ゲートドライバの高度な統合により、モータ制御設計のスペースを節約

Digi-Keyの北米担当編集者 の提供

高電力密度かつ高効率の3相ブラシレスDC(BLDC)モータにリチウムイオンバッテリで電力供給することで、コードレスパワーツール、電気掃除機、および電動自転車を開発することができます。しかし、スペースを節約してさらに小型のエレクトロメカニカルデバイスを開発するために、設計者はモータ制御電子機器をより小型化するという圧力にさらされています。

これは単純な課題ではありません。ドライバコンポーネントを小さなスペースに詰め込むのが難しいことは明らかですが、あらゆる部品間の距離が近くなることで、熱管理の問題に加えて、当然のことながら電磁妨害(EMI)の問題も発生します。

モータ制御回路の設計者は、モータ制御システムの最も重要な部品に、高度に統合された新世代のゲートドライバを採用することで、設計のスリム化を図ることができます。

この記事では、適切なゲートドライバを導入する前のBLDCモータの動作、そしてゲートドライバを使用して小型のモータ制御システムに関する設計上の課題を克服する方法について取り上げます。

より優れた電気モータの構築

エネルギー効率とスペースの節約という、市場からの2つの圧力により、電気モータの設計は急速に進化しています。この進化を促している要素の1つがデジタル制御のBLDCモータです。このモータが幅広く活用されるようになった原因は、電子整流の採用にあります。これにより、従来の(ブラシ整流の)DCモータに比べて効率が大幅に改善され、同じ速度と負荷で動作するモータの効率が20%~30%向上しています。

この向上により、電力出力を維持したまま、より小型かつ軽量で静音性に優れたBLDCモータを製造できるようになりました。BLDCモータのそのほかの利点としては、優れた速度対トルク特性、高速ダイナミック応答、ノイズレス動作、速度範囲の改善などが挙げられます。技術者は、大型な従来のモータと同等の機能を備えた小型の電気モータを開発するために、より高い電圧と周波数で動作するモータの設計も追求しています。

BLDCモータの成功に必要不可欠なのは、電子スイッチモード電源と3相入力を実現するモータ制御回路です。この2つにより、モータのローターを回転させる回転磁界が発生します。磁界とローターが同じ周波数で回転するため、このモータは「同期」として分類されます。ホール効果センサはステータおよびローターの相対位置をリレーし、コントローラが磁界を適時に切り替えることができるようにします。逆起電力(BEMF)を監視して、ステータおよびローターの位置が利用可能かどうかを判断する「センサレス」技術も活用できます。

3相BLDCモータにシーケンシャルに電流を印加するための最も一般的な構成は、パワーMOSFETの3つのペアをブリッジ構造で配置したものです。各ペアは、電源からのDC電圧を、モータの巻線の駆動に必要なAC電圧に変換するためのインバータとして動作します(図1)。高電圧アプリケーションでは、一般にMOSFETではなく絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)が使用されます。

デジタル3相BLDCモータ制御の図

図1: デジタル3相BLDCモータの制御には、一般にMOSFETの3つのペアが使用されます。各ペアがモータの1つの巻線にAC電圧を提供します。(画像提供:Texas Instruments

このトランジスタのペアは、ローサイドデバイス(グランドに接続されたソース)とハイサイドデバイス(グランドと高電圧レールの間に存在するソース)で構成されます。

標準的な配置では、MOSFETゲートはパルス幅変調(PWM)で制御されます。これにより、入力DC電圧が変調された駆動電圧に効果的に変換されます。PWM周波数は、予測される最大モータ回転速度を少なくとも1桁上回る必要があります。MOSFETの各ペアは、モータの各位相の磁界を統制します。BLDCの駆動の詳細については、ライブラリの記事「ブラシレスDCモータを駆動し、制御する方法」を参照してください。

電気モータ制御システム

完全なモータ制御システムは、電源、ホストマイクロコントローラ、ゲートドライバ、およびハーフブリッジトポロジのMOSFETで構成されます(図2)。マイクロコントローラはPWMのデューティサイクルを設定し、オープンループ制御に対応します。低電圧の設計の場合、ゲートドライバとMOSFETブリッジは1つのユニットに統合されている場合があります。ただし、高電圧のユニットの場合、ゲートドライバとMOSFETブリッジは分離されています。これは、熱管理が簡単になるだけでなく、ゲートドライバとブリッジに対して異なるプロセス技術を使用したり、電磁干渉(EMI)を最小限に留めたりすることができるためです。

BLDC電気モータの制御回路図

図2: TI MSP 430マイクロコントローラを基盤としたBLDC電気モータの制御回路図(画像提供:Texas Instruments)

MOSFETブリッジは、ディスクリートデバイスまたは統合型チップのいずれかで構成できます。ローサイドおよびハイサイドのMOSFETを同じパッケージに組み込むことの主要な利点は、各MOSFETの消費電力が異なっている場合でも、上部と下部のMOSFETの間で熱の均一化が自然に行われることです。統合されている場合でも分離されている場合でも、トランジスタの各ペアにはスイッチングのタイミングおよび駆動電流を制御するための独立したゲートドライバが必要です。

ディスクリート部品を使用するゲートドライバ回路を設計することもできます。このアプローチの利点は、エンジニアがゲートドライバをMOSFETの特性に適合させ、性能を最適化するよう正確に調整できるということです。デメリットは、モータ設計の高度な経験が必要であり、個別のソリューションを収容するためのスペースが必要であるということです。

そのための代替策を実現するのがモジュール式のモータ制御ソリューションであり、市場では広範な統合ゲートドライバが販売されています。優れたモジュール式のゲートドライブソリューションには以下のような特性があります。

  • デバイスに必要なスペースを最小化するための高度な統合
  • スイッチング損失を低減し、効率を向上するための高い駆動電流
  • MOSFETが最小の内部抵抗(「RDS(ON)」)で動作することを確実にする高いゲート駆動電圧
  • 最悪の状況下でシステムの安定した稼働を実現する高度な過電流、過電圧、および過温度保護

Texas InstrumentsのDRV8323x 3相ゲートドライバのファミリのようなデバイスは、システムコンポーネントの数、コスト、複雑性を低減すると同時に、高効率なBLDCモータの要件に準拠します。

DRV8323xファミリには3つのバージョンがあります。各バージョンには独立した3つのゲートドライバが統合されており、ハイサイドおよびローサイドのMOSFETのペアを駆動することができます。これらのゲートドライバには、ハイサイドトランジスタ向けの高電圧を生成するチャージポンプ(最大100%のデューティサイクルをサポート)、およびローサイドトランジスタを電源供給するためのリニアレギュレータが組み込まれています。

これらのTIのゲートドライバには、必要に応じてローサイドMOSFET全体にわたる電圧を増幅させることができる、検出アンプが組み込まれています。これらのデバイスは最大1アンペアを供給することができ、2アンペアのシンクピークゲート駆動電流を備えています。そして、6~60ボルトの幅広い入力電源範囲を備えた単一電源で動作することができます。

たとえばDRV8323Rのバージョンには3つの双方向性電流センスアンプが統合されています。このアンプは、ローサイドシャント抵抗を使用する各MOSFETブリッジのすべてを対象に、電流レベルを監視します。電流センスアンプのゲイン設定は、SPIまたはハードウェアインターフェースを使用して調整できます。マイクロコントローラはDRV8323RのEN_GATEに接続されているので、ゲートドライブの出力をイネーブルまたはディスエーブルにすることができます。

DRV8323Rデバイスには600ミリアンペア(mA)の降圧レギュレータも統合されています。このレギュレータを使用して、外部コントローラへ電源を供給することができます。このレギュレータは、ゲートドライバの電源または別個の電源を使用できます(図3)。

Texas Instrumentsの高度に統合されたゲートドライバDRV8323Rの図

図3: TIのDRV8323Rのような高度に統合されたゲートドライバは、システムのコンポーネント数、コスト、および複雑性を低減すると同時に、スペースを節約することができます。(画像提供:Texas Instruments)

このゲートドライバには、電源供給不足電圧ロックアウト、チャージポンプの不足電圧ロックアウト、過電流の監視、ゲートドライバの短絡検出、過温度シャットダウンなど、広範な保護機能が搭載されています。

各DRV832xは、わずか5 x 5~7 x 7ミリメートル(mm)の大きさ(オプションに応じて異なります)のチップにパッケージされています。この製品を利用しない場合は、24を超えるディスクリート部品が必要ですが、この製品を利用することでスペースを節約できます。

統合型ゲートドライブを使用した設計

設計者の業務を推進するために、TIはリファレンス設計TIDA-01485を提供しています。この設計は99%の効率性、1キロワット(kW)のパワー段のリファレンス設計であり、10セルのリチウムイオンバッテリで駆動するパワーツールのような用途のための3相、36ボルトBLDCモータを対象としています。

このリファレンス設計は、DRV8323Rのような高度に統合されたゲートドライバを使用し、この電力レベルにおける最も小規模なモータ制御回路の1つを基盤として構成することで、モータ制御設計のスペースを削減する方法を示しています。このリファレンス設計では、センサベースの制御が導入されています(「正弦波制御3相ブラシレスDCモータを使用する理由とその方法」というライブラリ記事を参照してください)。

このリファレンス設計における主要な要素はMSP430F5132マイクロコントローラ、DRV8323Rゲートドライバ、および3つのCSD88599 60ボルトハーフブリッジMOSFETパワーブロックです(図4)。

Texas InstrumentsのTIDA-01485(1kW、99%の効率のパワー段)のリファレンス設計の図。

図4: TIDA-01485は、1kW、99%効率のパワー段のリファレンス設計であり、10セルのリチウムイオンバッテリによって駆動できる、3相、36ボルトのBLDCモータを対象としています。(画像提供:Texas Instruments)

このゲートドライバは高度に統合されたモジュール式ソリューションであり、ディスクリート設計の複雑性の多くを解消しますが、完全に稼働するシステムを作成するには、ある程度の設計作業が必要です。このリファレンス設計は1つの包括的なソリューションを示すことにより、設計者がプロトタイプを計画できるようにするものです。

たとえば、ゲートドライバが正しく動作するには、複数のデカップリングコンデンサが必要です。このリファレンス設計では、1マクロファラッド(μF)のコンデンサ(C13)によって、DRV8323Rの内部リニア電圧レギュレータから供給されるローサイドMOSFETの駆動電圧(DVDD)をデカップリングしています(図5)。ループインピーダンスを最小化するために、このコンデンサは極力ゲートドライバの近くに配置する必要があります。4.7μFの2つ目のデカップリングコンデンサ(C10)では、36ボルトのバッテリからのDC電源入力(PVDD)をデカップリングする必要があります。

Texas InstrumentsのDRV8323Rゲートドライバの応用回路の例

図5: DRV8323Rゲートドライバの応用回路。電磁干渉(EMI)を最小限にするために、トレース長は最短にする必要があります。(画像提供:Texas Instruments)

ダイオードD6は、短絡状態においてバッテリ電圧が低下した場合にゲートドライバの電源を分離するのに役立ちます。このダイオードが重要なのは、このダイオードによって、電圧が短期間低下した場合にPVDDデカップリングコンデンサ(C10)が入力電圧を維持できるようにするためです。

電圧を維持することにより、ゲートドライバが望ましくない不足電圧ロックアウト状態になることが回避されます。C11およびC12はチャージポンプが駆動できるようにするための主要なデバイスであり、やはりできるだけゲートドライバの近くに配置する必要があります。

一般に、実地の設計では主に電磁干渉(EMI)を低減するためにハイサイドおよびローサイドゲートドライバのループ長を最短にしておくとよいでしょう。ハイサイドループはDRV8323 GH_XからパワーMOSFETへとつながり、SH_X経由で戻ります。ローサイドループはDRV8323 GL_XからパワーMOSFETへとつながり、GND経由で戻ります。

スイッチングタイミングの重要性

BLDCモータの性能と効率性の鍵となるのはMOSFETの選択です。MOSFETファミリはひとつとして同じものはないため、必要なスイッチング時間に応じてそれぞれを選択する必要があります。タイミングの誤りがわずかであっても、効率の低下、電磁干渉(EMI)の上昇、モータの故障など、さまざまな問題が発生する可能性があります。

たとえば、不適切なタイミングがシュートスルーの原因となる場合があります。シュートスルーとは、ローサイドおよびハイサイドMOSFETが同時に起動する状態のことであり、壊滅的な短絡の原因となります。そのほかのタイミングの問題には、寄生容量によって引き起こされる過渡現象などがあり、これによってMOSFETを損傷する可能性があります。外部の短絡、ソルダーブリッジ、特定の状態でのMOSFETの機能停止なども問題の原因となります。

TIではDRV8323に「スマート」ゲートドライバという名前を付けています。これは、この製品を利用することにより、設計者はタイミングおよびフィードバックを制御して、こうした問題を低減できるためです。たとえば、このドライバにはゲートドライバを短絡イベントから保護し、MOSFETブリッジのデッドタイム(IDEAD)を制御し、外部パワーMOSFETの寄生的なターンオンから保護するための内部ステートマシンが組み込まれています。

DRV8323ゲートドライバには、ハイサイドおよびローサイドドライバの両方を対象とした、調節可能なプッシュプルトポロジも含まれています。これにより、外部MOSFETブリッジの強力なプルアップおよびプルダウンが実現し、浮遊容量の問題を回避することができます。調節可能なゲートドライバでは、システム動作を詳細に調整するための、ゲート駆動電流(IDRIVE)および持続時間(tDRIVE)のオンザフライの変更がサポートされています(電流制限ゲートドライブ抵抗器は必要ありません)(図6)。

ハイサイド(VGHx)およびローサイドトランジスタ(VGLx)を対象とした電圧および電流の入力の図

図6: 3相BLDCモータの1つのMOSFETブリッジ内のハイサイド(GHx)およびローサイドトランジスタ(VGLx)における電圧および電流の入力。適切なモータの動作と効率のためには、IDRIVEおよびtDRIVEが重要です。IHOLDはゲートを望ましい状態に維持するために使用され、ISTRONGはローサイドトランジスタへのゲート~ソース静電容量がターンオンを誘発しないようにします。(画像提供:Texas Instruments)

ゲート~ドレイン電荷、望ましい立ち上がりおよび立ち下がり時間など、外部MOSFETの特性に応じて、IDRIVEおよびtDRIVEを最初に選択する必要があります。たとえば、IDRIVEが低すぎると、MOSFETの立ち上がりおよび立ち下がり時間が長くなり、高スイッチング損失の原因となります。立ち上がりおよび立ち下がり時間は、各MOSFETのフリーホイールダイオードの回復スパイクのエネルギーおよび時間にも(ある程度)左右されます。このエネルギーと時間は、効率性における著しい低下の原因となる可能性があります。

ゲートドライバの状態が変更されると、IDRIVEがtDRIVEの期間に対して適用されます。この期間は、ゲートの静電容量が完全に充電または放電されるのに十分な長さでなければなりません。原則として、MOSFETのスイッチングの立ち上がりおよび立ち下がり時間の約2倍のtDRIVEを選択するのがよいでしょう。tDRIVEはPWM時間を増やすことはなく、アクティブ期間中にPWMコマンドを受信すると終了することに注意してください。

tDRIVEの期間が終了すると、固定の保持電流(IHOLD)が、ゲートを望ましい状態(プルアップかプルダウンのいずれか)に維持するために使用されます。ハイサイドのターンオン中、ローサイドのMOSFETゲートは、トランジスタのゲート~ソース静電容量がターンオンを誘発することを防止するために、強力なプルダウンの対象となります。

固定のtDRIVE期間により、MOSFETゲートの短絡のようなフォールト状態時にピーク電流時間が制限されます。これにより、エネルギーの転送が制限され、ゲートドライブピンとトランジスタの損傷が防止されます。

まとめ

モジュール式のモニタドライブは、多数のディスクリート部品を不要にすることでスペースを節約し、小型かつ高電力密度の新世代のデジタル制御BLDCモータの利点をさらに強化します。このような「スマート」なゲートドライバには、パワーMOSFETのスイッチングのタイミングなど、複雑な開発プロセスを簡単にすると同時に、寄生容量の影響を最小化し、電磁干渉(EMI)を低減する技術も組み込まれています。

ただし、パワーMOSFETやデカップリングコンデンサなど、周辺機器の回路を慎重に選択する必要があることは変わりません。しかし、すでに紹介したように、主要なモータドライブのベンダは、開発者が独自のプロトタイプの基盤にできるよう、リファレンス設計を提供しています。

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