEDも使用されてきました。たとえば、Sharp MicroelectronicsGP2Y0A41SK0F距離測定センサユニットは、IR LED(図3)から送信された反射赤外線の強度に基づいて4cm~30cmの距離にある対象物を感知します。センサは、3ボルト以上(3cmの近接に対応)からおよそ0.3ボルト(40cmの近接に対応)までのアナログ電圧範囲を出力して対象物の距離を示します。ホストコントローラは、このアナログ電圧をデジタル表示に変換します。

Sharp GP2Y0A41SK0F赤外線距離測定センサユニットの画像

図3:Sharp GP2Y0A41SK0F赤外線距離測定センサユニットは、3cm~40cmの範囲で対象物を検出できます。(画像提供:Sharp Microelectronics)

ただし、対象物の距離は反射IRエネルギーの量に基づくため、このタイプのIRセンサの精度は対象物の反射性と周囲光の強度などの変数による誤差に影響を受けます。

赤外線で対象物の距離を測定するもう1つの方法は、一連の光子がセンサの赤外線エミッタから対象物まで移動し、反射して、センサに戻るまでの時間を測定する方法です。この種類の近接測定センサでは、超音波センサのToF特性を、気流、周囲光、または反射性に影響を受けない光子速度の相対的な安定性と結合します。

最近まで、一連の光子が短い距離を移動する時間を測定するのは困難でした。それは、光が1秒あたり299,792,458メートル(1ナノ秒あたり1フィート)の速度で移動するからです。その結果、ToFセンサでは、数ミリメートル、数センチメートル、あるいは数インチの距離を検出するために非常に精度の高いナノ秒未満の時間測定が必要になります。

ただし、ビデオゲーム業界のおかげで、ToFセンサテクノロジは大幅に安くなりました。現在ToFセンサが使用されている最も有名な製品は、Microsoft®のKinectゲームコントローラです(図4)。第1世代のMicrosoft Kinectは、2010年後半にMicrosoftのXbox 360の周辺機器として導入されました。このコントローラは、ToF距離センシングを使用してロボットの周囲環境の3次元マップを生成できたため、ロボット製作者の間で非常に人気がありました。

Microsoft Xbox 360 Kinectコントローラの画像

図4:MicrosoftのXbox 360ビデオゲームコンソール用のMicrosoft KinectコントローラではToFセンシングを使用してその周囲環境の3次元マップを作成します。(画像提供:Wikipedia)

Kinectコントローラのセンシングテクノロジが小型化および簡素化されて、さまざな埋め込み型アプリケーションに適した実用的な距離測定センサが作成されています。

VCSELおよびSPAD

たとえば、STMicroelectronicsは、近接測定用のミニチュアToFセンサ製品を数世代提供しています。これらのセンサは、赤外線垂直キャビティ、面発光レーザー(VCSEL)、および単一光子アバランシェフォトダイオード(SPAD)の配列など最先端の基礎テクノロジに基づいています。

このToFセンサ製品の3つのセンサが、VL53L0CXVL53L1CX、およびVL6180Xです。これらはすべて距離を測定しますが、これら3つのセンサはそれぞれ機能が異なります。

第1世代のVL6180X ToFセンサの距離モードは1つで、数ミリメートルから100ミリメートルまでの近接を測定します(図5)。このセンサのサイズは4.8 x 2.8 x 1.0mmで、視野角は42度です。また、内蔵の周囲光センサで、周囲光の変化を補償できます。

STMicroelectronicsの第1世代VL6180Xセンサの画像

図5:STMicroelectronicsの第1世代VL6180Xセンサの最大距離は100ミリメートルです。(画像提供:STMicroelectronics)

第2世代VL53L0CX ToFセンサの屋内距離は50~1,200mmで、白い対象物に対して機能します(図6)。このセンサのサイズは4.4 x 2.4 x 1.0mmで、視野角は25度です。周囲光により、センサを屋外で使用する場合、最大距離は600~800mmに縮小します。

STMicroelectronicsの第2世代VL53L0CXセンサの画像

図6:STMicroelectronicsの第2世代VL53L0CXセンサの最大距離は1,200mmです。(画像提供:STMicroelectronics)

第3世代のVL53L1CX ToFセンサには3つの距離モードがあります(図7)。周囲光なしの白い対象物に対する短距離、中距離、および長距離モードの最大距離は、それぞれ1,360、2,900、および3,600mmです。強力な周囲光がある場合、短距離、中距離、および長距離モードの最大距離は、それぞれ1,350、760、および730mmです。直観に反し、周囲光が強力な場合、短距離モードの測定距離が最長になります。

VL53L1CXのサイズは4.9 x 2.5 x 1.56mmで、最大視野角は27度です(以下で説明するように、このセンサの視野角は設定可能で、狭くすることができます)。

STMicroelectronicsの第3世代VL53L1CXセンサの画像

図7:STMicroelectronicsの第3世代VL53L1CXセンサの最大距離はほぼ4mです。(画像提供:STMicroelectronics)

これら3つのToFセンサはすべて、センサの制御ポートとしても機能するデジタルI2Cインターフェースを介して1mmの解像度で近接測定値をホストプロセッサに報告します。これらのセンサにはすべてI2Cインターフェースが採用されているため、ホストプロセッサに非常に簡単に接続できます(図8)。

STMicroelectronicsの第3世代VL53L1CXセンサの図

図8:ファミリの初期のセンサと同様に、STMicroelectronicsの第3世代VL53L1CXセンサは、シンプルなI2C接続を使用してホストプロセッサに接続します。(画像提供:STMicroelectronics)

AVDDVCSELおよびAVDD電源製品の非常に特殊なバイパス要件に注意してください。100ナノファラッドおよび4.7マイクロファラッドバイパスコンデンサは、電源のノイズがセンサに侵入して精度を低下させることがないように、できる限りセンサの近くに配置する必要があります。

これらすべてのToFセンサは基本的に1次元です。これらのセンサは視野角内にある対象物の近接性を報告します。複数の対象物が視野角内にある場合、これらのセンサは最も近い対象物までの距離を報告します。単一のセンサでは、片手によるジェスチャの方向を検出できませんが、次のようなシンプルな4つのジェスチャを検出するために使用できます。

  1. 1回タップ(手が下に動いてセンサを「タップ」する)
  2. 2回タップ
  3. 1回スワイプ(手でセンサの視野角を左右に動かす)
  4. 2回スワイプ

1個、2個、またはそれ以上のセンサを使用して複数の次元でジェスチャと動きを検出し、これらのToFセンサのいずれかからジェスチャと動きの情報を得ることができます。ペアになっているToFセンサを使用して、左手から右手および右手から左手への移動も識別できます。

さらに、視野角を選択して絞り込むことで第3世代VL53L1CX近接センサからより多くの情報を取得することができます。これを行うには、I2Cインターフェース経由でセンサに送信されたコマンドを使用してセンサの配列内の個々のSPADを切り替えます。VL53L1CX近接センサのSPAD配列は、16 x 16配列の256フォトダイオードで構成されています。配列の正方形または長方形部分は、アクティブにする必要がある配列内のSPADを囲むボックスの2つの角を指定するソフトウェアコマンドを使ってアクティブにすることができます。アクティブな要素の数を削減すると、センサの視野角が削減されて、センサの関心領域が絞り込まれます。唯一の要件は、4 x 4フォトダイオード配列として少なくとも16個のSPADをアクティブにすることですが、これよりも大きい配列も使用できます。

ToFセンサを使用した設計

設計をすぐに始めることができるように、VL53L1CX近接センサには評価キットP-NUCLEO-53L1A1が付属しています。これには、STMicroelectronicマイクロコントローラに基づくSTM32F401RE Nucleo評価ボードと、マイクロコントローラボード上にマウントされ、2つのVL53L1Xブレークアウトボード(これもキットに含まれます)を受け入れるX-NUCLEO-53L1A1拡張ボードも付属しています(図9)。

STMicroelectronics P-NUCLEO-53L1A1評価キットの画像

図9:STMicroelectronics P-NUCLEO-53L1A1評価キットに付属しているセンサのブレークアウトボードには、ボードに直接取り付けられるV53L1X ToF近接センサが1つ含まれています。このボードは、プラグ式ブレークアウトボードに、さらに2つのV53L1Xセンサを受け入れます。(画像提供:STMicroelectronics)

P-NUCLEO-53L1A1評価キットには、システムソフトウェアとソースコード例も含まれ、開発を迅速に開始できます。STMicroelectronicsは、そのSTM32Cubeソフトウェア開発パッケージ用のTOF距離測定およびジェスチャ検出拡張モジュールも提供しています。これらの拡張モジュールは個々のセンサに固有で、STMicroelectronicsから無料で直接ダウンロードできます。

モジュールは非常に小さいため、これらのSTMicroelectronics ToFセンサは、設計者が計画しているほぼどの場所にも適合できます。創造力をかきたてるいくつかの用途例を示します。

  • ロボット用の一般的な近接センサ
  • タッチレスペーパータオルとソープディスペンサ
  • タッチレストイレと男性用便器フラッシャ
  • タッチレスシンク給水栓
  • ロボット電気掃除機用の壁沿いセンサおよび物体回避センサ
  • ラップトップコンピュータおよびモニタ用の低コストオペレータ存在検出器
  • 小売売店用のシンプルな存在検出およびジェスチャ検出
  • 自動販売機の物理在庫管理
  • 自動販売機の硬貨計数
  • セルフレジ店舗の在庫を自動的に管理するスマートシェルフ
  • ドローン用地上近接検出
  • 屋内ドローン用天井近接検出

2次元ToFセンサまたはステレオカメラおよびニューラルネットワークに基づく近接検出器とは異なり、これらの統合型STMicroelectronics ToF近接センサのコストは比較的安く、幅広い価格帯で販売するために設計されたさまざまな最終製品に組み込むことができます。

結論

近接センシングには光学式や超音波などさまざまなテクノロジを利用でき、これらのテクノロジに基づく優れたソリューションが多数あります。これらの近接検出の中で最も新しいテクノロジの1つがToF(Time-of-Flight)です。ToFでは光子がセンサを離れ、対象物まで移動し、センサに戻ってくるために必要なラウンドトリップ時間を使用して対象物までの距離を測定します。

赤外線エミッタとレシーバおよび光子の移動時間のナノ秒未満の時間測定に必要な電気回路が組み込まれた統合型センサの出現により、このテクノロジをコスト効率良く使用できるようになりました。関連の開発キットを使って、実験を行ったりプロトタイピングを迅速化することもできます。

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著者について

Steve Leibson氏

Steve Leibson氏は、HPとCadnetixでシステムエンジニアを務め、EDNとMicroprocessor Reportで編集長として活躍し、XilinxとCadenceなどの企業では技術ブロガーを担当しました。また、同氏は、「The Next Wave with Leonard Nimoy」の2つのエピソードで技術専門家を務めました。同氏は、33年間にわたって、高速でかつ信頼性の高い優れたシステムを設計技術者が開発することを支援しています。

出版者について

Digi-Keyの北米担当編集者